日本言語聴覚士協会の未来形
公開日:2018.01.12 更新日:2018.01.22
言語聴覚士は言語、音声、嚥下の障害を扱うセラピスト。人の生活に欠かせないコミュニケーションと食生活を支える専門職です。国家資格となって今年で20年目、有資格者は3万人近くに増えたものの、まだまだ不足との声も。言語聴覚士の現状や、今後めざすものについて、深浦順一会長にうかがいました。

学校教育にももっと言語聴覚士を
日本言語聴覚士協会の調査によれば、言語聴覚士(ST)全体の74%は病院勤務。次に多いのが老人保健施設や特別養護老人ホームといった介護領域と障がい児福祉施設で共に8%を占めています。STに特有の職場が「学校」。言語機能に障がいをもつ子どもたちの訓練や支援をおこないます。2%とまだ少数ですが、今後、STの活躍を期待される職域です。
「発達障害の児童や、脳性麻痺や肢体不自由児の学校など、学校の現場には言語の指導やサポートの必要な子どもがたくさんいます。その子どもたちが病院に通院するケースも多いのですが、週に1回~月に1回では十分な対応ができません。STが学校に所属して担任の先生と協力して取り組めば、もっと効果的な指導ができると考えています」
聞こえの悪さだけでも閉じこもる高齢者

一方、現在言語聴覚士の4分の3が勤める医療現場でも、STはまだまだ不足。介護の現場ではさらに少ないという現状も。
「医療におけるリハビリテーションの提供は、期間が限られています。それは、医療費の抑制という観点からみればある程度やむを得ない。それ以上にリハビリを必要とする方たちは介護保険領域でのリハビリテーションを、という方向になっているのに、介護保険領域での言語聴覚士数の少なさは、致命的です。現在、STの有資格者は3万人弱ですが、その数では、国民的な課題を積極的に支えるには少ない。ですから、STは介護者やご本人たちに助言するとともに、週に1回~月に1回の評価をおこない、うまくできているかどうかをチェックしていくというマネジメント的な対応の仕方を取り入れていかなければと考えています」
「コミュニケーション」と「食べる」ことは高齢者にとっても大切な能力であり、人生の喜びでもあります。

音声障害の患者さんの喉頭ファイバー検査に同席(1997年)
「人間の社会とはコミュニケーションがあって初めてつくられるもの。その力が障害されると外へ行きたくなくなり、閉じこもりになりがちです。それは、ちょっとした聞こえの悪さだけでも起こるのです。75歳以上の5~6割が軽度難聴以上といわれていますので、社会で自分らしい生活を送っていただくためには、かなりのハンデになるのです。
また、嚥下訓練は医療行為のひとつですが、言語聴覚士は法的に嚥下訓練を業務とすることが規定されています。肺炎は死亡原因の第3位で、原因のひとつに誤嚥性肺炎があります。我々は食べる機能を評価し、適切な訓練を実施すると同時に、食べ物の形状や食べる姿勢を具体的にアドバイスして、誤嚥が起こらないように指導します。高齢者が健康で、周りと楽しくコミュニケーションをとりながら人間らしい生活を送ることを、私たちが担当しているのです」
介護領域を学べる研修を強化
同協会では、介護保険領域で必要な能力の向上を目指して、「実務者講習会」を年間3~4回実施しています。
「今まで言語聴覚士の養成校では、高齢化への対応をあまり教えていなかったのです。高齢になると認知機能も低下してすぐに理解できない方もおられます。そういう方に、いかにわかりやすくきちんと伝えるか。訪問リハではリスクに配慮しなければいけない状態をきちんと見きわめて対応できる力も必要です。言語聴覚療法のテクニック自体はこれまでと同じなんですが、このように加齢の影響が加味されています。また介護を担う周囲の方々のおかれた状況に適応するためにはどんなことに注意すればいいかなども学べるようになっています」
受講者の半数は病院勤務のST、半分はすでに介護保険領域に勤務しているSTだそうです。介護現場でのSTの充実に向けて、「少しずつ効果は出てきていると思う」と深浦会長は手ごたえを感じているようです。
周囲のセラピストに影響を与えるSTに
―――「専門言語聴覚士」の構想

STの技能向上のための生涯教育制度として、2008年より「認定言語聴覚士」制度が開始されています。その狙いは?
「全国どこででも、その時点で一番最良と思われる治療、訓練法をすべてのSTができるよう身につけてほしいということです。本当はST全員に認定コースを受けてほしいのですが、なかなかそうもいきません。ですから、認定言語聴覚士としての知識や技術をもつSTが自分の施設や地域で指導ができる人材になってほしい。認定言語聴覚士は自身の臨床の能力を高めるということだけではなく、周りの人たちへ影響を与えていく存在であってほしいのです」
現在、「専門言語聴覚士」制度の発足も検討されています。
「専門言語聴覚士には大学院修士課程レベルと同等かそれ以上の知識をもってもらう。つまり、自分の言語聴覚療法についてエビデンスを元に評価できる人材を育てたいのです。専門領域に関しては日本全体のリーダーとなる人材となることを期待しています」
制度のスタートはいつごろの見通しでしょうか。
「いま、具体的な準備を進めているところで、時期についてはまだ申し上げられません。準備が長引いていたのですが、いろいろ異論はあってもそろそろ制度としてつくらないと先に進まないと思っています」
来月更新のインタビュー後半では深浦会長ご自身のキャリアについてうかがいます。

深浦 順一(ふかうら じゅんいち)会長
- 1976年
- 九州大学工学部機械工学科 卒業、一般企業就職後、知的障がい児収容施設入職
- 1978年
- 聴能言語専門職員養成所 卒業
- 1982年
- 佐賀医科大学(佐賀大学医学部)付属病院耳鼻咽喉科 入職
- 1999年
- 佐賀県言語聴覚士会会長
- 2003年
- 一般社団法人日本言語聴覚士協会 理事
- 2005年
- 一般社団法人日本言語聴覚士協会 会長(現職)
- 2007年
- 国際医療福祉大学教授(現職)
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