
洗濯・料理・買物・・・・・・
普段の暮らしでもリハビリの素材になるものはさまざまです。OTの視点から、日常生活動作(ADL)向上をめざして、患者さんの暮らしと動きを考えてみませんか?
第11回思いを残す・伝える。作業療法としての日記
有名スポーツ選手や芸能人が、自分の夢や目標を実現するために日記を欠かさずつけているという話をよく耳にします。著名人が執筆した闘病記録や育児日記は書籍化などにより反響も大きくなりがちですが、私はたとえ誰がどんなきっかけで残した記録でも、どんなに些細な出来事の記録でも、人々を勇気づけるメッセージに変わる可能性を秘めていると思います。
身近なケースでいえば、作業療法実習生のデイリーノート、ケースノートも日記の一つと考えることができるのではないでしょうか。指導者に赤ペンで入れてもらったコメントに対し、自分で調べた内容や考察を書き加え、書き加え…。そのような一つひとつのやり取りを実習後に見返し、あるいは自分が指導者になった時に見返し、私たちは自分の成長を実感することができます。

作業療法場面で日記を活かすアイデア
文芸作品のような日記を綴るのが本来の目的ではありません。書き綴るその過程に様々な意味がもたらされるのです。たとえば、単なる覚書やスケジュール帳のつもりで書き始めたものも、近い将来の目標や反省をふまえて行動する手助けをしてくれたり、過去の自分に励まされ前向きな気持ちになれたり…。日記を書き始めた当初の目的から変化していったという経験はありませんか?
日々の出来事を振り返り言語化する、それらを書き留める作業は思考を整理できるほか、記憶が文字情報として確認できるようになることで、行動のパターンや成功の法則の発見に至りやすくなるのもメリットの一つといえます。
作業療法場面で日記を活用できるシーンは、数限りなくあります。記憶を辿り言語化する作業は、認知機能全般に直接働きかける作業であることは言うまでもありませんし、訓練経過を対象者と一緒に振り返ったり、ご家族と共有したりするためのツールとしても活用できます。
とはいえ、文章を書くことに苦手意識がある対象者がいらっしゃることもあると思います。
そのようなときには、
1.撮影した写真にキャプションをつける
2.絵日記として日々の出来事を残してみる
3.記録を大切な人とだけ共有し交換し合う
といったかたちで実施するのも記憶に残りやすく、おすすめです。
SNSやブログを日記代わりに。作業療法のバリエーション
日々の出来事を「手記」として残すものだけではなく、最近では、ブログやSNSといったデジタルデータとしても記録を残せるようになりました。記録する方法や公開範囲を自由に選択でき、写真や動画を添付できるといった自由度の高さも、作業療法のバリエーションを広げてくれます。また、自分で発信した記録をきっかけに、同じ価値観や興味をもった人と交流できるチャンスがあるのも魅力的です。
しかしながら、この便利さが故に、使いすぎて目を痛めてしまったり、意図しない人とかかわりを持ってしまう可能性についても考えなければいけません。
また、ペンを走らせ文字を綴る、伝えたい、記憶したい出来事を自分で文章にするという人間らしい作業を見る機会がどんどん減っている点も心に留めておきたいものです。
このように、ひとことで日記といっても、様々な書き方・残し方・発信の仕方があります。
いつか大人になった自分の子どもたちに読んでもらいたい記録、不特定多数の人に知ってもらいたい記録、大切な誰かだけに読んでもらいたい記録……。
誰に、どんな思いを伝えるために残す記録なのかを対象者と考え、日記を書いてみるのもよいでしょう。
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中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士。
1998年作業療法士免許取得後、宮城県・福島県内の病院および施設、作業療法士養成校の専任教員等を歴任。
2011年、東日本大震災で被災したことを期に災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足後、二児の母・作業療法士として「病気や障害、災害に負けない心と身体を」をテーマに執筆・講演活動などを行っている。2018年より、学校法人 葵会学園「千葉・柏リハビリテーション学院」作業療法学科教員。
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