言語聴覚療法で娘が急成長! 嬉しい反面、ちょっと寂しい母心
公開日:2015.06.08 更新日:2015.06.15
患者さんとうまくコミュニケーションが取れたとき。訓練の効果が見えたとき。言語聴覚士にとって、結果が出せたときほど嬉しい瞬間はありません。懸命にサポートしてくれたご家族とも喜びを分かち合えると、達成感もひとしお。しかし、なかには言語聴覚療法の成果を複雑な心境で見守るご家族もいるようです。
両側性裂脳症の娘を抱えて
アメリカのアリゾナ州に住むコラムニストのアディバ・ネルソンさん。彼女の娘が両側性裂脳症と診断されたのは、生後10ヵ月のときでした。
裂脳症は、10万人に1~2人という割合で起こる先天的な脳の形成異常です。「話すことやコミュニケーション能力に影響があるかもしれない」「知能の発達も遅れる可能性がある」。医師から聞く言葉は厳しいものばかり。それでも、アディバさんは諦めませんでした。むしろ医師たちを見返してやろうというくらいの気持ちで、よいセラピーを探すために週5日、ひたすら街のなかを車で走り回ったといいます。
そして5年間、アディバさんはありとあらゆるセラピーを娘に受けさせました。家の電気代を払うか、娘のおむつ代を払うか。生活がそれだけ厳しいときでも、言語聴覚療法や理学療法を受けに病院に通うためのガソリン代だけは死守してきたそうです。
2人の間でだけ通じる手話
言語聴覚士の指導で発声訓練に励むものの、まだ話すことができない我が子。それでもなんとかコミュニケーションを取ろうとして懸命に接するうち、アディバさんと娘との間に独自の手話が誕生しました。ほかのだれにもわからない、二人の間でだけ通じる手話です。
膝を叩いて目をこするのは、眠いから抱っこしてという意志表示。口を大きく開いて指を入れるのは、おなかが空いたということ。そして、右こぶしを左肩に当ててからこちらを指さすのは、「大好きよ」というメッセージ。毎日休みなくセラピーに通う娘を励ます愛情表現も、訓練に疲れ果てた娘が眠いと訴えるときも、ずっとこの手話を使ってきたといいます。
手話に代わる機械の音声
独自の手話でコミュニケーションを取ってきた母娘。その間もセラピーでの訓練を続け、やがてセラピストたちと二人の努力は実ります。アディバさんの娘は5歳で自立歩行訓練を行えるほどに成長。自分で食べ物を口に運べるようにもなり、言語聴覚療法の発声練習では言葉に近い声も出せるようになったのです。
そんななか、言語聴覚療法の一環として娘に与えられたのが、コミュニケーションアプリでした。タブレットに表示されたイラストをタップすると、電子音声でその言葉が流れるというものです。絵と音声で物事の名前を覚える助けになるほか、指先のコントロールや他者との意志疎通にも役立ちます。こうして、小さな少女が自分の思ったことを人に伝える手段がひとつ増えました。
娘の成長を見守る母の心境
5歳の娘が見せる急成長に、母親のアディバさんも喜んだことでしょう。しかし、実際は喜びばかりではなかったそうです。苦労が報われ、娘がセラピーで生活能力を高めてゆく姿が嬉しい反面、とても寂しい思いもしていると語っています。
周りの誰にもわからずとも、自分は娘が泣いている理由を2秒で理解できた。そんな母親だけの持つ能力が、急に失われたような錯覚に陥ったそうです。娘の視線がこちらではなくタブレットに注がれており、膝を叩いて目をこする代わりに「寝る」とひと言流れる機械の声は、確かに無機質に聞こえるのかもしれません。彼女の娘が言葉を伝えたい相手の目を見てタブレットを操作したり、自分の口でも発声したりできるようになる日はくるのでしょうか? もしもそうなれば、アディバさんの気持ちもまた大きく変わるかもしれません。
患者さんの家族とともによりよいセラピーを
言語聴覚療法をはじめとする訓練に励む患者さんを周りで支えるご家族も、セラピーに取り組む一員。彼らの協力は、患者さんが前向きにリハビリを続けられるかどうかを大きく左右します。患者さんのリハビリを見守る家族の思いはさまざま。うまくコミュニケーションを取りながらそれぞれの事情をよく理解し、セラピーをよい方向に導いていきたいですね。
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