言語聴覚士が取り組む、失語症のコミュニケーション支援
公開日:2017.02.06 更新日:2017.02.17
失語症のある患者さんは、コミュニケーションに支障があるため、社会から孤立してしまう傾向があります。そうした失語症者の社会参加に問題意識をもった現場の言語聴覚士によって、患者さんの社会参画をうながす取り組みがスタートしています。近年注目される「会話パートナー」の養成について、広がりつつある取り組みやその様子をお伝えします。
行き届かない失語症者への支援
現在、日本には失語症の患者さんが20~50万人ほど存在していると推測されていますが、厚生労働省は実態調査を行っておらず、支援も滞っているのが現状です。市町村事業でのコミュニケーション支援といえば手話通訳や要約筆記などの活動が多く、日常生活における手助けとは異なります。失語症者は自分の意志を的確に表現できないため、地域社会への参加が大きく制限されている状況。
特に、一人暮らしの失語症者には、日常生活を送るうえで多くの困難が生じます。銀行や役所での手続き、売買契約、未知の商品の問い合わせというような対応には複雑なコミュニケーション能力が必要だからです。全国失語症友の会連合会の調査によると、在宅失語症者の4人に3人は社会参加できていないと思われる結果が出ています。
会話パートナー養成事業
言語聴覚士として、失語症の患者さんと関わるのはリハビリが中心です。日常生活の支援に関わりたいと思っても、現行の制度では限界があります。
そこで考案されたのが失語症者への支援を行うボランティア、「会話パートナー」の養成です。会話パートナーの養成は、1997年にカナダ在住のオーラ・ケーガンによって始められました。会話パートナーは失語症者の抱える悩みや生活の不便さを理解し、スムーズにコミュニケーションがとれるよう橋渡しとなる役割を担います。日本では地域ST連絡会が呼びかけ、全国の言語聴覚士によって養成事業は広がりつつあります。具体的な取り組みを行っている愛知県名古屋市と神奈川県横浜市の事例を紹介しましょう。
- 「あなたの声」を結成――愛知県名古屋市
愛知県では有志の言語聴覚士によって2004年に失語症会話パートナー養成講座が始まりました。2011年時点で205名の修了生を送り出しています。2007年には修了生の会「あなたの声」が結成され、現在は「あなたの声」への入会をもって、会話パートナーとしての登録とされています。
「あなたの声」登録者は失語症友の会や福祉施設でグループ活動をしたり、手紙の代筆や話し相手、外出の援助などの個人支援をしたりするだけでなく、「あなたの会」の組織運営も行っています。
- 行政と連携――神奈川県横浜市
神奈川県横浜市の活動団体「横浜失語症者のコミュニケーションを支援する会」は、横浜市福祉局(現健康福祉局)の補助事業として運営されています。2001年に結成され、年40名を養成しています。この事業の特徴は、単に会話パートナーを養成して派遣するだけでなく地域への啓蒙活動を兼ねているという点です。言語聴覚士による失語症講座や会話パートナーのフォローアップ講座も開催され、活動に広がりを見せています。
養成して終わりではない
失語症患者さんに向けての支援として「会話パートナー」の養成は広がりを見せています。しかし会話パートナーが増えても、必ずしも必要な人への支援にたどり着くわけではありません。
失語症者の集まるサロンのような場では会話パートナーの支援が得られるものの、買い物のサポートのような個人支援となると、十分な支援が受けられるとはいえない状況です。
支援をどのように利用すればよいかわからない当事者や家族も多いようです。また、脳梗塞などの影響から中途失語を発症したものの、病院を退院する際にコミュニケーション支援の情報を知らされず、そのまま支援の手から離れてしまう人も多くいます。
こうした状況を回避するには言語聴覚士の啓蒙活動が必要です。退院や言語訓練のタイミングで会話パートナー派遣の案内や失語症友の会の案内を渡すといった情報提供を行いたいところ。横浜市のような地域ぐるみの啓蒙活動によって、失語症者への理解度を上げていくことも忘れてはなりません。一人で大きなことはできませんが、小さなことでも多くの人が取り組めば大きな花が咲きます。失語症の患者さんの笑顔を増やしていくために、これからも言語聴覚士の活躍が期待されるところです。
【参考URL】
- 失語症者のコミュニケーション支援事業|横浜市
- 会話パートナーによる失語症者支援の現状と今後の展望 ‐愛知県における7年間の取り組み-|健康医療科学研究
- 失語症者のエンパワメントに向けた提案と課題|愛知県立大学教育福祉学部論集
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