赤ちゃんの座位発達段階について
公開日:2024.02.22
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
赤ちゃんの発達段階を理解する意義
生まれて間もない赤ちゃんは、大人がいなければ生きていけない身体で生まれてくるものの、環境に応じさまざまな知覚・運動・認知的な働きかけを行う力(脳)を持って生まれてきます。
特に、自ら立ち上がり歩き始めるまでの約1年間に見せる姿勢の発達過程は、生まれ持った力を自ら環境に応じ発揮していくために欠かせない経験の場。同時に、生涯を通じて脳や身体の能力を磨きあげるための土台となっていきます。単に寝返りや座位、つかまり立ちなどができるのではなく、一つひとつの姿勢を獲得するまでの過程に意義があります。
さまざまな姿勢(姿勢の保持・変換技能)を獲得する過程を支援するうえで、その順序性:一定の規則、型をもって個々の課題を理解する視点が大変重要です。例えば、座位(お座り)を獲得するまでの順序について、作業療法士の国家試験では以下のような問題が出題されています。
《問題》座位の発達段階の順序で正しいのはどれか。
【作業療法士】第58回 午後5
座位の発達段階の順序で正しいのはどれか
<選択肢>
- 1. A→C→B
- 2. B→A→C
- 3. B→C→A
- 4. C→A→B
- 5. C→B→A
解答と解説
正解:4
姿勢の発達では、(1)抗重力活動、(2)姿勢の保持(支持基底面内での重心の安定)、(3)バランス(重心の移動に伴う姿勢の保持)の能力を徐々に高めていきます。うつ伏せで腰や頭、胸を挙げる、寝返りをする……というようにだんだんと難易度を高めるなかで、寝返りやお座りに向けて少しずつ姿勢が三次元的になってきます。
座位の発達では、座らせた状態から背中を伸ばし頭を上げられるようになり、ぐらつかなくなると、次の段階では自分の両手のひらで床面を押して身体を支え座るようになってきます(C)。
大人が支えることなく座る時間が長くなってくると、体幹しっかり保持した状態で両手を使用するになります(A)。
さらに安定すると、両下肢でしっかり支持基底面をとって体幹を回旋させながら両上肢を広げ、重心移動を伴うリーチ動作が可能になってきます(B)。
座位の発達をはじめとした姿勢の発達過程では、重力に抗した動きや重心(体幹)の安定、重心の移動に伴うバランスの保持といった歩行やより複雑な運動・動作の土台をつくるための経験を積んでいきます。赤ちゃんが自分から環境へ働きかけることによって身体の位置や動きの変化に気付き(:体性感覚・前庭覚・視覚)、環境との相互作用のなかで失敗や成功を繰り返すほど、後々ひろがる探索活動をより豊かなものとします。これらの経験は、歩くまでの期間だけではなく、就園、就学、さらにはその後の身体づくりにとっても有意義なものです。
実務での活かし方 ~発達不安への作業療法士としてのアプローチ~
「お座りができないままハイハイがはじまりました」「まだ一人で座っていられないのにつかまり立ちをします」等など、定型発達と言われる順番とは違った順番で育ったり、その時期がずれてしまったりしている様子を心配される保護者さまは少なくありません。
もちろん運動の発達には個人差がありますので、時期が少し前後しても、赤ちゃんが過度にがんばることなく自分から動いている分にはさほど大きな問題ありません。無理をして練習をするよりは、クッションを置いたり興味をひくおもちゃを活用したりして、座って遊ぶ感覚を楽しむ経験ができるようにすると良いでしょう。
一方で、おもちゃをすぐに落としてしまったり、姿勢がだらりとしていたり、その他の発達:感情の表現や大人の真似、食事を摂る場面での心配や子育て上のお困り感があれば、保護者さまだけで抱えることのないようサポートしていきましょう。
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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