失語症の訓練計画 立案のポイントは?
公開日:2024.01.26
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
本記事の概要
今回取り上げる過去問のテーマは、失語症の訓練計画の立案についてです。失語症の言語治療の目的は、失語症者が自分らしい最善の生活を構築することにあります。この目標の達成のためには、適切な訓練計画の立案が不可欠であると考えられます。今回は、実際の臨床における訓練計画立案のポイントについて解説します。
《問題》失語症の訓練について誤っているのはどれか
【言語聴覚士】 第25回 第61問
失語症の訓練について誤っているのはどれか。
<選択肢>
- 1. 職場への復帰を支援する
- 2. 会話は実用コミュニケーション訓練としての意味をもつ
- 3. 社会的環境の情報収集は訓練計画に必要である
- 4. 年齢や生活習慣によって訓練内容は異なる
- 5. 重症例では自然回復を待って実施する
解答と解説
正解:5
失語症の訓練は、機能障害の改善のための介入だけでなく、[1][2]のような社会活動の参加に向けた介入など包括的な支援が必要になります。また、設問[3][4]のように、本人家族の意向、価値観、個人的背景を尊重する、クライアント中心の言語聴覚療が重要視されています。したがって誤りは[5]となります。
失語症の訓練計画の立案には失語症の重症度に関わらず、包括的な介入を実践することが重要です。
実務での活かし方~失語症の訓練計画の立案~
失語症の訓練計画の立案について解説します。今回は(1)訓練計画立案の概要 (2)目標設定と訓練内容 (3)実用的なコミュニケーション訓練の実施 の3つの観点からまとめます。
(1)訓練計画立案の概要
失語症をはじめとした言語聴覚士の臨床は、科学的根拠に基づく臨床である必要があります。これは、「EBP(Evidence Based Practice)」と呼ばれ、訓練計画の立案では、なぜその方法が適切であるのか、その訓練方法を選択した科学的根拠を明らかにする必要があります。
また、本人家族の意向、価値観、個人的背景を尊重し、目標や方法を決定します。これは、「クライアント中心の言語聴覚療法」と呼ばれ、今日の言語聴覚士の臨床では重要視され、当事者の自己決定を尊重する必要があります。
(2)目標設定と訓練内容
訓練計画の立案には、目標設定が必要です。目標には長期目標と短期目標があり、長期目標とは最終的に到達する活動・参加の状態であり(例.地域活動に参加する)、短期目標は長期目標を達成するためのステップとなります(例.文での発話が可能となる)。
訓練内容を決める際は、長期目標、短期目標達成のための介入方法を検討します。また、障害の発生メカニズムや関連要因を推論し、治療仮説を設定することが必要とされます。
機能的な改善を目的にした内容に偏らない、包括的な介入を意識することが重要です。この際、ICF(国際生活機能分類)の概念を利用した問題点の整理が有用になります。
(3)実用的なコミュニケーション訓練の実施
実用的コミュニケーション訓練とは、日常会話におけるコミュニケーションの向上を目的とした介入です。呼称訓練などの機能的な改善を目的にした訓練が中心に、残存能力を活用しながら、日常生活場面で実行する活動を拡大していきます。このような、実用的なコミュニケーション能力の改善を目的にした訓練を実施することは、障害の重症度に関わらず重要です。
まとめ
失語症の訓練計画の立案のポイントについて解説しました。訓練計画の立案にはEBP(Evidence Based Practice)であること、クライアント中心の言語聴覚療法であることを意識することが重要です。そのためには、ICFの概念を利用し、包括的な介入を実践しましょう。
[出典・参照]
藤田郁代ら.標準言語聴覚障害学 失語症学 第3版.医学書院,2021
近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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