デュアルタスク・トレーニングで評価の安定性が高いメニューは?
公開日:2017.03.20 更新日:2017.03.31

「歩きながら音楽を聴く」「テレビを見ながら洗濯物をたたむ」など、2つの課題を同時にこなす「デュアルタスク」。生活のなかで日常的に行われているデュアルタスクを、パーキンソン病患者さんへの介入法として採用し始めている理学療法士も近年ではいるようです。
そこで今回は米国理学療法協会(APTA)の学会誌『フィジカル・セラピー』より、パーキンソン病患者さんにおける、デュアルタスク評価の信頼性についての論文をご紹介します。ぜひ参考にしてください。
Test-Retest Reliability of Dual-Task Outcome Measures in People With Parkinson Disease
パーキンソン病患者におけるデュアルタスク評価基準の再検査信頼性
Carolien Strouwen, Katholieke Universiteit Leuven
Esther A.L.M. Molenaar, Radboud University Medical Center
Samyra H.J. Keus, Radboud University Medical Center
Liesbeth Münks, Katholieke Universiteit Leuven
Bastiaan R. Bloem, Radboud University Medical Center
Alice Nieuwboer, Katholieke Universiteit Leuven
研究テーマ
デュアルタスク・トレーニングは理学療法において、パーキンソン病患者さんに対する介入方法としての根拠が認められてきています。このような介入方法の効果を評価する今後の研究には、信頼性の高い評価基準が必要です。しかし、これまでパーキンソン病患者さんにおけるデュアルタスク評価の再検査信頼性(※)は、ほとんど知られていません。
この研究の目的はパーキンソン病患者さんにおける、デュアルタスクの評価基準の信頼性を査定することでした。
※再テスト信頼性(再検査信頼性):被験者が短期間で変化しないことを前提とし、一定の時間をあけて同一被験者に同一試験を繰り返した結果間の相関。
研究方法
薬物治療中、なおかつ、ミニメンタルステート検査のスコアが24以上のパーキンソン病患者さんに、第1課題である「歩行」と同時に以下の第2課題をそれぞれ行ってもらいました。
- 「逆順数唱」:検査者が口頭で述べる複数の数字を一時的に覚え、逆から答える認知課題(例:検査者「10、21、3」被験者「3、21、10」)
- 「聴覚ストループ」:回答者が音を聞いてそのピッチや音量、持続時間を判断する認知課題
- 「モバイルフォン操作」:携帯電話を操作する機能的課題
デュアルタスク課題の評価後、6週間の間隔をあけて再び同じ時刻に課題を行い再評価しました。また、以下の3つ(4種)の再テスト信頼性を評価しました。
- 歩行デュアルタスク:各第2課題を行いながらの歩行
- 認知デュアルタスク:歩行しながらの認知課題(2種)
- 機能的デュアルタスク:歩行しながらの機能的課題
研究結果
39~89歳の被験者62名は、いずれもホーン&ヤールの重症度分類※ではⅡ~Ⅲ度にあたります。
※ホーン(Hoehn)氏とヤール(Yahr)氏が作った、パーキンソン病の5段階評価。最も軽度なⅠ度から、日常生活に介助が必要なⅤ度まで。
ICC(級内相関係数※)によると、歩行デュアルタスク評価の信頼性がとても高い(excellent)ことがわかりました。
※ICCには検者間誤差(複数の検者による評価の間に出る誤差)と検者内誤差(1人の検者による評価の間に出る誤差)の2種類があるが、ここでは検者内誤差であるIntraclass Correlation Coefficientを指しており、数値が高いほど誤差が少ないことを示す。
歩行と各第2課題を組み合わせた、それぞれの歩行デュアルタスク評価のICCは、以下のとおりです。
- 第2課題が「逆順数唱」の場合のICC: 0.86~0.95
- 第2課題が「聴覚ストループ」の場合のICC: 0.86~0.95
- 第2課題が「モバイルフォン操作」の場合のICC: 0.72~0.90
歩行デュアルタスクにおける速度測定の標準誤差は0.06~0.08メートル/秒で、検出できる最小限の変化は0.16~0.22メートル/秒になりました。
また、認知デュアルタスク評価に関しては、反応時間を見ると信頼性が高い(good~excellent)ことがわかりました。(「逆順数唱」のICCは0.75、「聴覚ストループ」のICCは0.82)
結論
パーキンソン病患者さんにおいてデュアルタスク評価は、臨床試験で利用するうえで信頼性が高く、診療でデュアルタスク・トレーニングを行ったあと改善度を評価するうえでも有望であることが証明されました。しかしながら、意味のあるエフェクト・サイズを得るには、大きな効果が求められます。
研究の限界
この結果は、疾患が進行している患者さんやほかのデュアルタスク評価にも当てはまる一般論であるとは言えません。
囲Reprinted from Phys Ther. 2016;96(8):1276-1286, with permission of the American Physical Therapy Association. ©2016 American Physical Therapy Association. APTA is not responsible for the translation from English.
(この記事は、米国理学療法協会(APTA)の学会誌『フィジカル・セラピー』96巻8号1276~1286頁に掲載された論文の概要を翻訳したものであり、セラピストプラスが同協会の許可を得て作成および掲載しています。論文概要の著作権はAPTAにあると同時に、同協会は翻訳文について一切の責任を負いません。)
参考URL
米国理学療法協会・学術誌 『Journal of the American Physical Therapy Association』
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