【腰痛改善】コルセットの効果とは?注意点やデメリットも解説
公開日:2016.11.14 更新日:2024.01.11
文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
今回は、セラピストがリハビリテーションの現場で関わることも多い「腰痛」について解説します。腰痛改善や予防の目的でコルセットを使用するケースもありますが、コルセットにはさまざまな種類があるため、正しい知識を持つことが求められます。
腰痛に対するコルセットの効果や使用時の注意点、腰痛改善のトレーニングなど、詳しくご紹介します。
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目次
腰痛の対処方法は急性と慢性で異なる
急性腰痛で短期間で疼痛が軽快する場合
疼痛の減少に合わせて活動を再開します。疼痛が消失した後もトレーニングを行う、腰痛の原因と思われる活動の内容や行動を変容するなどにより、腰痛を予防するための行動が必要です。
慢性腰痛の場合や腰痛以外の症状(下肢の放散痛・シビレ、下肢の筋力低下、発熱など)を認める場合
整形外科を受診し、検査や診断に基づいた治療を受けることが必要です。
若年者でもヘルニアや腰椎分離すべり症などを認めることがあります。高齢者においては、脊椎の骨折・変形、脊柱管狭窄症などを伴うことが多く、自己の判断のみでの管理にはリスクがあります。
コルセットの種類
腰部周辺に装着する体幹装具にはいくつかの種類があります。
部位・装着する場所(装具の高さ・幅)では、さまざまな種類や目的に分類されます。
順番に見ていきましょう。。
・腰仙椎装具 lumbo-sacral orothosis: LSO
・仙椎装具 sacral orothosis: SO
強度からは、以下のように分類されます。
硬性装具 | プラスティックで使用者の体の輪郭にフィットした装具で、ギプスで採型して作製 |
---|---|
半硬性装具 | 背部が金属の支柱(側方の支柱や横バーなど)で、腹部がナイロンメッシュキャンパスなどの軟性の素材で構成。体型の寸法を測定して作製する。 |
軟性装具 | ナイロンメッシュキャンバスや伸縮性の素材とマジックテープで構成。金属支柱が一部使用されている装具もある。体型の寸法を測定して作製する。 |
上記を見てわかる通り、コルセットにはさまざまな種類が存在しており、目的などによって使い分けることが大切です。
一般にコルセットは、腰椎部分の軟性装具を指すことが多いですが、硬性装具も含むこともあります。そのため、本稿では、腰椎周囲に使用する体幹装具全体をコルセット(本文以降、体幹装具をコルセットと称する)として扱います。
コルセットを装着することの目的・効果
次にコルセットの主な目的・効果は以下の通りです。
・固定、動きの制限(腰椎の屈曲、伸展、側屈の制限できる方向は多様)
・姿勢、変形の矯正
・機械的負荷の軽減
・腹圧を高めること
・不安感の減少
・保温 など
腰痛に対してコルセットは、疼痛が発生している部位を固定して、局所の安静を図り、姿勢の矯正、機械的負荷を軽減し、動作の際の腹圧を高めることなどにより、疼痛の軽減効果が期待されます。
装具の高さが高く幅が広いほど固定される範囲が広く、硬性装具ほど固定性が高くなります。脊椎の骨折などの外傷後、固定術などの手術後などで、その部位や範囲に応じて体幹の運動を一定期間制限する際には硬性のTLSOが使用されます。
その場合には、時期によって夜間の睡眠時も含めて24時間装着するように指示されます。
医師の処方により作製されるコルセットは、前述したように個人毎に採型・採寸して作製されますが、軟性装具では、いくつかのサイズが、腰椎サポーターなどの名称で、ドラッグストアなどで市販されている製品もあります。
素材、その伸縮性、幅、吸湿性、スポーツ用などいろいろな種類の製品が販売されています。
コルセットの腰痛に対する効果は病態によって異なる
コルセットの腰痛に対する効果については、その病態や時期によって異なります。
急性腰痛の場合には、コルセットの装着による即時的な腰痛の減少もあり、効果は認められます。
また、腰痛の強い時期にコルセットを使用することにより、日常生活で動くことができる点は有用ですが、そのような時期は原則として安静が望ましいため、コルセットを使用していても、活動する時間や内容は制限し、腰痛の軽減を待ってから、通常の活動を再開することが必要です。
ただ、過度に安静を続けることは不要で、安静期間はできるだけ短くして、コルセットの使用や活動の内容を修正しながら、活動を徐々に実施するほうが良いでしょう。
なお、慢性腰痛に対するコルセットの効果については、短期間の機能の改善を示す報告はありますが、復職に対する有効性を含めて、その効果は一貫していないようです。
腰痛予防ではコルセットの直接的な効果は認められていない
また、対人介助や重い荷物を運ぶなど職業性腰痛の予防についても、その有効性は明確ではありません。しかし、作業時にコルセットを使用することで、固定感、安心感、安楽性など、主観的な効果が得られることもあります。
コルセットの正しいつけ方
コルセット使用する際は正しく装着することが大切です。
正しい付け方について、大きく3つをまとめましたので、コルセットを付ける際は参考にしてみてください。
1.コルセットを装着する位置
コルセットは、下端が骨盤にかかるように下方に装着します。下すぎると股関節の運動を制限するため、その制限が少ない範囲でできるだけ下方が良いでしょう。コルセットは、活動により上方へずれてくることが多いので、1日に数回、装着し直す必要があります。
2.コルセットを装着する際の強さ
装着する際の強さは、運動の制限や脊椎の固定、腹圧の増加のために、適度にきつく装着します。
立位で、過度に脊椎が屈曲や伸展をしない、望ましい姿勢で、さらにお腹を凹ました状態で、ぴったりと装着すると良いでしょう。状況によっては、背臥位(仰向け)で、ある程度腰を伸ばした状態で装着することもあります。
3.コルセットを装着する時間
装着する時間は、多くの場合は日中活動している時間帯です。コルセットを使用して腹圧を高めることで、いろいろな作業が楽に実施でき、ある程度の腰痛予防の効果も期待できます。活動していない時間帯や夜間の睡眠時はする必要はありません。
脊椎の外傷後や固定術などの手術後などにおいては、長期にわたって、24時間の装着が必要な場合があります。医師から指示・処方された場合には、その内容を遵守します。
コルセット装着の注意点
コルセットを使用する際は、なるべく長時間使用しないようにしましょう。
長期間のコルセットの使用は、脊柱の動きを過剰に制限し、可動性・柔軟性の低下や体幹周囲の筋力が低下することが懸念されます。
この点についても現時点で十分な科学的な根拠はありませんが、身体を維持するためにはいろいろな運動を行うことが望ましいため、必要のない時間帯は装着しない方が良いでしょう。
「腰痛」を訴える人は非常に多い
腰痛を訴える人は非常に多く、2019年度に厚生労働省が実施した「国民生活基礎調査」 では、有訴率は男性で91.2人(人口千人あたり)で第1位、女性は113.3人で第2位。また、腰痛での通院者率では、女性が54.4人で5番目に多い傷病となっています。
腰痛を有する人はコルセットを使用していることが少なくありません。コルセットとは、体幹装具の一種であり、腰痛の原因や状態により、その効果は異なります。
腰痛の原因と病態
腰痛は、腰部(体幹後面の第12肋骨から殿溝下端の間)に1日以上続く痛みで、下肢への放散痛を伴う場合と伴わない場合があります。
一般に、発症から4週間未満を「急性腰痛」、4週間以上・3ヶ月未満の腰痛を「亜急性腰痛」、3ヶ月以上続く腰痛を「慢性腰痛」といいます。腰痛の主な原因を表に示しました。
表 腰痛の主な原因
脊椎とその周辺が原因となることが多いですが、神経、血管などが原因となる場合もあります。
また、これらの原因や病態として、原因や診断法が確立している腰痛の他に、まだ現時点で診断や治療法が確立していない腰痛があります。それらを「非特異的腰痛(non-specific low back pain)」といいます。
ぎっくり腰は非特異的腰痛として扱われることも多い
不意の動作、特に脊柱をひねる動作で急に起こる腰痛を「ぎっくり腰」といいます。
これは「腰椎捻挫」ともいわれ、背部の筋の微細な肉離れ(筋の部分断裂)による局所の炎症を生じることが多く、筋・筋膜性腰痛とされますが、損傷部位が不明確な場合もあり、非特異的腰痛として扱われることも多いです。
ぎっくり腰の多くは急性腰痛で、安静など適切に対応することにより数日で腰痛は軽快します。
しかし、椎間板や脊椎の骨・関節などの異常所見を伴うこともあり、繰り返し痛みがあったり、3ヶ月以上痛みが続く慢性腰痛になったりすることも。そのような場合には、病院を受診し、検査・診断を受けることが勧められます。
市販されている「腰椎サポーター・サポート」と言われる腰部の体幹装具は、このような、ぎっくり腰、筋・筋膜性腰痛、あるいは非特異的腰痛に対して用いられることが多くなっています。
腰痛の改善や予防のためのトレーニング
(1)腰痛改善・腰痛予防に対するトレーニングの必要性
非特異的腰痛の”急性腰痛”に対して
安静期間をできるだけ短縮し、通常の活動を早期に再開することが望ましいとされています。このような状態に対するトレーニングの効果は明確ではありません。
非特異的腰痛の”慢性腰痛”に対して
様々な運動によるトレーニングで有効とされています。ただし、脊柱管狭窄症や手術後など、特異的な腰痛に対しては、医師の指示のもとにその時期や状態に応じて、トレーニングを実施します。
また、腰痛の予防に対してはトレーニングは有効とされています。
(2)腰痛改善・腰痛予防のトレーニングの方法
非特異的腰痛の慢性腰痛および腰痛の予防のための、一般的なトレーニングについて、説明します。
腰痛体操
腰痛体操ではWilliams体操(主に屈曲体操)とMcKenzie体操(主に伸展体操)が代表的で、筋力強化(腹筋、殿筋、体幹筋)、脊椎・骨盤の可動性の改善、筋の伸張性の改善、体幹・下肢の運動の改善が主な目的です。
ストレッチング
筋肉をほぐして柔軟性を高めるストレッチは、痛みの軽減、予防の効果が期待できます。腰痛の場合は、腰背部・殿部、大腿後面筋(ハムストリングス)、腸腰筋に対して主に行います。
筋力トレーニング
筋力トレーニングは、腹筋、背筋、殿筋を中心に行い、骨盤の後傾運動も含めて行います。
体幹(腰椎)安定化運動
腹部や腰背部の体幹筋の筋力トレーニングにもなる、体幹(腰椎)安定化運動は重要です。
体幹筋には、腹直筋や背筋(脊柱起立筋)などの表面にある比較的長さの長い筋であるアウターマッスル(グローバルマッスル)と、腹横筋や多裂筋などの深部にあるインナーマッスル(ローカルマッスル)があります。
続いて腰痛改善や予防が期待できる「インナーマッスルの収縮を強化して体幹を安定させる運動」を紹介します。
インナーマッスルの収縮を強化して体幹を安定させる運動
Draw-in(ドローイン)とBracing(ブレーシング)
Draw-inは、腹部を凹ませた状態を10秒から30秒程度維持する運動です。背臥位、座位、立位などいろいろな姿勢で実施でき、主に腹横筋に対するトレーニングです。逆に腹部を膨らませてその状態を維持するのがBracingで、周囲の体幹筋全体に対するトレーニングになります。
Bracing(Plank)<ブレーシング(プランク)>
腹臥位で肘とつま先を床に支持して、胸部・腹部・骨盤・下肢を浮かした状態で、数十秒から数分維持するトレーニングです。
手掌とつま先、手掌と膝など、床に支持する点を変えて行うこともあります。背臥位で肘と踵で支持して背中を浮かすBack Bridge(Reverse Plank)<バックブリッジ(リバースプランク)>、側臥位で下側の肘と足で支持して胸部・腹部・骨盤・下肢を浮かすSide Bridge(Side Plank)<サイドブリッジ(サイドプランク)>などもあります。
基本的に空間に浮かした身体を真っ直ぐにして保つことが重要です。
これらの運動は、体幹や下肢などの関節の広い範囲の急激な運動を伴わないため、比較的安全に実施できることが特徴です。どのようなトレーニングでも、腰痛が発生する場合や腰痛の程度が悪化する場合には中止し、腰痛を伴わない範囲で実施することが必要です。
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参考文献
日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,腰痛診療ガイドライン策定委員会編集:腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)、南江堂、2019
臼田 滋
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授。
群馬県理学療法士協会理事。
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。
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