患者さんにリハビリを拒否されたら~中堅作業療法士が経験談を披露~
公開日:2023.05.29 更新日:2024.01.11
文:宮木美智香(作業療法士)
国家試験に合格して社会人になると、学生のときとは違いさまざまな患者さんと接する機会があります。
夢をもって患者さんを少しでも元気にしたいと意気込む方がほとんどかと思いますが、実際に働いてみると、リハビリを拒否されることがあります。そのような場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
今回は、私の経験を紹介させていただきます。少しでも参考になれば幸いです。
大きく2種類あるリハビリ拒否
私の経験を整理すると、主に2種類のリハビリ拒否があったように思います。1つ目は、身体的な訴えによるものです。
身体的な訴えによる拒否は、体調が悪い、痛い、眠たい、やりたくない(気分じゃない)などになります。
2つ目は高次脳機能障害や精神的な訴えによるものです。
高次脳機能障害は身体機能の症状とは異なり、目に見えにくく非常に複雑な症状です。
そこで、主治医とともにMRIやCTなどの画像所見を見て、さらに各高次脳機能検査や日常生活上の観察を行って、評価と訓練を進めていきます。
しかし高次脳機能障害は、脳の損傷部位によってはリハビリの必要性がわからなくなってしまう場合もあります。
そのため、「(リハビリの必要性がわかっていないため)リハビリは必要ないからやらなくていい」と訴えられることが多くありました。ときには、「どうせよくならないからやりたくない(やらなくていい)」と訴えらることもありました。
身体的な訴えによるリハビリ拒否の対応方法
身体的な訴えがリハビリ拒否につながっている場合は、身体的な問題を改善することが基本になります。
体調不良や痛みがある場合は、まず医師や看護師と相談し、治療方針や薬剤の再検討、生活リズムの見直しを行うことがあります。特に、整形外科疾患の場合、術後の痛みによって離床やリハビリが進まなくなることもあるため、主治医と相談し、薬の量や投薬(内服)時間の調整を行ってもらいます。
また、患者さんのなかには、日中、傾眠傾向になる方もいます。脳血管疾患の急性期の場合、症状が安定しないことと、生活リズムが崩れてしまうことが原因として考えられます。
そこでバイタルサインに問題がなければ、担当の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の介入時間をできる限り分散させて、リハビリがない時間帯は自主練習などを行って生活リズムを直していきます。
高次脳機能障害や精神的な訴えによるリハビリ拒否の対応方法
高次脳機能障害の1つに「病識の低下」があります。病識の低下とは、自分の病気や自分の身体状況の理解が十分でないことをいい、例えば、左半身に麻痺があり病前のように動かないのに「動く」と言ったり、歩けないのに「歩ける」と言ったりします。
この病識の低下に対してはさまざまなアプローチ方法がありますが、私が行ったのは、「患者さんご自身に気づいてもらうこと」でした。
具体的には、下肢の失調により歩行が困難にも関わらず「歩ける」と訴えていた患者さんに対しては、実際に歩いてもらったり、鏡を使って立位のバランスをご自身で見てもらいました。このフィードバックを行うことで、患者さん自身の病態理解につなげることができました。
すぐに結果として現れませんが、繰り返し行っていくことで、ご自身の身体状況の理解につなげ、リハビリの必要性などにもつなげることができました。
また、精神的な訴えの場合には、障害受容の段階を理解する必要があります。
障害受容は下記の5段階に分かれており、リハビリの拒否につながるケースは、障害を認めようとしない否認期や、怒りや悲しみがある混乱期などに多い印象です。
障害受容の過程
①ショック期:自分自身に何が起こったか理解できない状態
②否認期:自分の障害から、目を背けて認めようとしない時期
③混乱期:「怒り」「悲しみ」「抑うつ」などが現れる時期
④解決への努力期:さまざまな事をきっかけにし、病気や障害に負けずに生きようと努力する時期
⑤受容期:自分の障害をポジティブに前向きに捉えられるようになる時期
精神的な訴えの場合には、何がつらいか、どんなことに困っているかを早く聞き出し、解決したい気持ちを抑え、まずは傾聴して患者さんの思いに寄り添って患者さんそれぞれの解決策考え、解決方法を実施していきました。
リハビリを拒否されたときの私の経験
ここからは、リハビリを拒否されたときの私の経験を話したいと思います。
①好きなことや好きな人をきっかけにする
1つは急性期病院に勤めていた際、脳卒中で入院した高齢男性の担当になったときの話です。
男性は軽度の上下肢麻痺、年齢相応の認知機能低下を認めていました。自宅へ退院することが決まっていたため、上下肢の筋力強化、巧緻動作練習、体力アップが必要でした。
リハビリの声かけに行くと、いつも「眠い」「やらなくても大丈夫」と言われてしまい、リハビリがうまく進みませんでした。あるとき、サイドテーブルに野球雑誌が置かれていることに気づき、その雑誌を見ながらお話をしました。
ページをめくると、王貞治さんの記事がありました。そのページを見た男性は、「王さんも頑張っているもんな! 俺もしっかりやらなきゃな!」と言い出し、自分からリハビリ室まで歩き出したのです。その日を境に、病棟で私を見かけると、「今日はリハビリは何時ですか?」と声をかけ、意欲的に参加してくれました。
身体が病前のように動かず、まだ障害を受け入れられないときに、「リハビリが大事だからやりましょう!」などと言われてもやる気にはなれません。そんなときは、患者さんの好きなこと(趣味や嗜好)は何かを探るのも1つの方法です。
好きなことや好きな人が、「リハビリをしよう」という意欲のきっかけになったいい例でした。
②傾聴して訴えを整理し、できることに注目してやる気につなげる
2つ目は、股関節の切断をした、当時30歳代の男性を担当したときの話です。
初回面接では終始目を伏せており、表情の変化に乏しく暗い印象でした。リハビリに対しても、「リハビリなんてやっても意味がない。どうせ自分にはできないしよくならないよ」という消極的な発言が多く聞かれました。
また、切断による幻肢痛、長期入院による筋力低下を認めていたため、起居動作や座位、立ち上がり、移乗動作など多くの動作に介助が必要な状態でした。
リハビリは、毎回「仕方なく」という雰囲気で参加し、リハビリ中も「痛い」「こんなにつらいならやりたくない」「やったって意味がない」など否定的な発言ばかりでした。
そこで、まずは傾聴することを徹底し、訴えを一緒に整理することをしました。すると、リハビリをしたほうがいいことはわかってはいるものの、痛みや体力低下の影響で身体がついていかないことがわかりました。
簡単な内容のリハビリを一緒に考え、日常生活のなで、ゴミが捨てられた、ごはんを残さずに食べられたなど、できたことをチェックシートに記入して可視化しました。すると少しずつ表情が明るくなり、退院後の生活や将来的にやりたいことなど意欲的な発言が増え、なんとか退院することができました。
基本は患者さんの思いに寄り添うこと
リハビリ拒否にはいくつかのパターンがあること、またその解決方法をお話ししました。
リハビリを拒否されたとき、その基本になるのは「患者さんの思い寄り添うこと」だと思います。
傾聴しても、はじめから患者さんの本当の思いを聞くことはできません。そのためセラピストは、「患者さんはどんな生活をしていたのか」「どんなことが好きなのか」と考えて患者さんを知るようにし、患者さんの思いに寄り添うことが大切だと考えています。
そうすれば、患者さんは安心してリハビリに取り組めるようになり、障害をもった新しい身体での生活もよりよいものになるはずです。セラピストとして、その手伝いを今後もしていいたいと思っています。
宮木 美智香
作業療法士/福祉住環境コーディネーター
2006年、一度作業療法士の国試に落ちるも、2007年には合格。一般病院を経て、訪問リハビリやデイサービス、有料老人ホームなどで勤務している。
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