精神科リハに必須! 作業療法士こそ実施したい社会生活技能訓練(SST)
公開日:2016.07.04 更新日:2016.07.15
精神科のリハビリで大きなテーマとなるのが社会復帰。患者さんが社会復帰するためには、社会生活の送り方を身につけるだけでなく、ストレス対処や病気の自己管理も課題となります。
社会生活技能訓練(Social Skills Training;SST)は、文字どおり、社会生活に必要なスキルをトレーニングする技法です。なかでも、人とのコミュニケーション能力を高めていくところにSSTの特徴があります。生活リハの専門家である作業療法士にこそ活用してほしい社会生活技能訓練(SST)についてお伝えします。
さまざまな患者の社会復帰に活用できるSST
精神科の入院患者には大きく分けて2つのグループがあります。一つは30年以上入院生活を続けている長期入院の患者さんです。多くは思春期に発症し、社会を知らずに長い入院生活を送っています。経験の不足もあり買い物の仕方から住民票の出し方、IT機器の扱い方に至るまで、現代を生きるためのさまざまな社会生活の送り方が身についていない状態です。病状は落ち着いていても、こうした社会スキルが身についていないために、退院できずにいます。
もう一つのグループは1年前後での入退院を繰り返す患者さんです。基本的な社会スキルはあるものの、人とのコミュニケーションが苦手だったり、ストレスへの対処の仕方が身につかないことがあったりして、社会復帰が遅れてしまいます。また社会復帰したとしても無理をし過ぎて症状が再発する人もいます。調子が悪くなったときは速やかに通院してもらいたいものですが、調子が悪くなったことにも気づけず、さらに状態が悪化して再入院となってしまう人も多いのです。
程度の差はありますが、どちらのタイプも社会生活に対するストレスが大きく、適応するためのリハビリが必要です。SSTはどちらのタイプの患者さんにも有効で、幅広く利用することができます。
助け合いの輪が広がるSSTの訓練法
SSTのもっとも基本的な方法として、「基本訓練モデル」があります。通常6~8名のグループに対し、リーダーを務めるスタッフ1名とサポート役のスタッフ(コリーダー)1~2名で行われます。メンバー一人ずつに課題を挙げてもらい、皆で意見を言い合います。週に1回、もしくは月に1回など、定期的に繰り返して行います。
- 問題場面の設定
対象者の解決したい問題を、対人関係で実際に起きそうな課題に起こし、目標を細かく分解してスモールステップで訓練を進めます。例えば「時計を買いに行く」という目的に対して「病棟の看護師さんに外出の相談をする」「外出してからお店へ向かう際、通りがかりの人にお店までの行き方を尋ねる」などのように課題をつくります。看護師に相談することは何でもないように思えるかもしれませんが、経験のない人にとってはとても勇気のいることです。 - ロールプレイ
他のメンバーにも協力してもらい、実際に話しかける練習を何度か行います。今まで経験のない課題を実践することはとても勇気がいりますが、慣れたメンバーに囲まれて練習することで、安心して課題に挑戦することができます。 - フィードバック
SSTでは、ほめること・承認すること(正のフィードバック)が基本。スタッフだけでなく、グループ全体で正のフィードバックを行います。そうしてメンバー同士が助け合い、支え合う雰囲気ができあがります。周囲からの応援を感じることが、社会へ出ていくときの大きな原動力にもなり得ます。 - 宿題の設定
SSTはグループ練習だけでは終わりません。実際に行うことで、その課題が終結します。病棟の看護師さんに外出の相談を行う練習をしたのであれば、そのとおりの内容で看護師さんに話しかけてもらいます。こうした「宿題」はスタッフが一方的に決めることではありません。看護師さんに話しかけるにしても、一人でできるのか、それともSSTのスタッフが付き添ったらできるのか、本人の希望を聞きながら設定します。
「モジュール」がセルフケアを促進する
単に話しかける練習さえすれば社会スキルが整うというものでもありません。薬や症状を自己管理するためのスキル、地域社会に溶け込んだり、ときには雑談で話をつないだりするスキルも必要です。また悩みがふくらんだときに、どうやって自分で解決していくかということも重要になります。
SSTではこれらの問題に対して「モジュール」という訓練パッケージをつくっています。モジュールは「服薬自己管理」「症状自己管理」「地域生活再参加」「基本会話」「余暇の過ごし方」といった領域ごとのスキル訓練パッケージです。複雑な社会生活技能をテーマごとにパターン化し、マニュアル化することでわかりやすくなり、能力が低い人でも理解して身につけることができます。服薬管理表や症状自己管理表など、コピーすればすぐに使える資料もそろっています。個別の課題に対応するなど、細やかなマニュアルがあることで実施するスタッフにとっても使いやすく、導入が簡単なことも魅力のひとつです。
SSTこそ作業療法のひとつ
作業を通してできなかったことをできるようにし、社会との接点をつくるのが作業療法。SSTは、社会との接点をつくり、患者さんが自信を持って社会に出ていけるようにするためのリハビリテーションです。まさに精神科の作業療法として、ふさわしいスキルトレーニングではないでしょうか。
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