フリーの理学療法士として起業
公開日:2018.12.07 更新日:2021.04.07
文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員
利用者さんに寄り添った介助支援を求めてフリーに転身
前回ご紹介した通り、私が理学療法士デビューを果たした身体障害者福祉センターで最初に学んだのは、急性期や回復期の理学療法をそのまま維持期に当てはめることはできないということでした。
利用者さんの家に行って生活や住まいの様子を知り、利用者さんに合った介助の支援をしたい。しかし当時(1990年ごろ)の制度では叶わないことがわかった私は、身体障害者福祉センターを飛び出し、フリーで活動を始めました。
当時は理学療法士は全国で数千人しかおらず、どこにも所属せずにフリーで活動しているPTはほとんどいませんでした。まずは病院や行政をまわり、「訪問リハビリテーションをしたい、地域で活動したい」と相談に行きました。しかし在宅介護の重要性はほとんど認められておらず、「病院でPTが足りないので勤めてくれない?」という誘いばかり。
幸い、医療保険としての訪問理学療法はあったので、開業医の先生と提携して訪問に行かせてもらったり、厚生労働省のモデル都市になっていた近隣の市の事業として、保健婦(現在は保健師)さんといっしょに訪問指導にも行かせてもらいました。
動けるのに寝たきりにされている利用者さん
今であればデイケアもデイサービスもヘルパーの訪問もありますが、それらがなかった当時の対象者さんたちは、家で寝たきりの状態でした。まずは起きてもらうこと、座ること、車椅子に移ってもらうことを目標に活動し始めました。

利用者さんの様子を見ていると、「動けるよね?」と思う方がほとんどでしたので、「少し動いてみましょうか」と2~3回あっちを向いたりこっちを向いたりしていただいたあと、「こちらに寝返っていただけますか」とお願いします。
すると、ご自分で寝返りができてしまうのです。いままで寝返りができるなんで考えたこともなかった家族の方はびっくりです。
「えーっ、おばあちゃんこんなに動けたの!」
寝返ることで体と頭が動きだした利用者さんを見ていると、もう少しいけそうです。側臥位から肘を突きながら起き上がってきてもらいます。脚を下ろし、突いた肘を伸ばしながら上体を起こしてベッドの端に腰掛けていただきます。これも何度か練習すると、もちろん介助は必要ですが、ご自分で端坐位がとれるようになります。
よく、介護や看護のスタッフの方から「座位保持ができないんです」という相談を受けます。介助の方法を尋ねると、介助者が全介助で起こしてきてから「はい、座りましょう」になっていることが多いようです。
利用者の肩と膝を抱えて全介助で座らせてしまうと座位が保てません。ところが、たとえ介助されても自分の力を使いながら起き上がってくると、肘を伸ばして座位になってくる間に、座位を保つだけの筋や緊張、平衡感覚など体の準備ができてきて坐位を保つことができます。
ここまでくると、周りの家族や保健師さんは大騒ぎです。
「○○さんすごいですね」「おばあちゃん、こんなんできるんやったら、なんでやってくれへんの!?」
私は「いやいや、できないと決めつけて、やってもらわなかったのはそっちでしょう!」と言いたいのですが、そこはグッと我慢して「もともとできるだけの能力は持っておられたんですよ」と家族や保健師さんに説明します。
利用者さんの実力を引き出すには?
「レベルのよい利用者さんならもう少し見せ場が作れます。
「たくさん動いたので、喉乾きましたよね?」とたずね、利用者さんが頷いてくれたら、すかさず家族の方にお茶をお願いします。ほとんどの家族の方がいつもの通り、吸い口に冷めたお茶を入れて持ってきて、利用者さんに飲まそうとされます。
そこで「普通の湯呑みに入れていただけますか」とお願いすると、家族の方は「誰が飲むのかしら」と訝しがりながらも、もう少し温かいお茶を普通の湯呑みに入れて持って来られます。その湯呑みをベッドに腰掛けている利用者さんに差し出すと、利用者さんは手を伸ばして湯呑みを持ってご自分で口まで運んでおいしそうにお茶を飲まれるのです。
みんな拍手喝采です。
「こんなことできるの? 信じられない!」
でも、これがまぎれもないその方の実力なのです。
「ああ、やっぱり利用者さんのお宅に行くようになって正解だった」
寝たきりの利用者さんに立ってもらえたときなどは充実感でいっぱいです。
ところがまたまた、幸せ気分の私を地獄に突き落とす落とし穴が待ちかまえていたのです。
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