言語聴覚士の国家試験の合格率はなぜ低い?受験難易度や試験内容について解説
公開日:2024.06.20
文:tokoshi(言語聴覚士)
言語聴覚士は、「聞く・話す・食べる」を専門とするリハビリ職種です。しかし、同じリハビリ職である理学療法士や作業療法士と比べると、言語聴覚士になる難易度は高いといわれています。その理由の1つに、「言語聴覚士の国家試験の合格率が低いこと」が挙げられます。
では、なぜ言語聴覚士の国家試験の合格率は低いのでしょうか。本記事では、近年の言語聴覚士国家試験の合格率とともに、合格率が低い理由について解説します。
言語聴覚士国家試験の近年の合格率
まずは、2020年から2024年にかけての言語聴覚士国家試験の合格率をみてみましょう。厚生労働省の発表をもとに、言語聴覚士国家試験の受験者数・合格者数・合格率をまとめました。
<2020年から2024年の言語聴覚士国家試験結果>
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
2024年 | 2,431名 | 1,761名 | 72.4% |
2023年 | 2,515名 | 1,696名 | 67.4% |
2022年 | 2,593名 | 1,945名 | 75.0% |
2021年 | 2,546名 | 1,766名 | 69.4% |
2020年 | 2,486名 | 1,626名 | 65.4% |
2020年から5年間の合格率をみると、受験者数が2500人ほどのなか、合格率は7割程度と考えられます。なお、同じ期間でみると、医療職種である看護師国家試験の合格率は平均90%前後です。このことからも、言語聴覚士国家試験の合格率の低さがうかがえます。
言語聴覚士と理学療法士・作業療法士の合格率を比較
言語聴覚士国家試験の合格率は、同じリハビリ職種である理学療法士・作業療法士と比較しても低い傾向にあります。厚生労働省が公開しているデータをもとに、2024年度の国家試験合格率を、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士で比較しました。
<2024年 各資格の国家試験合格率>
国家試験 合格率 | |
---|---|
言語聴覚士 | 72.4% |
理学療法士 | 89.2% |
作業療法士 | 84.1% |
理学療法士、作業療法士の合格率は80%台ですが、言語聴覚士は70%台と、10%以上もの差が生じています。
言語聴覚士(ST)の国家試験の合格率が他のリハビリ職種より低い理由
前章でお伝えしたように、言語聴覚士はリハビリ職種の中で最も合格率が低い結果となっています。ではなぜ、言語聴覚士は、他職種と比べて合格率が低いのでしょうか。本章では、言語聴覚士の国家試験の合格率が低い理由として代表的なものを2つ紹介します。
理由①試験範囲が広すぎるから
言語聴覚士の国家試験の合格率が低い理由として、言語聴覚士の国家試験の試験範囲が、他のリハビリ職種と比較して広いことが挙げられます。
参考までに、厚生労働省が発表している、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士それぞれの試験科目をみてみましょう。
国家試験 試験科目 | |
---|---|
言語聴覚士(12科目) | 基礎医学、臨床医学、臨床歯科医学、音声・言語・聴覚医学、心理学、音声・言語学、社会福祉・教育、言語聴覚障害学総論、失語・高次脳機能障害学、言語発達障害学、発声発語・嚥下障害学及び聴覚障害学 |
理学療法士(7科目) | 解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む。)、臨床医学大要(人間発達学を含む。)及び理学療法 |
作業療法士(7科目) | 解剖学、生理学、運動学、病理学概論、臨床心理学、リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む。)、臨床医学大要(人間発達学を含む。)及び作業療法 |
上記からもわかるように、理学療法士、作業療法士の試験科目数は7科目ですが、言語聴覚士は12科目と多く試験範囲の広さがわかります。言語聴覚士の国家試験では、各科目の出題数の割合はその年によって変わるため、12科目全てをバランス良く勉強する必要があります。
さらに、リハ職種の国家試験での出題数は200問と同じですが、試験の時間が異なります。理学療法士、作業療法士の試験時間は合計320分なのに対して、言語聴覚士は合計300分とやや短くなっているのです。単純計算で1問にかけられる時間は1分半程度。言語聴覚士国家試験では、知識量だけでなくすばやい判断力や読解力も求められる点も、合格率が低い要因といえます。
理由②歴史が浅く出題傾向が分析しにくいから
言語聴覚士の国家試験の歴史が浅いことも、合格率の低さに影響していると考えられます。言語聴覚士の国家試験は1999年から実施され、2024年の国家試験で26回目です。一方、理学療法士、作業療法士の国家試験は2024年で59回目であり、歴史の違いがみて取れます。
他のリハビリ職種と比べて、言語聴覚士の国家試験に関する参考書や、過去問題の量も少ない状況です。また、国家試験の出題者が変わったり、最新技術や近年流行している感染症に関する出題もされたりするケースがあるため、出題傾向が分析しにくいことも合格率が低い要因として考えられます。
現役生(新卒者)の合格率は高いって本当?
言語聴覚士の合格率は約60%〜70%台と低く、国家試験の範囲の広さや出題傾向の分析のしにくさなどから「言語聴覚士の国家試験は難しい」という印象を受けたかもしれません。しかし、上記の合格率は「新卒者と既卒者」全体のものであり、新卒者だけの合格率だけみると80%台となっています。
つまり、養成校でしっかりと授業を受けて勉強をすれば、そこまで難易度の高い国家試験ではないのです。実際に言語聴覚士の国家資格をもつ筆者も、卒論作成や実習、就活、バイトなどをこなしながら、現役で国家試験に合格しました。
養成校では現役生にかわって、その年の出題傾向も分析し、指導してくれるため、効率よく試験勉強できる環境にあります。カリキュラムに沿ってしっかりと基礎を勉強し、出題傾向をつかむことで言語聴覚士国家試験の合格に近づけるでしょう。
早期から試験対策をすることが合格への近道
言語聴覚士の国家試験の合格率は、他のリハビリ職種と比較して低い傾向にありますが、現役生だけの合格率をみると80%台であり、極端に難関というわけではありません。国家試験日ギリギリまで実習や卒論発表などで忙しいですが、試験科目範囲の基礎をしっかりと勉強していれば、十分に合格は狙えます。早期から試験対策をして合格を目指しましょう。
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tokoshi
言語聴覚士
回復期で失語症と高次脳機能障害を中心としたリハビリ業務に携わる。その後転職し、看取り施設で「最期の食事」を言語聴覚士として支援。現在は訪問リハビリやデイサービスでリハビリをしながらライターとしても活動しています。
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