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腰部脊柱管狭窄症の運動療法

公開日:2023.11.28

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文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

腰部脊柱管狭窄症とは

高齢者を中心に、殿部や下肢の痛みやしびれを訴える患者は多く、神経痛とか、坐骨神経痛などと一般に言われます。その多くは、「腰部脊柱管狭窄症」の可能性があります。
腰部脊柱管狭窄症は、加齢などの理由で脊椎が変化して脊柱管が狭くなることが原因です。骨や椎間板、靱帯などが脊柱管内の脊髄や神経根を圧迫し、殿部や下肢に痛みやしびれなど神経症状が生じます。脊椎の変形を伴う患者も多く、リハビリテーションの現場では手術後の患者を担当することも多いでしょう。

腰部脊柱管狭窄症を生じると、歩行を持続できなくなったり、下肢の痛みやしびれなどの症状を和らげるために前屈・前傾姿勢になったりします。重症な場合には、膀胱直腸障害を伴うこともあります。そのため、腰部脊柱管狭窄症を放置するのは危険ですが、治療の選択肢はいろいろあります。

現時点では、腰部脊柱管狭窄症の明確な診断基準はありません。腰椎部の脊柱管あるいは椎間孔の狭小化により、神経組織の障害あるいは血流の障害が生じ、症状を呈すると考えられています(日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会監修:腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 改訂第2版、南江堂、2021)。

正常な脊柱・脊柱管との違い

狭小化する部位は、脊柱管、神経根管、椎間孔の部分的、分節的あるいは全体的な狭小が含まれます。また、狭小化する原因も、骨性要素、椎間板、靱帯性要素などの軟部組織も、患者によって多様です。多くは加齢に伴う退行変性による脊椎症性変化によって生じますが、先天的な脊柱管の狭窄を伴っていることもあります。
図は、椎間板ヘルニア、椎体の骨突出、椎間関節の関節症性変化を示しています。すべり症、側弯症、腰椎圧迫骨折などの脊柱の形態的変化を伴うこともあります。

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図1 正常な脊柱・脊柱管と脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症の症状

腰部脊柱管狭窄症の症状は、患者によって異なります。狭小化する部分やその範囲、程度、神経組織の障害か血流の障害かなどにより、症状が違うからです。一般的な症状としては、下肢の疼痛、しびれ、倦怠感、馬尾性間欠跛行など。歩行や姿勢などの動作に伴って、症状が変化することが特徴的です。

腰部脊柱管狭窄症によくある症状として、「間欠性跛行」があります。一定の距離を歩くと、ふくらはぎなどにうずくような疼痛やしびれ、疲労感があって歩行が次第に大変になり、しばらく休息すると治まるものの、また歩き続けると再び痛みだすものです。末梢動脈疾患による「血管性間欠性跛行」と鑑別する必要がありますが、両者を合併する場合もあります。

血管性の場合には、姿勢と関係なく、立ち止まるだけで疼痛やしびれが軽減することが特徴です。腰部脊柱管狭窄症の場合は、椅子に座ったり、ショッピングカートや歩行器などに前屈みに寄りかかったりすることで症状が和らぐことが多いです。
できるだけ、疼痛やしびれなどの症状を軽減する工夫が大切。運動や過度な活動によって症状が悪化したり、「良い姿勢」と言われるような立位での直立姿勢で症状が誘発されたりすることもあるので、無理は禁物です。

腰部脊柱管狭窄症の診断基準

前述した症状から、以下のような自覚があれば腰部脊柱管狭窄症を疑うべきだと言えます。
・歩行時に殿部や下肢に疼痛やしびれを認める
・前屈姿勢で症状が楽になる
・ショッピングカートや自転車を使用すると症状が楽になる
・座ると症状が楽になる

上記のような疑わしい症状を、加齢や運動不足による腰痛といった誤った認識で放置すると、症状が増悪する可能性があり、整形外科などの医療機関の受診が必要です。

「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 改訂第2版」の診断基準案は以下の通りです。
(1)殿部から下肢の疼痛やしびれを有する
(2)殿部から下肢の症状は、立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽減する
(3)腰痛の有無は問わない
(4)臨床所見を説明できるMRIなどの画像で変性狭窄所見が存在する

診断のために、疼痛、しびれなどを含む感覚検査、筋力テスト、反射検査などが行われ、補助的にCT、MRI、脊髄造影、筋電図などの検査が行われます。特に診断には、病歴、疼痛やしびれなどの誘発要因、姿勢などによる影響の把握が大切です。

腰部脊柱管狭窄症の有病率

腰部脊柱管狭窄症の患者数や有病率については、定義や診断基準の合意が得られておらず、正確な把握は困難です。一般に、高齢になるほど増加傾向を示すと考えられています。40歳から79歳の日本人4400名を対象とした調査結果では、推定有病率は40代では2%程度ですが、加齢に伴い増加し、70代では、男女共に10%を超えています(図)。21歳から97歳の日本人1009名を対象とした他の調査でも、有病率は全体で10.1%であり、加齢に伴い増加傾向にあることがわかります(Ishimoto Y, et al.: Prevalence of symptomatic lumbar spinal stenosis and its association with physical performance in a population-based cohort in Japan: the Wakayama Spine Study. Osteoarthrits Cartilage. 2012, 20(10): 1103-8.)。

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図2 腰部脊柱管狭窄症の推定有病率

腰部脊柱管狭窄症の治療

また、腰部脊柱管狭窄症に対する治療は、保存的治療(鎮痛薬、運動療法など)と手術的治療(外科的除圧術、低侵襲脊椎手術など)です。未治療の自然経過の詳細は患者によっても多様で、わからない点も多いですが、いくつか報告があります。
2008年の臨床的ガイドラインの自然経過では、臨床的に軽度から中等度の腰部脊柱管狭窄症の患者の1/3~1/2は、症状が改善すると記載されています(Watters WC, et al.: Degenerative lumbar spinal stenosis: an evidence-based clinical guideline for the diagnosis and treatment of degenerative lumbar spinal stenosis. Spine, 2008, 8(2):305-10.)。

また、保存療法の患者の自然経過について、3年間で3割~5割の患者で症状が改善することが報告されています(Benoist M: The natural history of lumbar degenerative spinal stenosis. Joint Bone Spine, 2002, 69(5):450-7.)。そのため、まずは保存的治療で経過観察し、症状が悪化する患者や重症な患者では手術的治療が検討されます。

《問題》腰部脊柱管狭窄症で正しいのはどれか。

【理学療法士】第57回 午後87
腰部脊柱管狭窄症で正しいのはどれか。

<選択肢>

  1. 1. 先天発症が多い。
  2. 2. 内反尖足を生じる。
  3. 3. 間欠性跛行を生じる。
  4. 4. 腰椎前屈で症状が増強する。
  5. 5. 下肢の深部腱反射は亢進する。

解答と解説

正解:3

前述した内容と重複する部分もありますが、本問題から腰部脊柱管狭窄症についてあらためて解説します。

1.原因について
脊柱管が狭くなる原因はさまざまで、椎間板ヘルニア、腰椎分離症、腰椎すべり症、腰椎圧迫骨折、側弯症などを伴う患者も多いです。先天的な脊柱管狭窄を認める場合もありますが、多くは加齢に伴う退行変性による脊椎症性変化です。

2.症状について
腰部脊柱管狭窄症の症状は、脊髄、神経根への圧迫による神経症状です。神経症状は、障害される神経によって、上位運動ニューロン障害、下位運動ニューロン障害の違いがありますが、腰部脊柱管狭窄症では、一般に下位運動ニューロン障害を生じます(表)。そのため、深部腱反射は減弱・消失し、筋緊張は低下し、筋力が低下します。

表1 上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害の違い
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これらの症状に加えて、触覚や痛覚などの表在感覚や、関節覚や振動覚などの深部感覚の障害(鈍麻、脱失)や、疼痛やしびれなどの異常感覚を生じます。また、患者によっては、尿意や便意がわからなくなる膀胱直腸障害も認めることがあります。

足部の症状としての内反尖足は、一般に上位運動ニューロン障害による筋緊張の亢進に伴い、下腿三頭筋や後脛骨筋などの痙縮によって生じます。腰部脊柱管狭窄症では、前脛骨筋などの筋力低下によって下垂足を示す患者が多いです。下腿三頭筋の筋力低下も多くの患者で認めます。

正解である「3.」の間欠性跛行は、腰部脊柱管狭窄症の特徴的な症状です。末梢動脈疾患にも類似の症状を認める場合があるため、鑑別が必要です。

また、疼痛やしびれなどの症状は、姿勢によって改善することも、腰部脊柱管狭窄症の特徴です。一般に、前屈み、腰椎前屈で症状は軽減し、脊椎の伸展、直立姿勢で症状が悪化します。ショッピングカートや歩行器を使用して、体が前傾・前屈すると症状が軽減します。

血管性間欠性跛行では、歩行中に立ち止まるだけで、姿勢を変えなくても症状が改善することがありますが、腰部脊柱管狭窄症では、立ち止まるだけでは症状は変わらず、立位で前屈みになったり、椅子に座ったりしないと症状が改善しないところに違いがあります。

実務での活かし方 ~腰部脊柱管狭窄症の治療と運動療法~

腰部脊柱管狭窄症の治療は、保存的治療と手術的治療です。
手術的治療では、主に除圧術と固定術が施行されます。狭窄部分を解放する除圧術が基本で、椎弓を切除する後方除圧術が施行されます。
加えて、脊椎の不安定性を認める際には、下記のようなさまざまな固定術が施行されます。

・前方椎体間固定術 anterior interbody fusion
・前外側椎体間固定術oblique lateral interbody fusion (OLIF)
・後方経路腰椎椎体間固定術 posterior lumbar interbody fusion (PLIF)
・経椎間孔的腰椎椎体間固定術 transforaminal lumbar interbody fusion (TLIF)
・後側腰椎固定術 posterolateral lumbar fusion (PLF)

固定術には、ネジ、スクリューやロッドなどのインストゥルメンテーションを追加されることが多いです。また手術時の皮膚や筋などのダメージを最小限にする術式や、内視鏡を使用するなどの低侵襲手術も施行されています。
保存的治療は鎮痛薬、理学療法、硬膜外麻酔・ステロイド注入療法などが行われます。
運動療法などについて、「腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 改訂第2版」から紹介します。

◇運動療法
運動療法を行うことが推奨されます。専門家の指導による運動療法は、痛みの軽減や、身体機能、ADL、QOLの改善にセルフトレーニングよりも有効です。最適な運動療法の種類は明らかではなく、除圧術よりも効果は劣りますが、有害事象リスクは低く、低コストで、重症例以外では推奨されています(推奨度2(弱い)「行うこと」を提案する、エビデンスの強さB(中等度)効果の推定値に中程度の確信がある)。
運動療法の種類や方法は報告によってさまざまですが、腰痛教育、グループ運動療法、個別運動療法、徒手的治療、体幹安定化運動などが報告されています。

◇装具療法、物理療法
装具療法と物理療法の有用性に関するエビデンスは乏しいです。コルセットの疼痛の軽減と歩行距離の延長に有用な可能性があります。経皮的電気刺激療法は、術後遺残症状に有用な可能性があります。一方で、杖、超音波、温熱療法の有用性は示されておらず、牽引に関しては報告がありません(明確な推奨ができない、エビデンスの強さD(非常に弱い)効果の推定値がほとんど確信できない)。
腰椎コルセットの使用で、歩行距離の延長が得られる可能性があります。杖使用時の有用性は認められる可能性がありますが、2週間の杖使用の前後で、症状に差がなかったと報告されています。

◇脊椎マニピュレーション
脊椎マニピュレーションを推奨する十分なエビデンスはありません(明確な推奨ができない、エビデンスの強さD(非常に弱い)効果の推定値がほとんど確信できない)。
脊椎マニピュレーションは、施術者が徒手または用具を用いて、脊椎の関節に一定の力を加える手技です。カイロプラクターが行うことがほとんどですが、理学療法士なども行う場合もあります。腰部脊柱管狭窄症の患者に脊椎マニピュレーションを行なって、可動域や姿勢、脊柱管狭窄が改善したとの報告はありません。

入院患者に対しては、立位バランス練習や歩行練習が行われることも多いです。その際、直立姿勢では疼痛、しびれなどを生じやすいため、適度な前屈姿勢など、患者の症状が軽減する姿勢で行うことが望ましいです。症状の経過に伴い、その時点での症状を軽減できる最適な姿勢を選ぶことが重要です。特に歩行器を使用する場合には、歩行器の種類や高さなどによって、体幹の前傾の程度は影響されるため、複数の種類や高さの条件などを試して、最善の方法を選択することが大切です。そのように工夫しても、立位や歩行を継続することで、疼痛やしびれが増強する間欠性跛行を生じた際には、我慢して継続するのではなく、座って休むなどで症状を和らげ、症状が元に戻ったら、再度運動を行うことを繰り返します。

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

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