手段的日常生活動作(IADL)に…料理の作業特性とその活用
公開日:2018.07.06 更新日:2018.07.20
生活機能の改善・拡大に向けた「料理」
「料理」は、家事動作の中でも難易度の高い手段的日常生活動作(IADL)のひとつとしてよくあげられます。しかし、全体を複数の工程に分けることができ、細やかな段階付け(部分的な練習等)や他のADL課題(掃除・更衣・コミュニケーションなど)との組み合わせも可能です。
生活機能の習得や役割の再獲得に向けた訓練の一環として、作業療法士だけでなく、多くの医療・福祉従事者が現場に取り入れる活動のひとつとなっています。その一方で、幅広い知識・能力を必要とし、経験の有無や内容、役割感、興味・関心など、多くの要素に得意・不得意、やりがいが大きく影響するため、作業療法で扱う場合は、対象者の評価はもちろん、目的に応じた課題の選択・環境の整備など十分に配慮しなければなりません。
【料理〜遂行に必要な要素〜】
買い物 環境整備 |
金銭管理・買い物リストづくり・食材選び・調理場の整理整頓・衛生面への配慮 調理器具の準備 など |
---|---|
献立づくり | 人数や場面に応じた献立づくり・栄養バランスへの配慮 など |
食材の準備 | 包丁の使用・食材の洗浄・皮むき・調味料の準備 など |
調理 | エプロン着衣・鍋の使用・火加減・味付け・十分な加熱・安全への配慮・換気 など |
盛り付け | 量や場面に応じた食器の準備・見栄えの良い盛り付け・適量の配分 など |
配膳・運搬 | 食卓への運搬・箸の配置・献立に応じた食器(取り皿・スプーン等)の準備 など |
食事 | 食を味わう・他者とのコミュニケーション・マナー など |
後片付け | 食器の運搬・洗浄・乾燥・食器棚への収納・調理場の清掃 など |
居場所づくり・地域交流の場づくりとしての「料理」
料理の活用範囲は、病院・施設内の活動にとどまりません。地域住民の方が気軽に寄り合える「居場所づくり」の一環とした料理教室など、世代や障害の種類にかかわらず誰もが自然と集う場づくり(インクルーシブな場づくり)を目指す際にも導入しやすい活動と言えるのではないでしょうか。
地域包括ケアシステムの推進に携わる作業療法士にとっては、異なる生活課題を持つ人々が地域住民の一人として、主体的に活動へ参加する機会を創り上げるための介入・環境整備が今後ますます重要な役割となってくるでしょう。
例えば、災害・緊急時にライフラインが途絶えても、身近にある食材・道具を駆使して作る「サバイバル飯(サバめし)講座」の開催、地域のお祭りで郷土料理をふるまう機会の提供などさまざまなアイデアが考えられます。ただし、不特定多数の人が集まるだけに、安全面・衛生面への配慮は欠かせません。食中毒やガスボンベの設置不備を原因とした火災など、大きな事故に発展する恐れもあるため万全の体制で臨まなければなりません。そのため私たちは、他の専門職や自治体職員、地域住民との連携が不可欠となります。

健康的な食習慣を広める「料理」
料理活動は、食べ物に関する知識や健全な食習慣を身に付けるための「食育」にうってつけの活動でもあります。最近の調査・研究では、子どもの頃に身についた食習慣や生活習慣が大人になっても続く傾向が高く、その影響がうつや心臓病などの生活習慣病の発症リスクを高めるという問題が示唆されていることからも、子どもから大人、高齢者まで幅広い視野を持ち、地域住民の暮らしに寄り添った介入を心がけることが大切です。
地域住民を対象とした料理活動を通じ、住民が抱える社会的問題に直面することも少なくありません。国立社会保障・人口問題研究所が2012年7月に実施した「生活と支え合いに関する調査」報告によると、過去1年間に食料を買えないなどの経験を持つ世帯は、前回調査と比べ減少しているものの、厳然として存在します。日本国内においても世帯構成(単独男性世帯、ひとり親世帯など)や所得、地域によっては食料の購入に苦労している人たちがいます。
みなさんの身近な地域ではどうでしょうか? 私たちが暮らす地域全体を見つめ直し、地域の人とどのようにつながり、人と人が支え合う暮らしをつくるか。作業療法の枠を超えて、今一度考えてみるのも良いかもしれません。
生活機能訓練から地域での居場所づくり、地域課題へのアプローチなど、「料理」というひとつの活動を通じ、さまざまな広がりをもつことができます。作業療法の対象者さんを取り巻く人や資源、地域社会とのつながりを意識しながら作業療法を展開していきましょう。
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