医療介護・リハビリ・療法士のお役立ち情報

セラピストプラス

マイナビコメディカル
マイナビコメディカル

医療介護・リハビリ・療法士のお役立ち情報

セラピストプラス

二分脊椎と脊髄係留症候群について

公開日:2023.12.26

pixta_17548091_S.jpg

文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

二分脊椎とは

二分脊椎(spina bifida)は、脊椎の椎弓の先天異常です。脊椎は椎骨が連結して形成されています。一つ一つの椎骨には、前方に支柱となる椎体、その後方に椎弓で囲まれた脊柱管が存在しており、その中を脊髄が通っています。生まれる前の胎生期の8から10週頃に、左右対称に生じる骨核が癒合して閉じて、椎弓が形成されます。その癒合が不十分な場合に、椎弓が閉じずに開いたままとなり、二分脊椎が生じます。胸椎より下部に多く、特に腰椎から仙椎に多く認められます。

そのため、主に下肢を中心とした運動麻痺を認め、いわゆる脊髄損傷による対麻痺と類似した障害を示しますが、水頭症やChiari奇形などの脳や上位頚椎の障害を伴うことが大きく異なります。また、成長・発達過程での障害であるため、移動能力だけでなく、知的機能、社会的機能などの全体的な発達への影響に配慮した支援が必要となります。

二分脊椎の分類

このような椎弓の癒合不全が生じた状態で、髄膜や神経組織の脊柱管から外への脱出する状態によって、以下のように分類され、神経障害の有無に影響します。
————————————————————
・潜在性二分脊椎 spina bifida oculta
椎弓の癒合不全はありますが、髄膜(硬膜とくも膜)や神経組織が脊柱管の外へ脱出していない状態です。神経症状はありません。レントゲンで、たまたま発見されることがほとんどです。

・嚢胞性二分脊椎 spina bifida cystica
嚢胞の内容によって、脊髄瘤、髄膜瘤、脊髄髄膜瘤、脊髄嚢瘤に分けられますが、臨床的には「髄膜瘤」「脊髄髄膜瘤」が一般的です。
————————————————————
髄膜瘤 meningocele:髄膜(硬膜とくも膜)が背部に膨隆している状態です。内容は髄液のみで、神経組織の位置は正常です。そのため、神経障害は伴いません。

脊髄髄膜瘤 myelomeningocele:髄膜と共に、神経組織が脱出している状態であり、神経障害を伴います。また、水痘症、Chiari奇形、脊柱変形なども伴うことがあります。
多くの場合は、その膨隆部が皮膚・皮下組織・皮下脂肪組織に覆われた閉鎖性脊髄髄膜瘤で、緊急的な外科的治療は必要とされません。
皮膚欠損を伴っている状態が開放性脊髄髄膜瘤で、放置すると感染により死に至る危険が高いため、出生後直ちに外科的な閉鎖術が施行されます。

関連する状態として脊髄係留症候群があります。先天的、あるいは二次的に、主に脊髄円錐部(脊髄の下端)が、脂肪腫、緊張性終糸などによって係留(周囲の組織への癒着)された状態です。正常の場合、成長に伴い、身長の増加に応じて脊髄は上方へ移動しますが、下部に脊髄が係留するために、脊髄が伸ばされます。そのために神経障害を生じます。長期間放置することで症状が不可逆性となるため、外科的な治療(係留解除)が選択されます。

いずれの場合でも、神経組織の障害の程度や部位に応じて、下肢の運動麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害などの神経症状を認めます。

二分脊椎の発生頻度

欧米では二分脊椎の発生頻度は減少傾向にありますが、日本では、明らかな減少傾向は示していません。図にその患者数の推移を示しました。2012年は、1万出生あたりの発生頻度は5.18と報告されています。

pixta_17548091_S.jpg

図 二分脊椎の1万発生あたりの患者数(International Clearinghouse for Birth Defects Surveillance and Research: Annual report 2014より作成)

《問題》二分脊椎で正しいのはどれか。

【理学療法士】第57回 午後88
二分脊椎で正しいのはどれか。

<選択肢>

  1. 1. 髄膜瘤は神経障害を伴う。
  2. 2. 脊髄係留症候群の好発年齢は2〜3歳である。
  3. 3. 脊髄係留症候群は上肢の感覚障害を伴う。
  4. 4. 脊髄髄膜瘤では Chiari 奇形の合併は稀である。
  5. 5. 脊髄髄膜瘤では水頭症を合併する。

解答と解説

正解:5

1.髄膜瘤の症状について
髄膜瘤は、髄膜が背部に膨隆している状態で、内容は髄液のみで、神経組織は含まれません。そのため、神経障害は伴いません。

2.脊髄係留症候群の特徴
脊髄の下端が癒着した状態で、成長期の身長の増加によって脊髄が伸張されて症状が発現するため、学童期から青年期に発症することが多く、成人になってから発症することもあります。

3.脊髄係留症候群の症状
また、脊髄下端の脊髄円錐部が係留され、伸張されるため、その症状は、歩行障害、腰痛、下肢痛、下肢の感覚障害・筋力低下、膀胱直腸障害などであり、上肢の感覚障害は伴いません。

4.水頭症とChiari奇形について
水頭症とChiari奇形は、脊髄髄膜瘤に伴って認めることが多い合併症です。
水頭症は、脳脊髄液の循環が阻害されることによる脳圧が上昇した状態で、脳画像で、脳室の拡大を認めます。頭痛や嘔吐、意識障害などを認めることがあり、脳脊髄液を、脳室から腹腔へチューブで通すための、脳室ー腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt:V-Pシャント)が、一般的に行われます。
Chiari奇形は、小脳や脳幹の一部が、頭蓋骨の大後頭孔から頚椎の脊柱管へ陥入した状態です。脊柱管周囲組織による小脳や脳幹への圧迫や、脳脊髄液の循環を阻害することなどから、神経症状が出現します。陥入する範囲から分類される場合もありますが、脊髄髄膜瘤を合併しない場合を1型、合併する場合を2型と呼びます。
1型に対する治療は、小脳、脳幹の圧迫や脳脊髄液の循環障害を解除するための外科的治療(第1椎弓切除術・硬膜形成術)が行われます。
2型の場合には、脊髄髄膜瘤と水頭症に対する治療が優先され、それでも症状が出現した場合には、Chiari奇形に対する減圧術が行われます。

二分脊椎の脊髄髄膜瘤で生じる障害と発達過程における影響

二分脊椎の脊髄髄膜瘤に対して、適切な治療が施された場合でも、その程度はさまざまですが、下記のような多様な障害を示します。
————————————————————
◆中枢神経系の障害
・知的障害
・てんかん
・高次脳機能障害 など

◆体幹・下肢の運動障害と関連する障害
・脊柱変形(側弯や後弯)
・関節拘縮
・足部変形
・座位バランスの低下
・移動能力の低下 など

◆体幹・下肢の感覚障害と関連する障害
・褥瘡 など

◆膀胱直腸障害
・排尿障害・排便障害 など
————————————————————
胸椎以下の脊髄髄膜瘤により、脊髄の障害レベルに対応した範囲で、体幹・下肢の運動障害と感覚障害、膀胱直腸障害を示しますが、水頭症やChiari奇形等の状態によって、中枢神経系の障害も伴います。

これらの障害が、発達過程に及ぼす影響を考慮することも重要です。座位や移動などが制限されることで、上肢機能や知的機能、社会的機能などの発達にも影響する可能性があります。また、学童期から思春期以降において、肥満などにより、小児期に獲得された移動能力などが低下する可能性があることにも留意が必要です。

実務での活かし方~二分脊椎児のリハビリテーション~

二分脊椎児の障害の中核は、体幹・下肢の運動障害、感覚障害と歩行能力の低下です。麻痺のレベルは、筋力や感覚、足部変形、画像情報などから総合的に判断し、機能残存髄節レベルを同定します。

歩行能力に関しては、下記のHoffer分類が用いられることが多いです。
Community Ambulator:装具の有無に関わらず屋内外を歩行できる
Household Ambulator:屋内は歩行できるが、屋外は車椅子を利用する
Non-functional Ambulator:歩行練習は行えるが、日常生活では車椅子を利用する
Non-Ambulator:歩行できない

個人差はありますが、麻痺レベル(機能残存髄節レベル)が、第3腰髄あるいは第4腰髄レベル以下であればCommunity Ambulator、第2腰髄レベル以下ではHousehold Ambulatorが該当します。それよりも上位であっても、骨盤帯付き長下肢装具はRGO(reciprocal gait orthosis)や歩行器などを使用することで、多くの症例で歩行練習は行えることが多いです。

補助具や環境を整えて立位・歩行練習を実施することは、心身に好影響を及ぼすため、実施することが求められますが、成長に伴って、年齢や参加レベル、環境因子などによって、最適な移動手段は異なるため、個別的な検討が必要です。

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

今よりさらに良い環境で働けるよう
キャリアドバイザーが全力でサポートします
\今すぐ1分で完了/

    <PR>マイナビコメディカル

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  •  LINEで送る

他の記事も読む

おすすめ

TOPへ