職場に管理栄養士が1人の場合の働き方|メリットやデメリットも解説
公開日:2022.12.19
文:広田千尋(管理栄養士)
職場に管理栄養士が1人の場合、不安に思う方も多いでしょう。
1人で働くデメリットもありますが、コツを知ったり慣れたりすれば、スムーズに仕事を進められるようになります。またメリットもさまざまあり、意外にも働きやすさを感じる方も多いです。
筆者である私も、病院と保健センターで管理栄養士が自分だけという状況を経験したことがあります。経験談も交えながら、職場に管理栄養士が1人の場合の働き方について解説します。
管理栄養士が1人である職場とは
管理栄養士が1人である職場とは、どのようなところがあるのでしょうか? 例を挙げてみます。
- ・病院
- ・高齢者施設
- ・クリニック
- ・保健センター
- ・保育園
- ・学校 など
病院や施設は2人以上配置されることがありますが、病床数や利用者数が少ない場合は1人のことが多くなります。ほかのところも、規模や仕事の内容によって異なることがありますが、基本的には1人配置のところがほとんどでしょう。
給食を提供する施設では、厨房スタッフとして栄養士や調理師がいる場合もありますが、仕事内容が異なります。栄養士が近くにいるとはいえ、実質的には1人で管理栄養士の仕事をこなさなければいけません。
私は市町村の保健センターと、300床程度の病院で1人勤務を経験しました。そのときに経験した大変さや、同じ状況の方からも聞く大変さを次にまとめて紹介します。
1人の場合のデメリット
管理栄養士が1人の場合、とくに働き始めはデメリットを感じて戸惑うことが多いでしょう。どのようなデメリットがあるか、お伝えしていきます。
書類などがわからないときに聞ける相手がいない
引継ぎはされていても、実際に書類に携わってみると、わからない点が多く出てきます。
書類は職場により以下のようなものがあります。
- ・監査に必要な書類
- ・献立、発注書
- ・診療録(カルテ)、介護記録 など
とくに、過去に似た職場での経験がない場合は、戸惑うことが多いかもしれません。
わからないところを気軽に聞ける相手がいないため、自分で調べたり人に聞いたりと、手探りで進めていく大変さがあります。
仕事の進め方に悩んだときに相談相手がいない
栄養指導の仕方、栄養管理の行い方、献立の内容、衛生管理についてなど、働いているとさまざまな悩みが出てきます。
管理栄養士が複数人いれば、困ったときに話を聞いてもらうことができますが、1人であればそういうわけにもいきません。
実際、病院で働いていたときも「この方への栄養剤はどれが最適か?」「栄養指導でうまくいかない場合どういうアプローチが良いか?」など、管理栄養士同士で意見交換をしたい場面は多々ありました。
休みを取りにくい
自分が休むと代わりに仕事をしてくれる人がいないため、休みを取りにくいと感じる場合があります。
とくに、急に休まないといけなくなった場合は、栄養指導のキャンセルや会議の欠席などについて、職場に相談する必要も出てきます。また急ぎの相談ごとは、休みの日に電話がかかってくることもありました。
また自分しかできない仕事が多く、休み明けに仕事がたまってしまう状況になることもあります。
まとめて休みたいときは、念入りな準備や仕事の前倒しなどの工夫をしていました。
1人の場合の働き方
1人では困ったこともありますが、今から紹介するヒントを参考に自分なりの上手なやり方を見つけていきましょう。
わからないところは調べる・人に聞く
わからないところが出てきた場合、まず調べてみて、それでもわからない場合は人に聞いてみましょう。
書類についてわからないことは、まずは以下を調べてみることをおすすめします。
・職場のマニュアル
・日本栄養士会や都道府県栄養士会のウェブサイト
まずは職場のルールを知る必要があるため、職場のマニュアルを確認します。それでも役立つ情報がなければ、日本栄養士会や都道府県栄養士会のウェブサイトを見てみましょう。
日本栄養士会では、診療報酬や介護報酬について、指導マニュアルや指導媒体などの資料、大量調理に関するマニュアル、各種ガイドラインなどのリンク集もあり、幅広い情報収集に役立ちます。
それでもわからない場合は、管理栄養士の仕事をしている友人に聞いたり、都道府県栄養士会や保健所に問い合わせてみたりして、解決していきましょう。
研修会に参加する
都道府県栄養士会や各種学会、メーカー主催による、さまざまな研修会が開催されています。積極的に参加し、知識を深めたり情報収集をしたりしましょう。
とくに未経験やブランクのある場合は、最新の情報を学び直す必要があります。まずは仕事内容に関わりの深い分野の研修会に参加すると良いでしょう。
最近ではオンラインでの研修会が盛んになり、気軽に参加できるようになったのは魅力的なことです。
一方で、対面形式で受ける研修会は横のつながりを作るきっかけにもなります。機会があれば足を運ぶようにしてみましょう。
横のつながりを作る
研修会などで知り合った人、似た職場で働いている友人や同級生など、横のつながりを持っておきましょう。
1人では新しい情報も入ってきにくくなるうえ、考えも偏りがちになってしまうこともあります。
気軽に情報交換や意見交換をできるつながりを作り、困ったときにお互い助け合える関係性を作れるととても理想的です。とくに相手も1人で仕事をしている場合、横のつながりがほしいと思っている方も多いため、仲良くなりやすいです。
研修会や交流会、同窓会などがあれば、積極的に顔を出してみるようにしてみましょう。
職場内のコミュニケーションを大切にする
管理栄養士同士のつながりも大切ですが、毎日一緒に働く職場内の人とのコミュニケーションも大切にしましょう。
信頼関係を築けると、食事や栄養のことなど仕事に関する相談をしやすくなり、仕事をスムーズに進められるようになります。また仲の良い人ができると、自分にとっての居心地の良い環境づくりにもなりますよ。
あいさつやちょっとした雑談など、仕事に差し支えない範囲で意識してみましょう。
仕事をマニュアル化していく
慣れてきたころからで良いのですが、仕事をマニュアル化していくことをおすすめします。
自分しかわからない仕事ばかりだと、休みを取りにくい状況が続いたり、休みの日の連絡がなくならなかったりと、忙しい状況から抜け出せなくなります。
たとえば、私の場合は、以下のようなマニュアルを作成していました。
- ・厨房でのトラブルは、どこに確認、連絡すべきか貼り紙をしておく
- ・食事の変更や決定などについて、他スタッフでもわかりやすいように説明書を作っておく
管理栄養士がいない間の「とりあえず(初期対応)」ができるようなマニュアルを作っていれば、次に出勤したときに調整などの対応をすれば良いので、負担が軽くなります。
職場によって作るべきマニュアルは異なりますが、「ほかの人でもできること」「よくあるトラブル」について、マニュアル化できるところがないか考えてみましょう。
1人の場合のメリット
これまでの説明を聞くと、1人で働くのは大変なことばかりのように思えるかもしれません。
しかし慣れてくると、むしろ1人のほうが働きやすい人もいます。どのようなメリットがあるのか見てみましょう。
自分のペースで働ける
1人職場の魅力は、なんといっても自分のペースで働けることです。
慣れるまでは毎日不安かもしれませんが、慣れてくるとほかの人にペースを乱されることなく、マイペースで働けます。
「先輩がいて毎日緊張…」「先輩や後輩と気が合わない…」などもないため、身近な人間関係に悩むことも少なくなります。
自分のペースで仕事をしたい方にとっては、ぴったりな職場でしょう。
やりたい仕事をしやすい
1人なら、自分のやりたい仕事、理想的な仕事をしやすくなります。管理栄養士が複数人いると、仕事の方針や内容についてなど、何事も話し合って決める必要があります。しかし、1人ならそのわずらわしさがありません。
たとえば使いたい食材や栄養補助食品、イベントや行事のメニューの決定など、自分の良いと思ったものを提供しやすくなります。自分が決定したもので対象者が喜んでくれると、やりがいもひとしおです。
もちろん、仕事の内容によっては厨房、他職種、事務、施設長との相談が必要であるため、1人で突っ走りすぎないように気を付けてください。
土日祝日に休めることが多い
1人の職場では、比較的土・日・祝日に休めることが多い傾向があります。職場や仕事の範囲によって異なる場合がありますが、休日はおおよそ次の通りです。
- ・学校、保健センター:土・日・祝
- ・保育園、クリニック:日・祝
- ・病院、施設:日・祝(外来診療や入退院(入退所)が少ないため休みになることが多い)
日・祝日の休み以外にも、土曜の午後や平日に休みがある場合もあります。
固定して休める状況だと、プライベートの予定を立てやすく、家族や友人とも都合を合わせやすいなど、メリットを感じる方が多いでしょう。
プライベートを充実させたい方には、ぴったりかもしれません。
1人職場はやりがいを感じられる
管理栄養士が1人の場合のメリットは「働きやすさ」があります。人間関係に悩むことの多かった方や、やりたい仕事に挑戦してみたい方などは、1人職場が合うのではないでしょうか。
実際私も、慣れてしまってからは居心地がよく、毎日忙しいものの充実した仕事ができ、やりがいも感じていました。大変ではありましたが、かけがえのない経験となっています。
働き始めは大変かもしれませんが、周りの助けを借りながら、ぜひ1人職場で充実した仕事をしていってください。

広田 千尋
管理栄養士
病院や保健センター、保育園などに13年間勤務した後に独立。現在はフリーランスとしてコラム執筆やレシピ作成を中心に活動中。インターネット上にたくさんの情報があふれるなか、専門家として正しい情報をわかりやすく伝えている。
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