ピアサポート・ピアサポーターとは?リハビリ職が定義や種類を解説
公開日:2023.07.03
文:しい(作業療法士)
ピアサポートとは、障害者やがん患者、アルコール依存症など、同じような悩みをもつ人たち同士が支え合う活動のことです。仲間として、支え合うというピアサポートはさまざまな分野で使われています。
この記事では、ピアサポートとは何か、どのような活動があるのか、リハビリ職から見たピアサポートについてご紹介します。
目次
ピアサポートとは?
「ピア(Peer)」は「仲間」、「サポート(Support)」は「支援する」の意味です。ピアサポートとは、同じような立場や課題に直面する仲間として、お互いに支え合うことをいいます。
ピアサポート活動では、「支援する・される」から「支える・支えられる」という関係性をつくることができ、当事者同士で本音を出して体験を語り合う機会になります。
現在は障害者やがん・難病の患者、産前産後に悩む親、アルコールや薬物中毒などの家族にも広がっています。
障害領域のピアサポートに関しては、「障害のある人生に直面し、同じ立場や課題を経験してきたことを活かして仲間として支えること(岩崎,2017)」と定義されています。
■参考
ピアサポートの活用を促進するための事業者向けガイドライン
ピアサポーターとは?
ピアサポーターとは、自分も障害や病気の経験があり、その経験を活かして同じ境遇にある仲間をサポートする人のことをいいます。
当事者の経験から相談を受けて話を聞き、支援することをピアカウンセリングといいます。ピアサポーターは、指導や押しつけになっていないか、相手と対等であるという意識をもつことが大切になります。
ピアサポーターになるには?
ピアサポーターになるには特に資格は必要ないため、誰でも活動することができます。
各障害領域、各地域でピアサポーターが広まってきており、養成講座や研修なども増えてきているため、興味のある方は一度探してみてください。
<主なピアサポーター養成講座・研修>
領域 | 実施都道府県 | 内容 |
---|---|---|
精神障害領域 | 大阪市 | ピアサポート養成講座 |
千葉県 | 精神障害ピアサポート専門員養成研修 | |
がん患者 | 京都府 | ピアサポーター養成講座 |
子育て分野 | ピアサポーター(地域の子育て支援人材)のための養成講座・研修 |
■参考
日本ピア・サポート学会
障害福祉サービスのピアサポート
精神障害、身体障害、知的障害、高次脳機能障害の各領域別にどのようなピアポートがされているのか、ピアサポートの現状をまとめました。
精神障害領域のピアサポート
2009年度から、国の研究補助事案として、「精神障害者のピアサポートを行う人材を育成し、当事者の雇用を図るための人材育成プログラム構築に関する研究」として、モデル研修が始まりました。
翌年には、人材育成と雇用のガイドラインが作成されています。そこから、全国各地でピアサポーターの養成が行われ、ピアサポーターになる当事者が増えています。
2015年には、千葉県の事業としてピアサポート専門員の養成研修が実施され、3日間の基礎研修のあと、障害福祉サービスの事業所や医療機関などでの3週間実習を経て、2日間の専門研修が行われました。このように精神障害ピアサポーターの力がますます必要とされています。
身体障害領域のピアサポート
1970年代前後、アメリカで、それまで福祉サービスを受ける存在でしかなかった障害者が、障害者の地域で生活する活動(自立生活活動)が始まりました。その結果、自立生活センターが設立され、障害者が中心となって運営方針を決定し、障害者が雇用されることが規定されました。
日本にも自立生活センターがあり、その事業のなかで最も重要な活動の1つがピアカウンセリングです。ピアカウンセラーになるためには、次のような役割をもっている必要があります。
・自立生活や福祉制度に関する情報をもっていること
・クライエントの自己決定ができるように支援すること
自立生活センターでは、公開講座でピアカウンセリングの体験や、ピアカウンセリングの講義や研修なども開催しています。
知的障害のピアサポート
日本の知的障害者の活動としては、「手をつなぐ育成会」があります。当初は親や家族の活動が主でしたが、やがて当事者のグループが誕生し、活動に参加するようになりました。
現在、都道府県を中心に、知的障害者のピアカウンセリング事業やピアサポーター養成研修などが実施されていますが、ほかの障害領域のように、当事者がその経験を活かして支援者として働くところまでは進んでいません。すでに自立生活を送っている人たちが、これまでの経験を活かして関われる仕組みをつくることが求められています。
高次脳機能障害におけるピアサポート
高次脳機能障害の支援の歴史はまだ浅く、当事者家族が中心となった活動の報告がメインで、当事者が主体となったピアサポート活動の報告はほとんど見られません。
高次脳機能障害で困るのは、感情・欲求のコントロール低下や固執性などの社会的行動障害が見られる場合です。退院後共に生活する家族は、病前には見られなかった言動や人が変わってしまった様子に戸惑うことがあります。
同じような状況を経験してきた家族に話を聞いてもらい、相談に乗ってもらうことで、自分だけではないという安心感をもつことができ、さらに対処方法を学ぶことで、安定して当事者と向き合うことができるようになります。こうした家族同士のピアサポートは、当事者を支える上で大きな役割を果たしています。
リハビリ職から見たピアサポート
私は作業療法士として、身体障害領域の回復期病棟で勤務し、さまざまな疾患の患者さんと関わってきました。回復期で入院されている患者さんは、自分の病気や障害と向き合いながら、リハビリに励んでいます。
障害受容をしていく過程で、家族や医療従事者には話しづらい小さな悩みや不安な気持ちがあり、時にはその不安が爆発してしまうことがあります。
そんなときに、ピアサポートとして、同じ病気や障害をもった方同士が情報交換や悩みなどを話すことで、お互い頑張ろうと励まし合ったり、自分の困っていることに対して、相談に乗ったり、相談に乗ってもらうことで、これからの生活に希望がもて、前向きな気持ちになれます。そのようなときに、ピアサポートの介入の必要性を感じます。
ピアサポートとは同じような立場や境遇、経験などをもつ者同士の支え合いを表す言葉
今回は、ピアサポートについてご紹介しました。
ピアサポートとは、同じような立場や境遇、経験などをもつ者同士の支え合いを表す言葉です。お互いの経験を伝え合ったり、分かち合ったりすることも、ピアサポートの1つで、悩みや不安を共有でき、とても大きな力になります。最近では、さまざまな領域でピアサポーターの育成・養成が行われており、自分の経験が誰かの力になるかもしれません。
私たちリハビリ職は、同じ疾患や同じ経験をもつ方を知っていたり、詳しい方に話を聞くこともできたりします。困ったときにはぜひ、リハビリ職に相談してみてください。
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しい(作業療法士)
作業療法士病院で作業療法士として勤務し、回復期病棟に入院されている方やデイケアへ通所されている方のリハビリテーションを担当している。自宅退院やその後の生活を考え、患者さんや家族のニーズに近づけられるように、日々取り組んでいる。プライベートでは2人の子どもがいて、仕事と子育てを両立するために日々奮闘している。
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