PECS®(ペクス)とは?意味や構成 ・絵カードによるコミュニケーション支援の効果を紹介
公開日:2022.10.05 更新日:2023.09.25
文:田口 昇平
(作業療法士、福祉住環境コーディネーター2級)
発達障がい児のリハビリ・療育の現場では、障がい児に対するコミュニケーション手段として、「絵カード」がよく利用されます。なかでも、PECS®(絵カード交換式コミュニケーションシステム)は、研究によりその効果が実証され、世界中で使用されるコミュニケーションツールとなっています。発達障がい領域で働く作業療法士のなかには、PECS®の意味や効果が気になっている人もいるでしょう。
そこで今回は、PECS®の意味や構成を紹介するとともに、発達障がい児のリハビリ・療育における効果についてお伝えします。
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PECS®(ペクス)とは?
PECS(ペクス)®とは、Picture Exchange Communication Systemの略で、日本語では「絵カード交換式コミュニケーションシステム」と言います。1985年にアメリカで考案され、当初は、自閉症の未就学児童に実践されていました。現在では、認知面や身体面の障がいによりコミュニケーションに困難さを抱える人たちとその支援者の間で使用されるツールとして、対象の年齢を問わず、世界中で使用されています。絵カードは、食べ物や飲み物のほか、家電製品(タブレット・テレビなど)や場所(公園など)、活動内容(おんぶなど)、感情表現(匂います、など)といった150種類以上があります。また、「~ください」などの依頼を表現する文カードが付属しているのもPECS®の特長です。
6つのフェイズから構成されるPECS®(ペクス)
PECS®は、「フェイズ」と呼ばれる6つの段階で構成されます。PECS®の最優先の目標は、機能的コミュニケーションを訓練することにあり、フェイズⅠ~Ⅳは自分の要求を叶えるために他者に働きかける訓練、フェイズⅤは他者に対して報告・応答する訓練、フェイズⅥは他者の質問に答えたり文章を構成したりする訓練となります。各フェイズは、子ども、トレーナー(子どもと直接コミュニケーションをはかる支援者)、プロンプター(子どもに好ましい行動を促す支援者)でおこないます。ここからは、各フェイズのトレーニング方法について見ていきましょう。
・フェイズⅠ
フェイズⅠでは、子どもは自分の欲しい物を獲得したり、やりたい活動をおこなったりするために、トレーナーと絵カードを交換して、コミュニケーションを図ることを学びます。トレーナーは子どもに好きな物を見せ、プロンプターは子どもが好きな物の絵カードを手に取ったりトレーナーの手に乗せたりする行動を支援します。
・フェイズⅡ
フェイズⅡでは、子どもは、フェイズⅠで学んだ「絵カードを交換してコミュニケーションを図る」ことをいろいろな場所でできるように訓練します。
子どもは、まずPECS®のある場所に歩いていき、好きな物の絵カードを取ります。その後、子どもは、トレーナーのほうに歩いて行き、注意をひいてトレーナーの手に絵カードを渡します。トレーナーは、渡された絵カードに示された実物を子どもに渡します。子どもが慣れてきたら、次はトレーナー以外の人とやり取りしたり、移動しながら絵カードと実物を交換したりする訓練をします。
・フェイズⅢ
フェイズⅢでは、子どもは、自分が欲しい物を獲得するために、2枚以上の絵カードのなかから正しい絵カードを選ぶことを学びます。
まず、トレーナーは、子どもの前に絵カードを2枚提示します。子どもは、自分の欲しい物が描かれた絵カードを選び、トレーナーに渡します。トレーナーは、子どもが自分の欲しいカードに触れることができた瞬間にその行動を賞賛し、絵カードに描かれた物の実物を子どもに渡します。
・フェイズⅣ
フェイズⅣでは、PECS®に付属している文章が書かれた専用のシート(文シート)と絵カードを使い、簡単な文章をつくることを学びます。例えば、クッキーが欲しいのであれば、子どもは「クッキー」が描かれた絵カードと「ちょうだい」と書かれた文シートを組み合わせ、トレーナーに渡します。トレーナーは、文章を読み上げて、子どもに実物を渡します。
・フェイズⅤ
フェイズⅤでは、子どもは、トレーナーの質問にPECS®を使って応えることを学びます。例えば、子どもがジュースを欲しがっている様子が観察できたら、トレーナーは、子どもに「何が欲しいの?」と質問し、『~ちょうだい』の文カードを指さします。このやり取りに子どもが慣れてきたら、トレーナーは「何が欲しいの?」の質問後、『~ちょうだい』カードを指さすまでの時間を徐々に延ばし、子ども本人から意思を示めせるように促します。
・フェイズⅥ
フェイズⅥでは、子どもは、トレーナーの質問にコメントすることを学習します。例えば、子どもが何かを見ている様子が観察できたら、トレーナーは子どもに「何を見ているの?」と質問し、『~を見ています』の文カードを指さします。子どもが慣れてきたら、トレーナーは、質問からカードの指さしまでの時間を徐々に延長し、質問に答えることでコメントできるよう促します。
PECS®(ペクス)の効果
PECS®で訓練をくり返すと、子どもは、絵カードを使って自分の気持ちを伝える力が向上し、他者とのコミュニケーションが上手にとれるようになります。例えば、読みたい本があったら、子どもはPECS®の本が描かれた絵カードと「ください」の文シートを使い、本が欲しいという自分の気持ちをトレーナーに伝えられるといった具合です。トレーナーとのやり取りに慣れてくれば、徐々にコミュニケーションの幅を拡大していくこともできます。
家庭や児童発達支援センター・保育園・学校など、いろいろな人に自分の気持ちを伝えることができれば、子どもも積極的に社会参加しやすくなるでしょう。
PECS®を学ぶには?
PECS®を学ぶには、各地で開催されるワークショップに参加するのがおすすめです。また、PECS®の研究会やサークル活動を積極的におこなっている自治体もあります。そうした研究会・勉強会グループに参加してみるのもよいでしょう。
子どもが理解しやすいコミュニケーション手段を
コミュニケーションに困難さを抱える障がい児のなかには、絵カードを使ったほうが他者と意思疎通しやすい子もいます。実際に、発達障がい児を育てる家族からは、子どもがコミュニケーションをとりやすい環境を作るために「発達支援センターや養護学校・放課後デイサービスなどでも普及してほしい」といった声も聞きます。PECS®以外にも、オリジナルの絵カードや写真カード・手書き文字(手のひらに指で文字を書く)といった手段もありますが、子どものコミュニケーション手段のひとつとして、世界的に実績のあるPECS®をリハビリや療育に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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参考
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)®|ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン株式会社
自閉性障害児に対するPECSによるコミュニケーション指導研究ーその指導プログラムと今後の課題ー|小井田ら 行動分析学研究18(2).120-130
PECSとは?|三重PECSサークル
田口 昇平
作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級
2008年に作業療法士免許取得後、東京都内のリハビリ専門病院や特別養護老人ホームなどの施設で医療や介護業務に従事。2018年より、フリーライターに転身。医療介護職の働き方や働きやすい労働環境づくりなど、幅広いテーマで執筆。心理学・脳科学分野の書籍を愛読し、学んだ内容をブログやSNSで情報発信している。
絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS)®|ピラミッド教育コンサルタントオブジャパン株式会社
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