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高次脳機能障害に対してドイツで行われた芸術療法の事例2015.04.20

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日本ではまだあまり認知されていない芸術療法(アートセラピー)ですが、海外では精神科、心療内科のみならず、がん治療、認知症治療、障害児教育などさまざまなクライアントを対象に行われています。今回は高次脳機能障害を持つ患者さんのために、ドイツで実際に行われた事例についてレポートします。

ドイツでの芸術療法

芸術療法は比較的新しい分野ですが、ドイツ国内ではアートセラピスト育成のための教育機関がいくつも存在し、学士や修士などの称号を得ることが可能です。アートセラピー協会も複数あり、病院内で治療のために芸術療法が処方された場合は保険が使えるなど、社会的な認知も日本に比べて進んでいます。

高次脳機能障害に対する芸術療法で目指すこと

今回ご紹介するプロジェクトは、ドイツのカールハインツ・メンツェン氏が行ったものです。彼は認知症患者に対しての芸術療法をはじめ、高齢者医療におけるアートセラピーの研究を行っています。
今回の事例の対象者は、クモ膜下出血、外傷性脳損傷、脳梗塞などを経験した高次脳機能障害を持つ患者さんです。それらの患者さんを対象に芸術療法を行うときは、どのようなことが目指されるのでしょうか。
メンツェン氏は高次脳機能障害において、情報を習得し、そこから新しいものを作り出すという日常的な学習プロセスが、通常どおり行われなくなることを特に問題視しています。神経細胞のネットワークが破壊されたとき、人は目で見たものを絵や模様として認識できなくなります。知覚したさまざまな刺激を、脳内でひとつのまとまった情報として再構成することができなくなってしまうのです。メンツェン氏はこの脳内のプロセスを手助けすることこそ、芸術療法士の仕事であるといいます。
彼は今回のプロジェクトのために、モンドリアンの絵の模写を提案しました。モンドリアンはオランダの抽象画家で、水平、垂直の線で画面を分割し、できた四角形の面を赤・青・黄の原色で着彩した幾何学的な作品群で有名です(「赤・青・黄のコンポジション」など)。モンドリアンのシンプルかつ規則的な絵の構成は、重度の高次脳機能障害を持つ患者さんも比較的簡単に認識し、再現することができるモチーフといえるでしょう。それでもメンツェン氏は、偉大な抽象画家の絵画の模写という課題で、プロジェクトの参加者にプレッシャーを与えないように、まずはシンプルな課題から始めることにしました。

絵の具を使った泥遊び

彼は壁土を使って泥を作り、フィルムで覆った机の上にその泥を広げました。参加者はまず、その泥と手のひらにとった絵の具を混ぜるという泥遊びから体験することになります。初めはとまどいながら、どちらかといえば無意識的に机の上で両手を動かしていた参加者たちも、次第に意識的に泥遊びのなかで彼らなりの表現を見つけていきました。
メンツェン氏はこの技法を、身体の左側が麻痺している脳梗塞患者に使用したこともあります。その患者さんの右手が円を描いている際に、左手もときどき動いているのが確認できたそうです。このように、意識的な動作と無意識的な動作は連鎖していて、互いに影響し合っているといえます。
その後、メンツェン氏はお菓子作りをプロジェクトに取り入れました。本来であれば芸術療法には含まれませんが、形を作るということを学習できるお菓子作りを利用し、参加者がモンドリアンの絵を模写するために必要な準備を少しずつ整えていったのです。

モンドリアンの絵の模写を通して

モンドリアンの絵の模写は、共同制作として大きな紙の上で行われることになりました。紙の中心にモンドリアンの絵のコピーを貼り付け、コピーの直線を紙の端まで伸ばすように描き、コピーの絵をさらに展開させていく、という制作手順が決定しました。
まずは、紙に貼り付けられた絵のコピーを鑑賞するところから始めます。モンドリアンの絵の単純明快さを、プロジェクトの参加者は気に入ったようです。手本として、メンツェン氏が自らコピーの直線を伸ばすように、筆で直線を引いていきます。参加者も線を描こうと試みますが、大きな紙にまっすぐな線を引くという行為は彼らにとってはひと仕事です。
また、線を引くうちにできあがった四角に塗る色を選ぶこと、色を混ぜること、塗りつぶされた四角の色を認識することなども、参加者にとっては難しい作業でした。しかし、それでも彼らは巨大なモンドリアンの絵の模写を制作することに成功したのです。
メンツェン氏は参加者たちがとても意欲的に制作していたこと、作品が完成し、廊下に展示されたときに、参加者たちがとても誇らしそうにしていたことを述べています。
高次脳機能障害を抱える患者さんにとって、失われた自己価値観を取り戻すのは大きなテーマのひとつです。作品制作での小さな成功を通し、患者さんたちが少しずつ自信を取り戻していけるのも芸術療法ならではのメリットでしょう。

 

【参考URL】

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