介護医療院とは(後編)
期待される理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
公開日:2019.03.22 更新日:2019.04.15
2018年に創設された「介護医療院」。「最期まで入居できる」ことが注目されがちですが、その本来の機能は医療を必要とする高齢者の生活機能支援であり、自立・参加・地域との交流を目指した「住まい」という性格が特徴です。
そこではどのようなリハビリテーション(以下リハビリ)が求められ、療法士(セラピスト)には何が求められるのでしょうか。2回目は介護医療院でのより具体的なリハビリ像に迫ります。
所属:2019年3月現在 対談中敬称略
リハビリテ-ション料を算定できる介護施設
――介護医療院の介護報酬は、介護療養型医療施設の診療報酬とはどのように異なるのでしょうか。
鈴木「従来介護療養型医療施設で加算されていた項目のほかに、介護療養型医療施設では認められていなかった新たな加算も設けられています。転換に伴って算定できる項目(移行定着支援加算、重度認知症疾患療養体制加算など)、他の介護施設と同様に加算できる項目(排泄支援加算、低栄養リスク改善加算)、他の介護施設と同様に要件が見直された項目(栄養マネジメント加算、口腔衛生管理加算、療養食加算など)があります。管理栄養士さんや歯科衛生士さんの仕事がやりやすくなりますね。また、介護施設と同様『身体拘束廃止未実施減算』という減算項目も新設され、身体拘束の適正化が促されています。介護保険では原則として身体拘束は廃止されていますが、平成30年度の介護報酬改定以降は要件を満たさない身体拘束に対して10%の減算になります。」
――リハビリに対する評価はいかがでしょうか。
鈴木「介護医療院は『特別診療費』としてリハビリを算定できます。つまり、介護保険上の在宅施設でありながら、介護療養型医療施設と同様にリハビリができるということが重要なポイントです。特に入所後3カ月以内のみ認められる『短期集中リハビリテーション加算』は240単位が算定でき、医療型療養施設よりも集中したリハビリが提供できます。通常算定するリハビリについては理学療法、作業療法は123単位、言語聴覚療法は203単位と回復期リハビリ病棟と比べると半分程度と少ないです。また、4カ月を超えた11回目以降からは所定単位数の70%の算定となります。しかし、専従の療法士を2名置けば、それぞれ35単位が加算されます。」
――ところで介護医療院は2つの類型に分けられています。類型Ⅰは従来の介護療養病床相当以上の利用者が対象です。類型Ⅱは老人保健施設相当以上の比較的軽症の利用者となります。ⅠとⅡでは医師や薬剤師の配置数に約2倍の差があり、類型Ⅰは当直医も必要です。しかし看護師、介護職員、療法士についてはⅠ、Ⅱとも同等で病院との兼務も可能です。そして、いずれも療法士の人数規定はなく「適当数」と規定されているのみです。
鈴木「実際の配置人数は病院によって異なると思います。当院には約200名の療法士が在勤していますが、それでも介護医療院の専従者数はPT1名、OT1名、ST0.5名となる予定です。リハビリによほど注力する施設なら2名のスタッフを置くケースも出てくるでしょうが、病院経営面から見ると専従スタッフ2名をおくのはなかなか難しいと思います。35点という加算が報酬として適正なものか、それによって施設の経営がちゃんと成り立つのかどうかについての検証も必要です。」
リハビリは回復期だけのものではない
――ところで、鶴巻温泉病院は1979年に設立され、30年以上にわたってリハビリに注力してきたことで知られています。現在も、583床に対して理学療法士が99名、作業療法士が60名、言語聴覚士が29名という体制です。
鈴木「リハビリは“人間らしく生きる権利の回復”と考えております。それは必ずしも失われた機能を再生するだけではありません。例えて言えば、オリンピックには出られなくなったけれど、パラリンピックに転じるなど、別の機能に置き換えて再び社会参加することが大事だと考えています。QOLは人生への満足度。それに加えてEnjoyment of Life=EOL の提供、患者さんたちにリハビリの楽しさを感じていただきたいと思っています。またリハビリは回復期だけではない、と考えています。全ての病棟に療法士(セラピスト)を配置しており、緩和ケア病棟も例外ではありません。緩和ケア病棟の患者さんにとっては、患者さんの希望をかなえることがリハビリなのです。患者さんもご家族も、緩和ケアに入ると自宅にはもう帰れないと思っている方が多いのですが、私たちは『帰れる緩和』を実践しています。末期の患者さんであっても一時的にご自宅に帰ってお孫さんやペットと会えるのは、ご本人はもちろんご家族にとっても嬉しいことです。病棟でお誕生会をやったり、結婚式を挙げたこともあります。当院は温泉病院ですので、温泉や足湯で気持ち良さを味わっていただくこともできます。」
利用者が「したいこと」をかなえる
木村 達 鶴巻温泉病院リハビリテーション部長
――では、介護医療院でのリハビリテ-ションとはどのようなものになるのでしょうか。鶴巻温泉病院リハビリテーション部長の木村達さんにも加わっていただきお話をうかがいました。
鈴木「維持期のリハビリですので、端坐位の保持や、拘縮・褥瘡予防といった身体機能の維持の他に、日常生活の満足度を上げられるよう、摂食、排せつ、入浴を3大リハとして注力します。お花見、コンサート、クラブ活動など参加型のリハビリテーションも提供します。地域に開かれた公開講座など、地域との交流も企画します。機能回復よりはQOL、生活満足度の向上が目的です。」
木村「その方の趣味や関心に合った『したいこと』『やってみたいこと』あるいは『今までご自宅でやっていたこと』を介護医療院という生活空間の中でかなえてあげることがリハビリの役割だと考えています。読書が好きな方であれば、読める環境を作ってあげるなど、身体や環境、読むという作業を通じて支援することが療法士の役割です。本来の生活期リハビリは身体機能だけのリハビリに終わってはいけないと思うのです。その意味で、介護医療院でのリハビリは療法士の真骨頂だと考えています。」
――在宅施設である介護医療院でも、アウトカムは求められますか?
木村「現在は通所系もアウトカムが求められていますし、介護保険も“量から質へ”と変わってきているので、何らかのアウトカムは必要になると思います。指標としては介護施設で使われている Barthel Index(BI:バーセル指数)が検討されているようです。病院では従来から使っているFunctional Independence Measure (FIM:機能的自立度評価表)の方が使いやすいのですが…。」
介護医療院に期待される療法士像とは
――最後に、介護医療院に求められるセラピスト像をお聞かせください。
鈴木「私は日本医療機能評価機構のサーベイヤーを務めているのですが、病院機能評価には『必要なリハビリがきちんと提供できているか』という項目があります。多くの病院がリハビリ機能の強化を図っているものの、患者さんに必要なリハビリが医師の処方に全てリストアップされているとは限りません。そこで私はさまざまな病院のリハビリセラピストの皆さんに、『療法士が必要だと思うことを積極的に医師に提案しているか?』『何が足りないと思うかを伝えているか?』と尋ねています。医師の処方に不足しているところをリハビリ目線できちんと見てくれて、主治医にうるさがられようと(笑)必要なことは進める。それが療法士本来の役割だと思っているのです。介護医療院でも、何もかも医師だけが決めるのではなく多職種が平等に意見を出し合い皆で考えて取り組んでいくチーム医療が非常に大事です。当院でも私は療法士から積極的な提案をしてもらえることがとても嬉しいし、どんどんやってもらいたいですね。」
木村「介護医療院では、いかにその方らしい日常生活を、その方に合わせた形で提供できるかが大事。その方が今まで行ってきたことややりたいこと、興味や関心があることを通じてその人らしさを追求できるセラピストが必要になります。また、介護医療院は在宅復帰、長期療養、そして、看取りまで担う施設です。その方のさまざまなニーズ把握と支援、今後はACP(アドバンス・ケア・プランニング=人生会議)の関わりも考えなければならないため、コミュニケーション力は非常に重要です。ただ、(若いセラピストが育ってきた)現代社会のコミュニケーションの現状とのギャップもあるので、療法士のコミュニケーション力を高める教育の必要性を感じています。」
心から「ありがとう」と言ってもらえる仕事
――最後に、鈴木会長からセラピストの皆さんへのメッセージをお願いします。
鈴木「療法士は大変だけれど、患者さんやご家族から心から『ありがとう』と言ってもらえる仕事です。当院には『病院賞』という年に1回の表彰制度があります。退院した患者さんにアンケートをお願いして、表彰したいと思うスタッフを1人だけ推薦してもらい、名前の多く上がる人を『CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)賞』として表彰しています。患者さんの200票くらいの回答のうち約8割で療法士が推薦されています。セラピストは本当に人気なのです。皆すごくよくやっているし、そもそも患者さんと長い時間接していますから仕事柄、得なんです(笑)。時間で言ったら医師なんか特に短いですから(笑)。」
――どうもありがとうございました。(終)
鈴木龍太(すずき りゅうた)
介護医療院協会会長
- 1977年
- 東京医科歯科大学医学部卒業
- 1980年
- 米国 National Institutes of Health (NIH) NINCDS Visiting fellow
- 1995年
- 昭和大学藤が丘病院脳神経外科 助教授(准教授)
- 2009年
- 医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院 院長(現職)
- 2015年
- 医療法人社団 三喜会 理事長兼務(現職)
- 2018年
- 日本慢性期医療協会 常任理事(現職)
- 2018年
- 日本介護医療院協会 会長(現職)
- 日本リハビリテーション学会専門医・指導医
- 日本脳神経外科学会専門医
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