アメリカ研究最前線! 電磁パルスが耳鳴症を緩和する新たな選択肢に
公開日:2015.11.11 更新日:2015.11.19
しばしばセラピーに用いられ、理学療法士にとっても身近な電磁パルス。今回、アメリカで行われた新たな臨床研究により、そんな電磁パルスが耳鳴症の症状を和らげる新たな選択肢になりうることがわかりました。JAMA(米国医師会雑誌)で発表された研究と、その結果をご紹介します。
耳鳴症の現状と従来のアプローチ
耳鳴症は、外部で音が鳴っているわけではないのに雑音が聞こえるという聴覚異常の一種です。耳の怪我や、加齢による難聴などにより、およそ5名に1名が経験するといわれています。また、慢性的な患者のうち約20%は、生活に支障をきたすほど耳鳴りがひどいと訴えるようです。
耳鳴症は何十年にも渡って新しい治療法を研究されてきましたが、誰にでも効く治療法は見つかっていません。現代の耳鳴症の対処法としては、主に次の3つのアプローチがあげられます。マスキング療法、薬で症状を緩和すること、そして、耳鳴りを引き起こしていると考えられるほかの原因を治療対象とすることです。今回研究が行われた電磁パルスによるセラピーは、これらに加わる新たなアプローチとして注目されています。
耳鳴治療と反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)
第一に、耳鳴りを訴える患者は、健常者に比べて大脳皮質の聴覚を司る領域が活性化していることが発見されています。そして、第二に、低周波の反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)が、照射した脳領域の活動を低減させることも知られています。それら2つの事実をあわせて生まれたのが、「大脳皮質の異常に活性化している領域にrTMSを照射することで、耳鳴りを抑えられるのではないか」という仮説です。
これを確かめるため、アメリカのオレゴン健康科学大学およびポートランド退役軍人医療センターに勤めるロバート・L・フォルマー氏が中心となり、以下の臨床研究を行いました。
被験者は、無作為に選んだ耳鳴症患者70名です。彼らに、「有効と考えられるrTMS」または「プラセボ(形だけで実際は無効)のrTMS」による電磁パルスを照射します。いずれも、1日1セッション2,000パルスを、10日間に渡って連日照射するというスケジュールです。そして、最終日から1、2、4、13、26週間後の計5回、各被験者の耳鳴りの症状を、主観的な評価手法であるTFI(耳鳴機能指標)によって調べました。
臨床研究の結果から見えるrTMSの可能性
今回の臨床研究の結果、電磁パルスの照射によって耳鳴症の症状に変化が見られたのは、耳鳴り軽減に有効と考えられるrTMSを施した患者のうち56%(32人中、18人)、プラセボのrTMSを施した患者のうち22%(32人中、7人)でした。26週間後に行ったTFI評価によると、研究開始時点と比べ、有効と考えられるrTMSを施した患者で約31%、プラセボのrTMSを施した患者で約7%、症状が軽くなったそうです。
この結果を受け、研究者は引き続き臨床研究の被験者の人数を増やすことで、最適な照射セッションの回数、治療効果の有無と関係している要素、治療の効果が1年以上持続するかどうかなどを探っていきたいと話しています。また、プラセボとして使ったrTMSが完全に無効ではなかった可能性があると見て、使用する電磁パルスの強さを落として効果を示す患者が減るかどうかについても確認していくようです。
rTMSは、これまでのアプローチに代わる解決法ではありません。しかしながら、これまで使われてきた耳鳴りの緩和治療で効果が出なかった患者に試すことができる、新たな選択肢です。聴覚系は各症状の原因や治療法の見極めが難しいようですが、仮説を追求した今回の臨床研究により、また一歩前進したといえるでしょう。
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