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こんな道もある!セラピストの仕事「若年性認知症に特化し、生きやすいコミュニティを共に作る」

公開日:2023.12.04 更新日:2023.12.07

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文:北原 南海

セラピストの仕事の一般的なイメージは、医療機関に勤め、ステップアップしていく形が多い

その一方で生活期のリハビリや、作業療法士は発達障害ほか精神障害の領域など、活躍の場が広がりつつある。そこで、「こんな道もある」をテーマに特徴的な業務についている人、仕事をしている人にインタビューを行った。

今回は作業療法士で「GrASP株式会社」の代表取締役ある山崎健一さんに話を伺った。

今回インタビューした人

山崎 健一(やまざき けんいち)さん

山崎 健一(やまざき けんいち)さん

作業療法士。GrASP株式会社代表取締役。若年性認知症に特化して事業を展開。
1983年生まれ。神奈川県横浜市港北区出身。作業療法士を取得後、2006年より精神科の病院で7年間勤務。その間にうつ病、統合失調症などの患者の社会復帰、職場復帰支援に従事。その後、訪問看護ステーション勤務を経て、2015年にGrASP株式会社を設立。若年性認知症専門のデイサービスを開設し、現在に至る。
高校は横浜商業高校。春夏合わせて17回、準優勝2回を誇る野球部に所属し、甲子園を目指した。
父が精神的に不安定で、両親がよくケンカをしているのを見て育ったという山崎さん。「そんな経験が“恵み”になり、事業ではメンバー(同社では利用者をそう呼ぶ)ご本人だけでなくご家族も合せたトータルなケアができるように、ということを大切する発想の源泉になっているのかな、と今では思えるようになりました。ちなみに、病院勤務時代は自分の勤めていた精神科病棟に父を入院させました」。妻、3児の父親。

珍しい若年性認知症に特化したデイサービス

全国的に見ても数少ない若年性認知症専門のデイサービスを経営する、作業療法士の山崎健一さん。最初の「GrASP aoba横浜北部」(前「トポス和果」。横浜市青葉区)の開設は2015年1月で定員は24名。23年2月には2店舗目として「GrASP asahi横浜中西部」(同旭区)を定員12名で開設した。有償や無償、地域貢献のボランティア、趣味活動などのアクティビティをプログラムに用意し、認知症の進行度などに応じた社会参加のサービスを提供する。

山崎さんは、以前は精神科病院で、主に統合失調症やうつ病などの患者のケアや職場復帰支援に従事していた。その中で「病院でできるケアとそうでない部分へのジレンマを抱えた時期がありました」。例えば昼休憩に、距離を縮めて関係を深めようと患者に会いに行っていた。それで、周りからは「ちょっと患者さんと距離が近すぎるのでは?」「患者さんに入れ込み過ぎなのでは?」と言われたこともあった。「ただ、自分は患者さんとの距離を縮めながらその方に適したケアを探るタイプ。患者さんにより踏み込んで支援をさせていただかないと、なかなかその方本来の力が発揮されるようになる支援は難しいと思ったんです」。病院で求められるかたちとは異なる、「自分の実現したいリハビリを提供したい」と考えた山崎さん。「それなら、自分が思い描くことを具現化するために起業しよう」と思った。

そうして病院をやめて訪問看護でのリハビリの仕事についている際に、若年性認知症の人と患者と出会った。そして本人や妻と親しくもなるなかで、若年性認知症の人には居場所がないと言われた。「山崎さん、ぜひ作ってください」と。少ないのなら自分が作ろうと思った、と山崎さんは話す。

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《「萬駄屋」と連携してのおこわづくり、キッチンカー販売の様子(有償の作業)※1》

「等質性」で来やすい環境づくり

若年性認知症の人は、日本医療研究開発機構(AMED)の調査(2017~19年度)では、18年時点で全国で3.57万人と推計されている(有病率は18歳~64歳人口10万人当たり50.9人)。若年性認知症専門のデイはそんなに利用者が集まるの?と思われる読者もいるかもしれない。

だが、逆に少ないことで、高齢者といっしょのデイの中で少数派になること、世代間ギャップなどから孤独感を感じるケースもみられるなど、居場所が少ないという現実もある。また、現役で働いてきたなかで発症することの多い世代であり、高齢者と同じレクをすることなどへの違和感も生じやすい。

同社では、例えば音楽も、現在の若年性認知症の世代が好むことの多い1970年代~80年代前半の日本の歌謡曲や洋楽などをBGMやアクティビティでも使うことが多い。有償のものなど仕事も各種用意したプログラム。そして利用者は同じ境遇の人たち。

「価値観の近い方、気の合う方もみつかりやすい。そして安心できる居場所になります」と山崎さん。人数が少なく、思いを共有できる人も少ないと感じることが多いからこそ、若年性認知症に特化することで利用者にとって来やすい環境になり、利用につながる可能性は高まる。

「『等質性』は当社のサービスのキーワードの一つです。同じ境遇を持つ『仲間』。見学者が訪れると、利用年数の長いメンバー(同社ではメンバーをそう呼ぶ)もここでのことについて説明します。職員が説明するよりも、『こういうところか』と納得していただきやすいと思います」(山崎さん)。

仕事をしていたなかでなるケースが多く、「働きたい」という声も多い。「“仕事”を探し、プログラムに揃えてくことは、事業のポイントの一つでした」と山崎さん。

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《横浜市港北区の小机地域ケアプラザのデイサービスでの演奏の様子※2》

仕事探し、段階に応じたサービスの提供

若年性認知症は高齢者の認知症と比べて一般的に進行が速い傾向がある。同社では3つの「フェーズ」(段階)におおよそ分けつつ、認知症の進行度や個性などに合ったサービスを提供する形をとる。「ワークフェーズ」は主に「働く」を介した社会参加の段階で、有償の“仕事”がメインになることの多いおおよそ軽度の認知症の人、「ソーシャルフェーズ」は主に「好き」を介した社会参加の段階で、アクティビティや地域ボランティアなどの活動がメインになることが多くなるおおよそ中等度の認知症の人、「ベーシックフェーズ」は「食べる、排泄する、立つ、歩く」といったADLを可能な限り自分の力で対応することを大切にした、おおよそ重度の認知症の人が該当する。

有償の“仕事”には弁当配達、弁当箱洗浄、荷物梱包、ポスティング、ボールペン作りなど。地域の中で関係ができた企業などに「“仕事”をさせていただけませんか」と依頼し、「じゃあ、やってみましょう」と作業を得て、つながる提携先ができていった。例えば梱包や弁当配達など作業の依頼法や作業工程で生じる課題などに逆に助言、提言したりすることもあり、「おかげで業務改善ができた」とお礼を言われたこともあるという。

拠点は横浜市内で5つにまで増やす方針で、今後は“仕事”を同時並行的に増やすために大企業との連携も広げる必要があると考えている。「お住まいの近くで働ければ、わざわざ遠くへこなくても行き場ができるだろうと思っていて」。2023年8月には神奈川県の「かながわ未来共創プラットフォーム」に採択され、県と共にアプローチを開始した。

「フェーズ間の移行は工夫が必要なケースもあります」と山崎さん。例えば「もともとひょうきんでリーダーシップのある方」という、ある50代後半の男性Aさん。利用半年後、作業を間違えることが増え、焦燥感から机を叩いたり声を荒げたりするようになった。山崎さんは、この利用者には認知症が進行しても残りやすい、感情に働きかるようにしたという。興奮されるようなことがあっても「Aさんはやりたくてこんなことをしているのではないのはわかっています。本気でAさんに良くなってもらいたいから伝えていますよ」と向き合って話すことで、本来の状態を取り戻すことも。ただ、そのときは心理・行動症状(BPSD)が柔らいでも、ストレスからまた同じ状態が起きる。家族とも密にやりとりし、家族と病院に同行して医師に状況説明もした。「抗認知症薬だけでなく抗精神病薬や抗てんかん薬など気分を安定させる薬の処方もお願いできませんか、とも伝えました」

そうして薬剤調整がなされると共に、スポーツ、運動など趣味的な活動への参加に徐々に誘った。「運動がお好きで卓球、ウォーキング、キャッチボールなどを楽しめるようになってきて、抗精神病薬などは徐々に減薬になり、笑顔が増えご本人らしさが増しました」。

「移行はもっとスムーズにいく場合もありますし、ケースバイケースです」と山崎さん。

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《東急スポーツシステム(株)と提携しての体操のアクティビティ(写真)や有償での用具管理など※3》

仲間の大切さと、社会貢献の場の提供

ワークフェーズかソーシャルフェーズかの判断については、「最初に簡単な作業をしていただき、失行、失認がないかを確認します。『示されたところに貼ってください』『これを組み立ててください』など。そういった作業が不得手な場合はソーシャルフェーズからスタートさせていただいています」。

「移行していくなかでも、やはり仲間意識が大切になっています」と山崎さん。境遇を同じくする人たちがいて、不得手だったりできない作業があっても別の利用者がフォローしたり、フォローされたメンバーがほかの得意な作業を担ったり、自分の気持ちがわかってもらえる居場所。「いっしょにいることが尊重され、安心できる場なんです」(山崎さん)。利用者の「毎日活躍できるところがあって楽しい。同じ病気で悩んでいる方はぜひ、一緒に頑張りましょう」、利用者家族の「初めに気にしていた母とほかの利用者さんとの年代も合うみたいで、通ってみて本当によかったです」という声も。

60代半ばの男性Bさんは、大手企業で執行取締役まで務めていたが、若年性認知症を発症し、「経験を活かしたい」と時就労継続支援B型であった同デイの利用を開始。弁当箱洗浄、ポスティング、梱包出荷業務など、現在に続く有償の作業の基礎を山崎さんらスタッフといっしょに作った。とはいえ、若年性認知症の進行で作業が難しくなってきた。だが、社会貢献がしたいという気持ちが強かったという。そこで「『Bさんだからこそできる社会貢献をお願いしたいんです』とお伝えし、少しずつワークフェーズからソーシャルフェーズで過ごしていただく時間を増やしていきました。そしてご本人の想いに寄り添うことを心掛けました。その結果、スポーツや音楽活動などに加え、地域の清掃活動なども楽しまれています」

山崎さんは、メンバーが自分に合った環境で能力を発揮できて発露につながったときに、やりがいを感じると話す。「メンバーが笑い、それを見てご家族も笑ったとき。『笑いい顔』は『笑い顔』と『良い顔』の合成語で弊社のキャッチフレーズですが、それが見れたときに、頑張ってきてよかった、もっと頑張らねば、と思います」

メンバーと家族が暮らしやすく。地域との関係作り

山崎さんは、利用者に加えて家族へのケアも重要だと考えている。同社では動画や自サイトで、利用者や家族の思い、同社などについて積極的に情報発信している。それもまず第一に、本人に家族も加えた「仲間のため」と山崎さん。「メンバーやご家族から、『いろんな方がいて、いろんな捉え方、いろんな支援があるんだなと学べた』『心構えが大切だとわかる』『ひとりじゃないと感じる』という声はお聞ききしています。当事者の声が次のメンバーに勇気を与えることもあります」

利用者や家族が暮らしやすくなるように。そのためには理解者、協力者を増やすことが必要で、つながりができた人に働きかけ、地域での関係性も広げていく。

地域ケアプラザ、青葉区など自治体主催の講演会、桐蔭横浜大学などの教育機関、その他の団体での講演の機会も多く、そこでも若年性認知症に関すること、機会によっては当事者も登壇して自らの体験などを話す。「登壇された方々は、出てよかったとおっしゃられます」と山崎さん。気持ちをまとめたり、気づかなかった自分に気付く機会になったりする。また、参加者からも感謝が寄せられ、「人のためになるなら頑張ります、とおっしゃっいます」、と山崎さん。

スタッフには採用の際、「仕事はハードです。当社は決まりきったことをするのではなく、メンバーがしたいことを支援、実現するための会社。それでもよければお願いします」と言っているという山崎さん。「メンバーや家族のことを考えながらチャレンジを続けると、問題に突き当たることもありますが、それを個人やチームで取り組んで解決につなげられたとき、代表冥利に尽きます」。

先述のとおり拠点を横浜市内で5つに増やすことも目標にしているが、2つめの「GrASP asahi横浜中西部」開設に当たっては、メンバー数人が自ら「手伝いますよ」と名乗り出て、物品搬入・配置、机の組み立て、掃除などを手伝った。「自分たちが直接通うわけではないですが、自分たちと同じ仲間の居場所づくりとして手伝ってくださったんですよね」。今後は、若年性認知症のグループホームも立ち上げたいと考えている。

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《地域ケアプラザや自治体、教育機関などでの講演での様子※4》

[欄外注]

※1 「萬駄屋」と連携してのおこわづくり、キッチンカー販売。スパイスアップ編集部がプロデュースし、「駅遠」などでの販売を行うキッチンカー「萬駄屋」と連携。販売用のおこわを週1回20個程度作る。イベント時にはキッチンカー販売も。「メンバーの多くはこれまでに未経験の“仕事”。“仕事”はしていたことを活かす方法もありますが、逆にできていたことができなくなることで喪失感に苛まれるケースもあります。それに対して、未経験だがやってみたらできた、できなかったら別の人がフォローしてくれる。それで面白さが出るというケースもあります」

※2 元音楽プロデューサーの当事者も含む利用者たちがバンド「ストロベリーパラダイス」を結成。写真は横浜市港北区の小机地域ケアプラザのデイサービスでの演奏の様子

※3 同社とは、有償の“仕事”としてフットサル場でのピプスの整頓やボール磨きなどの用具管理、施設の清掃などを月1回行う。賃金は1人1回500円。そのほか同社とは、サッカーチーム(東急SレイエスFC)の選手やスタッフがデイを訪れての体操アクティビティの実施(写真)、サッカー観戦などでも提携している。

※4 地域ケアプラザや自治体、教育機関などでの講演で利用者が自らの体験を話すことも多い。出演者からは「今の気持ちをまとめられた」「区切りになってよかった。次の自分を考えられる」といった声が出る、と山崎さん。参加者からも「聞いてよかった」「勉強になった」といった反応があり、「登壇された方々は、人のためになるなら頑張ります、とおっしゃっています」(山崎さん)

北原 南海(きたはら みなみ)
大学卒業後、出版社勤務を経てフリーの編集者兼ライターに。編集者としては教材や単行本など各種出版物の制作、ライターとしては介護施設・サービス、認知症や食事・栄養、リハビリに関する取り組み、外国人スタッフの採用・定着・定住に関することなどについて、新聞や雑誌などで取材・執筆に従事している。
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