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高齢者のCOPDに対する適切な患者指導

公開日:2024.02.27

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文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

高齢者に多いCOPD

「慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)」は、喫煙習慣のあった高齢者に認めることが多い、代表的な慢性呼吸器疾患のひとつです。また、がん、循環器疾患、糖尿病とともに、国としての対策が推進されている、生活習慣病の代表的な疾患でもあります。加えて、感染症などを契機に、急に状態が増悪することが多いことも特徴です。そのため、患者による自己管理が大切であり、患者教育・患者指導を多職種が連携しておこなわれています。

COPDの定義

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)は、息切れや咳、痰などを症状とする緩徐進行性の疾患で、昔は「肺気腫」や「慢性気管支炎」などの病名で呼ばれていました。現在はこれらとは異なる疾患として、定義されています。

「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022〔第6版〕(日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会編、メディカルレビュー社、2022)」の定義は下記の通りです。

【COPDの定義】
タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す。気流閉塞は、末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある。

COPDは慢性気管支炎や肺気腫とは同義ではなく、COPDと診断できない慢性気管支炎や肺気腫がありえると明確に説明されています。それらの定義は、下記の通りです。

【慢性気管支炎の定義】
喀痰症状が年に3ヶ月以上あり、それが2年以上連続して認められることが基本条件となる。この病状が他の肺疾患や心疾患に起因する場合には、本症として取り扱わない。

【肺気腫の定義】
終末細気管支より末梢の気腔が肺胞壁の破壊を伴いながら異常に拡大しており、明らかな線維化は認められない病変を示す。病理学的な肺気腫病変は、画像上は気腫性変化としてHRCT(高分解能CT:high-resolution computed tomography)検査により容易に検出ができる。

COPDの原因

COPDの病変はタバコ煙などの有害物質による炎症が原因です。病変のそれぞれの部位が症状と概ね対応しています。

●中枢気道病変ー喀痰
●末梢気道病変・気腫性病変ー気流閉塞
●肺血管病変ー肺高血圧

COPDの中心の症状である気流閉塞は、空気の通り道である気道や気管支が狭くなり、息を吐く時(呼気)に、肺から空気が吐き出される速度が低下した状態、つまり、息をすばやく吐き出せなくなった状態です。

タバコ煙などの有害な物質が肺胞に入ると、肺胞に炎症が起こり、肺胞の壁が破壊されたりします。複数の肺胞が破壊され、ひとつの大きな袋(気腫性のう胞)となってしまう状態が気腫性病変です。これによりガス交換がおこなわれる面積が減少します。そして、肺胞の末梢気道への接着の消失や肺の弾性収縮力が低下し、気流閉塞の原因となります。

また、タバコ煙などの有害物質は、肺胞までの空気の通り道である気管支にも炎症を起こします。炎症により気管支の壁がむくんだり、線維化が生じ、痰の分泌が増えたりすることで、気管支の内腔が狭くなって、空気がスムーズに通過できなくなった状態が末梢気道病変です。
COPDの気流閉塞は、これらの末梢気道病変と気腫性病変が複合的に作用して生じます。

COPDの診断基準

COPDの診断基準は、以下の通りです。

1.慢性の咳、痰、労作時の息切れなどの症状があり、長期間の喫煙歴や粉塵暴露歴などがあること
2.気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーでFEV1/FVCが70%未満であること
3.他の気流閉塞を生じる疾患を除外すること

FEV1(forced expiratory volume in on second)は、最大吸気位から1秒間で吐き出せる呼出量(1秒量)で、FVC(forced vital capacity)は、最大吸気位から最大呼気位まで一気に呼出させた呼出量(努力性肺活量)で、その割合であるFEV1/FVCは1秒率です。

鑑別する必要のある主な疾患を表に示します。気流閉塞・閉塞性換気障害を生じる喘息や気管支拡張症など、主に労作時に呼吸困難を生じる心不全など、慢性の咳や痰を認める肺がんなどの疾患があります。併存疾患として認めることもあり、病歴、身体所見、症状、検査などで詳細な検討が必要になります。

表 鑑別する必要のある主な疾患
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病期分類には予測1秒量に対する比率(%FEV1)が用いられ、下記の通りです。

Ⅰ期 軽度の気流閉塞 %FEV1≧80%
Ⅱ期 中等度の気流閉塞 50%≦%FEV1<80%
Ⅲ期 高度の気流閉塞 30%≦%FEV1<50%
Ⅳ期 きわめて高度の気流閉塞 %FEV1<30%
 (気管支拡張薬投与後のFEV1/FVC 70未満が必須の条件)

なお、1秒量(FEV1)の正常値は、下記の正常予測式(日本呼吸器学会肺生理専門委員会2001)で求められます。

男性 FEV1(L)=0.036×身長(cm)ー0.028×年齢ー1.178
女性 FEV1(L)=0.022×身長(cm)ー0.022×年齢ー0.005

COPD患者の現状

COPDの患者数について、大規模な疫学調査研究では、日本人の40歳以上のCOPDの有病率が8.6%であり、患者数は約530万人と推定されました(Fukuchi Y, et al.: COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology. 9(4):458-65, 2004)。一方で、2020年の患者調査では、COPDの患者数は約21万人です。そのため、COPDと診断されていない、COPDであることに気がついていない、症状があるが受診していないなどの人が多いことが予想されています。

健康日本21(第二次)(2013年)では、がん、循環器疾患、糖尿病とともに対処すべき生活習慣病のひとつとしてCOPDが取り上げられ、運動の習慣化などの一次予防に重点をおいた対策の推進と、症状の進展などの重症化予防に重点をおいた対策が推進されています。
さらに、健康日本21(第三次)(2023年)では、COPDの発症予防、早期発見、早期治療、重症化予防などの総合的な対策に加えて、COPDの死亡率について、「2021年に人口10万人あたり13.3人を2032年には10.0人までに減少させる」という新たな目標が掲げられました。目標を実現するため、疾患の啓発活動、健康診断の促進等による早期受診の促進や医療機関の整備、診断率の向上と効果的な治療介入などの対策が必要とされています。

《問題》理学療法士による患者指導として正しいのはどれか。

【理学療法士】第58回 午前18
78 歳の男性。COPD によるⅡ型呼吸不全。安静時および運動時に 1 L/分の在宅酸素療法を導入している。
理学療法士による患者指導として正しいのはどれか。

<選択肢>

  1. 1. 上肢の挙上動作を反復しておこなうように指導する。
  2. 2. 吸気時間を延長するために口すぼめ呼吸を指導する。
  3. 3. 呼吸困難に応じて酸素流量を増量するように指導する。
  4. 4. 体調や呼吸器症状の日誌への記録をもとに生活指導をおこなう。
  5. 5. 主に心理的なリラックスを得るためにリラクセーションを指導する。

解答と解説

正解:4

【呼吸不全について】
呼吸不全は、室内気(room air)でPaO2(動脈血酸素分圧)が60Torr以下となる呼吸障害で、酸素化が不十分な状態です。SpO2ではほぼ90%に一致します。その際に、PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)≦45Torrの場合はⅠ型呼吸不全、PaCO2>45Torrの場合はⅡ型呼吸不全といいます。Ⅱ型呼吸不全の場合は、二酸化炭素を吐き出せずに体内に二酸化炭素が溜まった状態であり、肺胞低換気の状態です。呼吸運動の低下や気道抵抗の上昇による死腔換気量の増加などによって生じます。

Ⅰ型呼吸不全に対しては、吸入酸素濃度を増加させることが一般的ですが、Ⅱ型呼吸不全の場合には、吸入酸素濃度の調節には注意が必要です。Ⅱ型呼吸不全の患者は、CO2感受性が低下し、低酸素刺激によって呼吸が維持されているため、不用意に高濃度酸素を投与することで呼吸が抑制されて、CO2がさらに蓄積し、CO2ナルコーシス(意識障害、高度の呼吸性アシドーシス、自発呼吸の減弱など)を生じる可能性があり、安易な高濃度酸素の投与は避けるべきです。

1.息切れが生じやすい動作:上肢の運動
COPDの患者には、息切れの生じやすい特徴的な動作があります(表)。そのため、そのような動作をおこなう際には、動作をおこなう前に呼吸を整え、動作をおこなっている間に呼吸を止めないように注意し、休み休み動作をおこなうなどの対処が必要です。

特に上肢の挙上動作は、呼吸補助筋である肩甲帯周囲筋が上肢の運動の動筋・共同筋として働くため、呼吸補助筋として役割を果たさなくなり、胸郭の運動が制限されます。また、上肢を肩より上方へ挙上することで、肋骨・胸郭が挙上した位置、つまり胸郭が吸気時の位置となるため、呼出が十分におこななくなります。このような理由で息切れが生じる可能性があります。

また、反復しておこなうことで、呼吸のリズムが乱れ、胸郭の運動が制限されるため、換気量が低下し、息切れが悪化する可能性があります。
そのため、生活指導として上肢の挙上動作を反復しておこなうように指導することは適切ではありません。

表 息切れを生じやすい動作
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2.口すぼめ呼吸
口すぼめ呼吸は、鼻から吸って、口から息を吐く時に口をすぼめて、長く吐く呼吸法です。COPDの患者さんは、口を大きく開けて勢いよく吐くと、気道が狭くなり、肺の中の空気を十分に吐けなくなります。口をすぼめて、口腔内を陽圧にすることで、気道も陽圧となり、十分に吐くことができます。十分に吐くことができれば、その後に、空気を吸いやすくなります。
呼吸法として、指導・練習することもありますが、患者さんが、この呼吸法が楽であることを自ら学習して、習得していることもあります。

3.在宅酸素療法の酸素流量
酸素流量は、一般的にPaO2≧60〜80Torr(SpO2≧90〜95%)を目標に設定します。Ⅱ型呼吸不全では、酸素化とともに換気状態の改善が必要なため、SpO2≧88〜92%(pH≧7.35)を目標とします。安静時、労作時、睡眠時によって呼吸状態やPaO2が異なる患者さんも多く、それぞれに応じて酸素流量を決定します。

酸素流量は医師からの処方です。息切れが強いからといって勝手に増量してはいけません。安易に増量することで、前述したCO2ナルコーシスのように、状態が悪化することもあります。指定された酸素流量で息苦しさが強い場合などは、医師等に相談して、酸素流量の変更を決定します。

4.自己管理
COPDなどの慢性疾患は、体調の管理、生活の工夫、投薬などを含めた自己管理が重要です。特に、COPDで増悪を繰り返す患者さんに対しては、悪化しないように体調を管理することや、状態が悪化した際の在宅での早期対応など、自己管理が求められます。睡眠時間、歩数計で測定した歩数、体温、痰の量や性状、体重、SpO2などを日誌に記録するように指導します。また、記録された日誌を外来受診時に医師や看護師、理学療法士などに示すことで、具体的に日常の状態を共有でき、現実的で有効な生活指導が可能となります。
体調や呼吸器症状の日誌への記録をもとに生活指導をおこないます。

5.リラクセーション
過度な緊張は、気道に攣縮を生じ、胸郭や脊柱の柔軟性を低下させます。さらに、呼吸数や心拍数を増加させ、呼吸仕事量も増加させます。呼吸練習や運動療法と組み合わせて、リラクセーションをおこない、緊張を取り除くことで、呼吸効率が改善し、運動療法などもおこないやすくなります。さらに、リラクセーションをおこなうことで、呼吸困難感の軽減、SpO2の改善などの呼吸状態への効果が期待されます。

ゆっくりした呼吸で、口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸練習をおこなうことでもリラクセーション効果がありますが、さらに筋を随意的に収縮させ、その後に弛緩させる漸進的筋弛緩法(progressive muscle relaxation: PMR)をおこないます。また、ヨガや太極拳などの運動を呼吸法、リラクセーションの効果を期待して、おこなうこともあります。このような効果に加えて、不安の軽減、自己管理の感触の向上や情動面の調整なども期待されます。

実務での活かし方

COPD患者に対する理学療法のエビデンスについて、最近のガイドラインである「理学療法ガイドライン 第2版」の内容の概要を紹介します(日本理学療法学会連合理学療法標準化検討委員会ガイドライン部会編:理学療法ガイドライン:呼吸障害理学療法ガイドライン、医学書院、2021)
そして、最後にCOPD患者の急性増悪について、簡単に説明します。

◯安定期COPD患者に対して腹式呼吸および口すぼめ呼吸は推奨されるか
・推奨の強さ:条件付き推奨
・エビデンスの強さ:C(弱い)
患者の自覚症状の改善がある場合はおこなうことが推奨されますが、自覚症状の改善のない場合や横隔膜の機能障害ある場合はおこなわないことが推奨されます。

◯安定期COPD患者に対して吸気筋トレーニングは推奨されるか
・推奨の強さ:条件付き推奨
・エビデンスの強さ:C(弱い)
吸気筋に筋力低下を認める場合や、吸気筋に筋疲労がない場合に推奨されます。

◯安定期COPD患者に対して四肢筋トレーニングは推奨されるか
・推奨の強さ:強い推奨
・エビデンスの強さ:B(中程度)
心疾患等の運動によるリスクがない場合に推奨されます。

◯安定期COPD患者に対して持久力トレーニングは推奨されるか
・推奨の強さ:条件付き推奨
・エビデンスの強さ:B(中程度)
自転車エルゴメーターや歩行などの下肢を用いた運動が推奨されます。

◯安定期COPD患者に対して呼吸リハビリテーションプログラムは推奨されるか
・推奨の強さ:条件付き推奨
・エビデンスの強さ:B(中程度)
健康関連QOLの改善を目的とする場合や、中等度の身体活動の改善を目的とする場合に推奨されます。

◯COPD患者に対して増悪後1ヶ月以内の理学療法は推奨されるか
・推奨の強さ:条件付き推奨
・エビデンスの強さ:B(中程度)
健康関連QOLの改善を目的とする場合や、運動耐容能の改善を目的とする場合は推奨されます。

COPDは患者によって、呼吸器感染症や大気汚染などを原因に、状態が増悪することがあります。症状としては、息切れの増加や咳・痰の増加、胸部の不快感や違和感などを認めます。喘息や肺がんなどの肺合併症や、栄養障害、心血管疾患、サルコペニア、抑うつなどの全身併存症を認める場合に、増悪頻度は増加します。増悪を繰り返すことで、患者のQOLや呼吸機能が低下し、生命予後も悪化すると考えられています。

増悪時の早期発見、治療が重要ですが、それ以上に増悪を予防するための行動が重要です。増悪を予防するためには、禁煙、インフルエンザワクチンなどの予防接種、風邪を引いている人との接触を避ける、睡眠時間の確保、運動習慣・日常での活動量の維持・増加などが必要です。

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

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