アルツハイマー型認知症に合併する言語症状
公開日:2023.09.26
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
本記事の概要
今回取り上げる過去問のテーマは、アルツハイマー型認知症に合併する言語症状です。アルツハイマー病は認知症の主要な原因疾患であり、記憶障害を中核とすることはよく知られていますが、比較的早期から言語コミュニケーション障害を認めることはあまり知られていません。そこで今回は、アルツハイマー型認知症に合併する言語症状と共に、臨床における評価と介入のポイントを解説していきます。
《問題》通常のアルツハイマー病で比較的早期から出現する言語症状はどれか
【言語聴覚士】第22回 第64問
通常のアルツハイマー病で比較的早期から出現する言語症状はどれか。
a.漢字の書字障害
b.音韻性錯語
c.発語失行
d.語義失語
e.喚語困難
- 1. a,b
- 2. a,e
- 3. b,c
- 4. c,d
- 5. d,e
解答と解説
正解:2
アルツハイマー型認知症では比較的早期の段階から言語コミュニケーション障害が出現します。今回の設問の中では「a.漢字の書字障害」、「e.喚語困難」が比較的早期から認められる症状になります。その他にも、理解・表出ともに談話障害を認めることが知られています。
実務での活かし方~アルツハイマー病に合併する言語症状の評価と介入~
アルツハイマー型認知用に合併する言語症状ついて解説していきます。今回は(1)アルツハイマー型認知症に合併する言語症状 (2)臨床における評価と介入のポイント の2項目でご説明します。
(1)アルツハイマー型認知症に合併する言語症状
アルツハイマー型認知症は、海馬や側頭葉内側面の障害による記憶障害や側頭・頭頂・後頭領域の障害による語健忘や視空間性障害、失行症などが特徴的な症状です。また、症状の進行に伴い注意、遂行機能、学習と記憶、言語、知覚・運動、社会的認知の障害を認めることがあります。
アルツハイマー型認知症に合併する言語症状には、先ほどの過去問でも解説したように、「喚語困難」や「漢字の書字障害」の他にも、理解・表出ともに談話の障害を認めることが知られています。具体的には複雑な会話についていけない、話の筋を理解できないといった理解の障害や、文法障害や同じ話を繰り返してしまう、質問に対し唐突で的外れな答え、「あれ」「それ」などの指示代名詞の多用といった表出の障害を認めます。
(2)臨床における評価・介入のポイント
アルツハイマー型認知症は変性疾患であり症状が進行していくため、低下する能力と保たれる能力の両方の視点から評価することが重要です。介入のポイントも同様であり、保たれる能力を最大限に発揮できるような介入を行う必要があります。
(認知症の方への言語聴覚療法の考え方についてはこちらの記事を参考にしてください)
認知症の方への適切な訓練とは?言語聴覚療法の考え方<リンク:https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/kokushi/drill/8301/>
認知症者の補聴器装用率は極めて低く、談話の理解障害の原因となることが知られています。また、近年では軽度認知障害(MCI)と難聴との関連性を指摘する報告があり、難聴が認知症のリスクを高めることが知られています。今後、言語聴覚士が聴覚への介入を行うことが、認知症予防の観点からも重要となると考えられています。
まとめ
アルツハイマー型認知症に合併する言語症状について解説しました。アルツハイマー型認知症では、喚語困難や漢字の書字障害、談話の障害を認めます。実際の臨床では、低下する能力と保たれる能力の両方の視点から評価・介入を行うことが重要です。また、聴覚についての評価・介入を行うことが極めて重要であり、今後認知症予防の観点からも、言語聴覚士による聴覚への介入が必要になると考えられています。
[出典・参照]
藤田郁代ら.標準言語聴覚障害学 失語症学 第3版.医学書院,2021
中川良尚.言語機能障害(失語症)の予後予測.総合リハビリテーション 2018;46(7)
前田葉子. 急性期病院における嚥下障害患者の予後予測―初回スクリーニング検査からみた帰結と不顕性誤嚥の検討―.日摂食嚥下リハ会誌 2010;14(3)
近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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