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アウトリーチ支援とは?作業療法士の役割とやりがい

公開日:2022.10.13 更新日:2022.12.08

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文:鎌田康司(作業療法士)

近年では医療・福祉の分野でさまざまな「出前型」のアウトリーチサービスが充実してきており、今までなかなか支援が行き届かなかった方にも、必要なサービスが提供できるようになりました。
ここではアウトリーチ支援について、サービスの内容や作業療法士の業務と役割、アウトリーチ実践を行うなかで筆者が心がけていることなどをご紹介していきたいと思います。

アウトリーチ支援とは

アウトリーチ(outreach)とは、「手を差し伸べる、手を伸ばす」といった意味で、医療福祉の支援が必要であるにも関わらず支援が行き届いていない人に対し、医師や看護師、作業療法士、理学療法士などの専門職や、行政機関、福祉などのチームが積極的に働きかけ、訪問などの手段で支援を届けることで地域での暮らしを支えていく方法のことをいいます。

アウトリーチ支援が必要のない方は、自分で医療機関を受診したり、サービスを利用したりすることができますが、それが難しい方に対し必要なサービスを届けるのがアウトリーチ型の支援の在り方といえます。

アウトリーチ支援を行っている主なサービスや内容

それでは、さっそく実際に出前型としてアウトリーチ支援を行っているサービスについて、3つご紹介したいと思います。

訪問診療、往診

医師が行うアウトリーチ支援には、訪問診療と往診が挙げられます。どちらも医師に病状を診てもらう点では変わりはありませんが、訪問診療とは毎週〇曜日の〇時など事前に約束をしたうえで、計画的な診療を行うサービスです。一方往診は、突発的な事情によって要請を受け、医師がその都度診療のために足を運ぶ臨時の訪問支援を指します。

訪問看護

訪問看護は病院の看護師が訪問をするものと、独立した訪問看護ステーションから看護師が派遣されるものがありますが、いずれも在宅で生活を送っている方に対し、医師の指示のもと、病状などの健康状態の評価、服薬管理・指導、生活相談や関係機関との連携などの看護を実施します。

訪問リハビリテーション

主に高齢者の要介護者を対象とし、医師の指示のもと、病院や診療所、介護保険施設などのリハビリスタッフが自宅に訪問し、自宅での生活に必要な心身機能の維持回復のリハビリを提供することをいいます。

上記のほかにもさまざまなアウトリーチ支援が存在しており、高齢化に伴い自宅で生活をしている高齢者が増加したことや、住み慣れた自宅で最期を迎えたいと願う方のための在宅看取りなど、アウトリーチ支援のニーズは増加傾向にあります。

筆者が勤めている精神科でも、精神的な理由で通院がおろそかになってしまう方への訪問診療や、副作用などの理由で薬を飲みたくなくなってしまう方の服薬管理・指導、生活相談が訪問看護で行えるようになったことは、病状や体調を維持していくためにはとても重要であると感じています。

アウトリーチ支援での作業療法士の役割

このようなアウトリーチサービスのなかで、作業療法士もチームの一員として活躍しており、訪問看護ステーションで、看護スタッフと連携を取りながらリハビリを提供する作業療法士が多くなったと感じています。

作業療法士としての役割は、実際の生活場面や環境に赴くことができるアウトリーチ支援の特徴やメリットを活かし、よりその方の生活や暮らしについて必要な評価や訓練を行うことです。

筆者は以前、訪問看護ステーションで勤務をしていました。日にもよりますが、1回30分~1時間ほどの訪問が1日5、6件ありました。筆者は精神科の訪問看護だったため、バイタルサインのチェックや体調についての聞き取り、服薬管理のほか、必要な方には外出支援や、心理教育、復学や復職、福祉などの他サービスへの橋渡しを行っていました。

高齢者を対象とした場合には、身体機能や認知機能の維持・向上のために必要な訓練のほか、生活に必要な動作訓練や福祉用具の選定などの支援をご自宅で行っています。

アウトリーチ支援に携わる作業療法士のやりがい

アウトリーチ支援を行ううえでの、作業療法士としての一番のやりがいは、やはり対象者やそのご家族が望む生活が送れることだと思いますが、日々の変化に一喜一憂できることも大きいです。

できなかったことができるようになることもありますし、できていたことができなくなってしまうこともあります。また、対象者だけでなくご家族の状況の変化も、いつどのように起こるかわかりません。

そのため週に1・2回お会いしたときには、対象者の発言や表情、動作、家の中の状況などにアンテナを張り、変わっていることはないか、何か変化があった場合は、その理由や根拠を検討していく必要があります。訪問は多くの場合で1対1の関わりのため責任は大きいですが、その分変化を感じやすく、結果的にやりがいにつながっていると思います。

アウトリーチ支援の対象者にとってのメリットデメリット

一番大きなメリットは、自分が行かなくても自宅に来てくれることだと思います。病院に行って医療を受ける場合、交通機関を使って病院まで赴いたうえに待ち時間があるなど、時間と労力が必要になります。病気や症状が重い方ほどこれらのことが難しくなります。

医師や看護師、リハビリ職などの専門職からの支援を自宅で定期的に受けられ、体調が悪化した時には相談したり臨時に訪問したりしてもらえるのは、対象者の方にとっては心強いといえるでしょう。

また、病院などの医療機関にかかったとき、スタッフに相談したいことが伝えられずに終わってしまった経験がある方も少なくないでしょう。理由の1つは、病院や施設の独特の雰囲気や環境にあると思います。

精神障害者の方のなかには、病気や症状が悪化して本人の意図に反して入院することがあります。この場合、「下手なことを言ったら入院させられてしまうかも」と心配して、飲んでいる薬や症状で気になることがあっても、ありきたりな受け答えで診察を終えてしまうことがあるかもしれません。

このような状況が続くと、結果的に薬を飲むのをやめてしまったり、調子を崩してしまったりします。ところが、自分の生活の場に来てもらうアウトリーチ型の支援であれば、自分のホームグラウンドなので、相談しやすくなるはずです。その結果、信頼関係が構築しやすくなるのもアウトリーチ型のメリットといえます。

デメリットは、予定の曜日や時間に自宅にいなくてはならないこと、自分のプライベートなことを知られてしまうことがあるかもしれません。
また、家族や支援者の意向で開始となった場合は、「来てほしくない」と思っている方もいるかもしれません。支援者としてはそのような方がいることも想定しながら、配慮をしていくことが大切です。

アウトリーチ支援で筆者が心がけていること

アウトリーチ支援に現在も携わっている筆者が、普段心がけていることについて2つご紹介をしたいと思います。

1つ目は、得られた情報やアセスメントを整理し、その方の支援に役立つものを活用していくことです。
アウトリーチで訪問すると、さまざまな情報を得ることができます。
壁にポスターが貼ってあれば、好きな歌手やアイドルを知ることができ、流れている音楽で好きな音楽のジャンルも知ることができます。テーブルの上に置いてあるもので食べ物の好みを知ることもできます。

そのような自宅内のさまざまな情報にアンテナを張り、「その方を知る=アセスメント」を重ねていくことを心がけています。
得られた情報のなかには、時には何かの兆候や、支援のヒントになるものも多くあります。情報を整理し、支援に活かしていくことが大切です。

2つ目は、訪問前の準備と訪問後の状況報告や連絡に時間を設けることです。
訪問前の事前準備として、前回までの状況を把握することや、その日の訪問で行うこと、目的などを確認します。
訪問後には次の訪問者にその日の状況がわかるように、記録・申し送りのほか、必要な情報を関係機関へ報告・共有します。訪問中の支援ももちろん重要ですが、前回からの流れを把握し、必要なことを事前に確認・準備し、次回の訪問につなげていく流れを断ち切らないことは、それと同じくらい重要であると考えています。

慣れてきたり時間に追われると、怠ってしまったり後回しになってしまうこともあります。刻一刻と変わる状況に対してタイムリーに対応していくためにも、これらのことをしっかりと丁寧に行うことが大切であると考えています。

アウトリーチ支援は働き方の選択肢を増やした

ここまで、訪問での支援を中心にアウトリーチ型の支援についてお話をしてきましたが、なによりも、このような支援を選べるようになったことが重要だと感じています。
対象者の方はもちろん、支援者としても病院や施設での勤務だけでなく、アウトリーチ支援に携わるという働き方の選択肢が増えました。人によっては、それぞれ向き不向きがあるかもしれませんが、この記事をきっかけに、少しでもアウトリーチ支援の理解が深まり、興味を持っていただけたらうれしく思います。

鎌田 康司

得意分野は精神科、高齢者、訪問看護、障害福祉サービス、施設マネジメント、地域ケア。
介護老人保健施設で勤務後、精神科単科の病院で院内作業療法を経験。患者さんの実生活を知るため、地域の訪問看護ステーションに転職。今は生活訓練という障害福祉サービスの管理者として、精神障害や発達障害、知的障害の方たちの地域生活のサポートをしている。3人の子どもがおり、子育てと家事にも奮闘中。

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