超高齢化社会を乗り切る医療介護と街作り
公開日:2019.07.22 更新日:2021.03.01
日本の医療・介護は2025年に大きなターニングポイントを迎えます。
第一次ベビーブーマー=団塊の世代が75歳以上後期高齢者(75歳以上)に入り、高齢者人口は3500万人に。しかも、より多くの医療・介護を必要とする後期高齢者人口が前期高齢者(65〜74歳)を上回る状況になります。圧倒的な高齢者人口の「量」にどう対応するのか、日本の医療は「2025年問題」の大きな課題に直面しています。
最終回はこれからの日本の病院が超高齢時代を乗り切るにはどうすればよいのか、うかがいました。
所属:2019年7月現在
地域の状況に応じて医療体制を調整する
2015年にスタートした国の「地域医療構想」は、2025年の医療需要(患者数)を予測し、都道府県ごとに「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」それぞれの最適な病床数を定めていくというものです。
――地域医療構想について、どのようにお考えですか。
「地域医療構想は本来、各地域がどういう医療の姿をそこに描くかが示されるべきものです。つまり『構想』とは、地域の姿であるべきでしょう。地域医療構想は財務計画には使えますが、地域の姿が描かれていないので、現場が混乱しています。例えばリハビリテーションひとつをとっても、「うちの病院はどのようなリハビリを提供したらよいのか、何をすればよいのか」が全くわからなくなってしまっている。非常に残念な状況です。
私は人口3〜4万人に1施設の割合で地域密着型病院(Vol.18参照)があればよいと考えています。地域の事情によって5万人を支えるなら少し規模の大きい地域密着型病院にすればよいし、急性期医療も一部担うということも検討すればよい。このように地域の状況に合わせて医療体制を調整することが、地域の医療を描くということでしょう。『急性期、超急性期の病院は既にあるから、車で10〜15分圏内の人を支える地域密着型病院を作ろう』とか、『病院が偏在しているからそれぞれの役割を分けよう』と調整するのが本来の地域医療構想。しかし、地域密着型病院という発想は全くなく、医療機能は従来のままであるために絵が描けずにいるのが実態です。どの程度の規模の地域密着型病院を作ってどの程度のエリアをカバーするか、という議論が本来一番重要なはずなのですが、急性期病院をどれくらい減らすのかという議論に終始しています。それは全く逆だと思います」
「コンパクトシティ構想」とは
――相澤会長は地域包括ケア時代の街づくりとして「コンパクトシティ構想」を提唱されています。
「例えば一人暮らしで重度の片麻痺が残ってしまったご高齢の方や、老老介護で介護をしていた方がご自身の介護が必要な状況になりダブル介護になってしまった方、ある程度回復されても、1人で住むのは不安という方などは、入院前に暮らしていた場所に戻れないということがあます。住む所はあっても
そこで、病院の周辺にサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や介護付きマンション、特別養護老人ホームなどの介護施設を置きます。そして24時間、随時対応型の介護・訪問看護サービスが受けられるようにします。往診の依頼に対応しやすいよう、これらを全て10〜15分圏内の場所にまとめます。このように医療・介護を地域の中心市街地に集積させることを『コンパクトシティ』と呼び、今後の地域のあり方だと考えています。
介護施設などの集合住宅にお住まいの方にも地域密着型病院の機能を利用していただき、できるだけ人の手を借りずに、あるいは少しだけ人の手を借りれば暮らせるような状況で長く生活していただくためには、街づくりの視点も重要です。ご高齢の方にとっては、徒歩で行けるところに何でも買えて用が足せる施設などがあると便利です。私どもの病院がある松本市は、病院の南と北に大型ショッピングモールがあり、市街地中心部から徒歩10分もあれば行けます。また徒歩圏内に音楽ホール・劇場や美術館もあります。住環境のよい市街地中心部に、2つの病院と関連施設を集約化しています」
――急性期病院ではなく、地域密着型病院が地域医療の主力になっていく。
「そう思います。地域密着型病院が地域社会できちんと機能し、ご高齢の方、認知症の患者さんなどをきちんと守って差し上げることができれば、ご自宅や集合住宅で暮らし続けることができると考えています。そういう地域、社会づくりのために、私たちの実践を通じて『こうやればできる』と示したいのです」
診療報酬や加算にばかり目を向ける時代ではない
――日本の病院が「2025年問題」を乗り越えるために大切なことは何でしょうか。
「これからの病院は、病院全体でマネジメント(Vol.16参照)にきちんと取り組むことにより効率的で生産性の高い医療を実践することが必須です。各病院がどのような医療を目指すのか、方向性を持つことが極めて重要になります。『治す医療』なのか、『治し支える医療』なのか。あるいはケアを中心に『支える』のみに特化するのか。方向性が決まれば、どういうスタッフに働いてもらうかも決まってきます。病院の経営方針とスタッフの採用はひと続きの問題なのです。
多くの病院では、医療の質、病院の質、経営の質を担保し、向上させるマネジメントがあまりうまくできていません。病院が質の向上の意識を持ち、進められるトップを決め、相応した組織を作ってきちんと実行すれば質は上がっていくはずです。これまでの病院経営では診療報酬や加算にばかり目が向けられていました。今後はもっと根本的なところに目を向ける必要があります」
――最後に、セラピストに向けてのメッセージをお願いします。
「あわてて専門家になろうとせず、オールラウンドに対応できる力をじっくりと蓄えた上で自分の専門分野を作っていくというスタイルを崩さないでほしいですね。セラピストは総合力が大事。人を総合的に診られることが基盤です。総合力の上に築かれた専門性こそが重要なのです」
――ありがとうございました。
相澤孝夫(あいざわ たかお)
一般社団法人日本病院会会長
- 1973年
- 東京慈恵会医科大学卒業
- 1973年
- 信州大学医学部附属病院
- 1981年
- 特定医療法人慈泉会相澤病院 副院長
- 1988年
- 社会福祉法人恵清会 理事長
- 1994年
- 社会医療法人慈泉会相澤病院 理事長・院長
- 2008年
- 社会医療法人財団慈泉会相澤病院 理事長・院長
- 2017年
- 社会医療法人財団慈泉会理事長 相澤病院最高経営責任者(現職)
- 2017年
- 一般社団法人日本病院会会長(現職)
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