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進行性難病のADL支援 筋萎縮性側索硬化症(ALS)

公開日:2023.12.22

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文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)

進行性難病のリハビリに必要な予後予測

対象者の予後を的確に見通す力(予後予測)は、対象者にとって有益なリハビリテーション、作業療法を進める上で大変重要な力です。特に進行性の難病を患う対象者のリハビリテーションは、不安や困難が伴います。自分の病気を理解し、予後に対する不安やストレスを最小限にとどめるためにも、疾患の特性と今後必要になる支援や環境を想定しながら、長期的な視点で対象者個々のニーズに寄り添う姿勢が大切です。

作業療法士国家試験では、進行性といわれる難病のなかでもALS:筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)について、以下のような問題が出題されています。

《問題》ALS患者がコミュニケーション機器を使用する際の入力手段として適切なのはどれか

【作業療法士】第57回 午前11
57歳の男性。筋萎縮性側索硬化症。発症後5年が経過。四肢と体幹に重度の運動麻痺を生じてベッド上の生活となり、ADLは全介助。球麻痺症状を認め、安静時も呼吸困難を自覚している。
この患者がコミュニケーション機器を使用する際の入力手段として適切なのはどれか。

<選択肢>

  1. 1.舌
  2. 2.口唇
  3. 3.呼気
  4. 4.手指
  5. 5.外眼筋

解答と解説

正解:5

筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)は、神経難病のなかでも最も障害が重く、予後が不良と言われる疾患です。随意筋を支配する上位運動ニューロン・下位運動ニューロンの変性疾患(:ある特定の神経細胞群が障害を受けて脱落してしまう病気)であるALSは、発症の様式により以下の3つの型に分類されます。

・上肢の筋萎縮と筋力低下を主体とし、下肢は痙縮を示す普通型(上肢型)
・球症状(構音障害、嚥下障害)が主体となる球型(進行性球麻痺)、
・下肢から発症し下肢の腱反射低下・消失が早期からみられる下肢型(偽多発神経炎型)

症状の現れ方はもちろん、進行のスピードにも個人差があります。多くのケースで発症から2〜3年の間に筋力低下と筋萎縮が上肢や下肢、顔面、舌、咽頭、呼吸器へと及び、運動障害が全身に広がっていきます。一方で、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡(:4大陰性兆候)は、末期までみられないという特性があります。

今回取り上げた設問のケースでは、球症状がありADLが全介助で呼吸困難を自覚している様子からも、残る運動機能は眼球運動のみであることが推測されるため、外眼筋を活用したコミュニケーション機器を選択するのがケースにもっとも負担がなく実用の可能性があると考えます。

実務での活かし方

こうした残存機能を活かした福祉機器は、症状の進行を待たず見たり触れたりする機会を設けても良いでしょう。使いこなせるまでに時間がかかるため、練習の期間を持つという意味でもメリットがあります。
「しだいに身体を動かせなくなる」と知っていても、例えば「こういう道具を使えれば、たくさんの人と会話することができる!」と感じる経験があれば、希望や意欲につながります。「身体が動かなくなっても、こんな毎日を送ってみたいな」などと将来のイメージを描くきっかけになることもあるかもしれません。
もちろん、病気との向き合い方は一人ひとり異なります。難病を患う対象者の予後を予測する際は、医学的な予後予測(生命予後、機能予後)だけではなく、対象者の心や生活・社会背景に配慮した社会的予後もあわせて検討することが大切です。

中山 奈保子

中山 奈保子(なかやま なおこ)

作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。

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