進行性核上性麻痺の人のリハビリや日常生活における注意点を現役作業療法士が解説
公開日:2024.08.08
文:かな(作業療法士)
進行性核上性麻痺(PSP)はパーキンソン病に似た症状を呈する神経疾患です。
目にする機会が少ない疾患であり、担当したことがなければ詳しい症状や治療法、リハビリ職の関わり方などがわからないという人もいるのではないでしょうか。
この記事では、進行性核上性麻痺の疾患の概要やリハビリ内容、日常生活での注意点について解説します。
目次
進行性核上性麻痺(PSP)とは?パーキンソン病との違いは?
進行性核上性麻痺(以下、PSP)とは、淡蒼球や視床下核、小脳などの神経細胞が脱落して、タウ蛋白が蓄積する神経疾患です。
パーキンソン症候群の1つであり、パーキンソン病と症状も似ていますが、有病率や発症年は以下のように異なります。
進行性核上性麻痺(PSP) | パーキンソン病 | |
---|---|---|
有病率 | 10万人あたり10〜20人 | 10万人あたり100〜180人 |
発症年齢 | 40歳以降、平均60歳代の発症が多い。 | 50〜65歳に多く、高齢になる程発病率は増加。40歳以下で発症する若年性パーキンソン病もある。 |
進行性核上性麻痺(PSP)の症状
PSPの初期症状は、歩行障害(易転倒性・すくみ足)をはじめ、姿勢反射障害や眼球運動障害、構音障害が多い傾向にあり、中期以降で嚥下障害も生じやすくなります。具体的には以下のような症状が見られます。
● 姿勢反射障害……バランスを立て直すのが難しくなる
● 眼球運動障害……眼の動きが悪くなり、特に下を見るのが難しくなる。初期に見られず2〜3年後に出現する場合もある
● 構音障害・嚥下障害……発語はあるものの不明瞭で聞き取りにくい状態になる。飲み込みが難しくなる
PSPは、転びやすくなったことで「なんらかの病気なのでは?」と発症に気が付く場合も多いようです。また、認知面の症状は軽い傾向にあり、見当識障害や記銘力低下が合併しやすい傾向にあります
なお、パーキンソン病の症状は、安静時振戦・無動・固縮・姿勢反射障害の4つが特徴的です。運動症状以外では、自律神経障害や幻覚・妄想などの症状を伴う場合が多いという違いが見られます。
進行性核上性麻痺(PSP)の治療法と予後
2024年6月現在、PSPに根本的な治療法はないとされています。パーキンソン病治療薬を使用して発症初期は効果が見られても、長続きしないと報告されています。
PSP患者のADL低下の進行は速く、発症から2〜3年で車椅子生活に、4〜5年で寝たきりになるという報告が多く見られました。筆者は、機会は少ないながらも、PSPの患者さんと関わる機会がありました。報告されている内容と概ね同程度の進行だと感じました。
一方で、パーキンソン病は治療薬が有効な場合もあり、進行の速さには幅があります。生命予後は平均余命より2〜3年短い程度と報告されており、PSPとの違いは明確です。
進行性核上性麻痺(PSP)の人のリハビリ内容
PSPは、薬物療法での根本治療が難しい疾患です。また「進行性核上性麻痺(PSP)診療ガイドライン2020」によると、PSPに対するリハビリの論文・文献自体が少なく、有効性が高い治療方法の報告もありません。
PSPに特化したリハビリプログラムもないため、症状の進行予防中心に、運動療法や嚥下訓練などのリハビリを行うことになります。
評価に関しては、一般的な身体機能・神経症状などの評価のほかに、「進行性核上性麻痺機能尺度日本語版(PSPRS-J)」があります。重症度の評価などの際に適宜活用しましょう。
運動療法
PSPの運動療法は、症状や病期に合わせて無理のない範囲で行いましょう。一般的に、よく行われるメニューは以下の通りです。
● 歩行訓練……正常に近い歩行の反復練習・スラロームなどの応用歩行練習・すくみ足に対する歩行訓練・トレッドミル
● その他、バランス訓練や筋力トレーニングなど
PSPの特徴として、バランスの立て直しの難しさや、後方への転倒しやすさがあります。安全に配慮して介入しましょう。
嚥下訓練や発声訓練
PSPの病型によっては、発声障害が初期から認められるほか、中期以降は嚥下障害も起こりやすくなります。
嚥下訓練や発声訓練については有効性が報告されているため、症状に合わせて取り入れましょう。
● 発声訓練……声量の改善が報告されている
発声や嚥下はコミュニケーションや食事に関わるため、言語聴覚士と連携しながら進行予防に努めましょう。
進行性核上性麻痺(PSP)の患者さんの日常生活で注意すること
PSPは歩行障害が進行し、転倒リスクが高くなるため、いかに転倒を防ぐかが重要となります。
また、嚥下障害も進行するため、誤嚥しやすくなったり経口摂取自体が困難になったりするため、できるだけ安全に食事が取れるよう日常生活でも注意しましょう。
具体的なポイントを詳しく解説します。
転倒予防を心がける
PSP患者さんは、排泄関連の動作や物を取ろうとした際の転倒が多い傾向にあります。
そのため、以下の対策をして転倒予防を図りましょう。
● トイレ誘導を早めに行う
● 声かけを適宜行う
● 整理整頓して安全に歩行できる環境を整える
環境整備を行うとともに、見守りや声かけによる早めの対応で転倒を防ぐ工夫を実行しましょう。
食事形態を適宜検討する
PSPの中期以降は、嚥下障害が進行し誤嚥しやすくなります。そのため、嚥下機能を適宜評価して、嚥下調整食を導入・変更することが大切です。
しかし、それでも嚥下障害が徐々に進行して経口摂取が困難になるでしょう。その際は、経口摂取を続けるのか、代替栄養を導入するのか検討する必要があります。
ただし、胃瘻などの代替栄養を行っても、唾液や痰といった分泌物による嚥下への影響は避けられません。分泌物の誤嚥で嚥下性肺炎を生じるリスクがあることは念頭に置いておきましょう。
筆者の経験したPSP患者さんは、車椅子生活になったころには嚥下障害がかなり進み、経口摂取が難しくなったために胃瘻造設となりました。適宜、痰の吸引は行っていたものの、唾液の誤嚥を防ぐのは難しく、肺炎を繰り返す結果となりました。このように代替栄養を選択したからといって問題がすべて解決するわけではありません。
メリットとデメリットを考慮したうえで、最適な方法を検討しましょう。
進行性核上性麻痺の人が安全に過ごせるように支援しよう
PSPはパーキンソン病と症状が似ているものの、根本的な治療法がなく、進行が速いという特徴があります。
2024年6月現在、PSPに特化したリハビリプログラムはなく、症状の進行予防を目指した運動療法を行いつつ、環境調整をするのがベターです。症状や病期に合わせた介入をして、患者さんが安全に生活できるよう支援していきましょう。
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参考
パーキンソン病|年病情報センター
進行性核上性麻痺|何秒情報センター
進行性核上性麻痺|宇多野病院
進行性核上性麻痺に使用する重症度評価スケール|新さっぽろ脳神経外科病院
かな(作業療法士)
作業療法士/呼吸療法認定士・福祉住環境コーディネーター2級・がんのリハビリテーション研修修了
身体障害領域で15年以上勤務。特に維持期の患者さんの作業療法、退院支援に携わってきました。家では3人の子ども達に振り回されながら慌ただしい日々を送っています。趣味は読書とお菓子作り。
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