子どもの発達障害支援と作業療法のポイント
公開日:2024.03.14 更新日:2024.03.15
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
「発達障害支援」の現状と今後の課題
2005年4月に「発達障害者支援法」が施行され、発達障害の定義と支援体制が明確になりました。施行後は、それまで法律に基づいた支援が適わなかった発達障害の早期発見と早期支援、就学や就労など当事者の自立生活や社会参加に向けた環境の整備が進められています。
しかしながら、当事者やその家族にとって個別に最適な支援や環境が、十分に普及したわけではありません。専門職だけではなく、社会全体がその特性や「生きづらさ」を理解し、分かち合えるようになるためにも、当事者やその家族と対話し続けること。そして、より正確な情報の発信と共有が求められます。
例えば、「自閉傾向」や「多動」「注意散漫」など、その人の行動を特徴づけるような言葉が、誤った理解を生じさせることも少なくないのではないでしょうか。医学的にもまだまだ解明されていない部分が多いからこそ、こうした部分的な姿や解釈に惑わされないようにしなくてはなりません。
対象児(者)が生まれてから今日に至る発達の過程や、その背景を丁寧にひもとき、どのような経験や環境を補えば、対象児(者)の強みを適切に活かした毎日を送れるのか、検討する姿勢が大切です。
発達障害の作業療法について、国家試験では以下のような問題が出題されています。
《問題》7歳の男児。作業療法を行う上での留意点として適切なのはどれか。
【作業療法士】第57回 午前 19
7歳の男児。幼児期から落ち着きがなく、一つのおもちゃで遊べないなどの行動があった。小学校入学後、長時間椅子に座れない、順番を待てない、注意散漫などの問題行動があり、外来作業療法を受けることになった。作業療法では、次第に活動に継続して取り組めるようになってきたが、協調動作が必要な作業は苦手である。知能検査では知的障害は認められなかった。作業療法を行う上での留意点として適切なのはどれか。
<選択肢>
- 1. 複数の課題を同時に提示する。
- 2. 順番が守れない場合は厳しく注意する。
- 3. 周囲に受け入れられる行動は積極的に褒める。
- 4. 数週間継続して取り組める連続課題を実施する。
- 5. 作業台の上にいろいろな道具や材料を揃えておく。
解答と解説
正解:3
発達障害のお子さんが、できるだけ多く周囲に受け入れられる行動をとるには、支援者がお子さんの発達特性や能力に応じた機会を設定することが大切です。これによりお子さんは少しずつ自分の能力に対する認識(自信〜自尊心)を高めていきます。反対に、課題の難易度が高すぎたり、目新しい活動であったりすると、お子さんが持つ能力を発揮しにくいと言えます。
<選択肢1>の「複数の課題を同時に提示」は、姿勢の保持や協調動作を苦手とするお子さんの現状や年齢をみても難しすぎるでしょう。
<選択肢2>の「順番が守れない場合は厳しく注意」は、ストレスとなって意欲を失ったり発達を退行させたりする恐れがあるため相応しくありません。
<選択肢4>の「数週間連続して取り組める連続課題」は、1回で完成(おわり)が見えない分、難易度が高くなります。見通しを立てて意欲を持続させることが難しく、夢中になって取り組みにくいかもしれません。
<選択肢5番の「作業台の上にいろいろな道具や材料を揃えておく」のも注意散漫傾向にあるお子さんへ過度な努力を求めてしまい、決められた時間のなかで達成感を味わう妨げとなってしまいます。
<選択肢3>の「周囲に受け入れられる行動は積極的に褒める」は、このお子さんへの対応として適切な対応です。
実務での活かし方~子育てにも通じる発達障害への対応~
発達障害のお子さんに対する支援は、活動の場や大人・子どもとの関わりが重要です。そのお子さんが場に応じた適切な選択や判断・行動ができたとき、心地よい感情(喜び、楽しさ、安心など)が生まれるのだという実感を持てるよう働きかけるのが原則です。
例えば、遊具を使う順番をなかなか守れないお子さんが順番を待つことは、お子さんにとって我慢や葛藤を要する時間であると想像されます。しかし、それを乗り越えた先に「順番を守れてかっこいいね」「順番を守ってくれて、ありがとう」「助かったよ、うれしいな!」「順番を守って遊ぶと、みんなが楽しいね!」などと笑顔で声をかけてくれる大人や子どもがいることで、そのお子さんは順番を守って遊ぶことの楽しさや喜びを学ぶことができます。
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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