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リハビリの第一歩は、信頼関係を築くこと!

公開日:2023.01.20 更新日:2023.03.14

文:柴本千織(言語聴覚士)

セラピストの多くは、初めて患者さんに会うときに、「どんな人だろう?」「しっかり初期評価して、リハビリに取り組んでもらってよくなってほしい」などと、セラピストとしての思いや緊張感を持ちながら、リハビリが始まるのではないかと思います。

筆者も新人の頃は緊張や不安を抱えながらも、患者さんに不安を悟られないように最初の挨拶をしていました。日々の臨床をこなすことで頭がいっぱいで、余裕がなかったように思います。しかし、ずっとそのような態度のままでは、患者さんを不安にさせるだけです。患者さんやご家族に安心感をもってもらうためは何が必要なのでしょうか。
筆者の経験も交えて、安心感に欠かせないものをお伝えします。

患者さん・ご家族と信頼関係を築くことがリハビリの第一歩

入院中でリハビリを必要としている患者さんは、病気やケガと向き合い、「リハビリを頑張るぞ!」と意気込んでいる方もいれば、病気やケガに対して不安に思っていたり、突然の発症に戸惑い、リハビリのことを考える余裕がない方もいます。
ご家族も現状がわからず「どう支えていけばよいのかわからない」などと悩まれている方も。

不安や障害受容の途中段階である患者さんに対して、目前の初期評価をすることに捉われて検査や機能訓練を始めてしまうと、不信感を抱かれてしまうことがあります。
また患者さんとセラピストの関係性の基盤が築けていないと、気になることがあっても伝えらず、患者さんにとっては、リハビリの時間が苦痛になってしまいます。
そのため、よりよいリハビリを提供するためまず大切になるのは、患者さんとご家族と確かな信頼関係を築くことだと筆者は考えています。

初めてのリハビリを受ける患者さんの気持ちは?

言語聴覚士が対象としているリハビリは、視覚的な認識が難しい症状が多いことで理解が難しかったり、高次脳機能障害によって病気の自覚が低くなったり、病気の自覚があっても障害の受容が難しいことがあります。そのため、リハビリの必要性を理解できていない患者さんもいます。

また、重度の失語症の患者さんは、それまで当たり前にしていた会話が、発症と同時に突然できなくなり、言いたいことが伝えられずショックを受けて混乱されている方も多く、人との関わりを避けようとしたり、泣き出してしまったりする方もいます。

そのようなタイミングで、「初期評価が必要だから検査をしましょう!」と声をかけるのは、少しぶしつけな感じがしないでしょうか。

なぜ患者さんの気持ちを理解して、信頼関係を築く必要があるのか?

では、そのような患者さんを前にして、セラピストはどうすればいいのでしょうか。
やはり、まずは相手の心情に寄り添い、理解を示した上で、患者さんのペースに合わせて声かけをしていくことだと思います。それによって、検査や機能訓練のタイミングが少しずつ見えてくるのではないでしょうか。

セラピストとして評価・訓練を実施するのは当然ことです。しかし、まずは患者さんの不安や思いに気づき、個々の患者さんのペースで病気やケガと向き合ったり、立ち止まったりと、前に進んでいけるように共に支えていくのもセラピストとして重要な関わりであると考えています。

患者さんだけではなくご家族に対しても、同様に話をする時間をつくり、思いを聴くことも重要です。
患者さんやご家族のなかには、目の前のことをこなすのに精いっぱいの方もいます。その不安感を少しでも一緒に背負ってくれるセラピストがいるとわかれば、安心できる存在になるのではないでしょうか。

信頼関係を築いた上での情報収集が重要な理由とは?

人は誰でも、一度相手に不信感を持ってしまうと、言いたいことが伝えられなかったり、本音を話すことが難しくなったりしませんか?

セラピストと患者さんの関係も同じです。信頼関係が築けるようになると、ふとした会話のなかから、患者さんがやりたいことがわかるなど、患者さんの本音を垣間見えることががあります。それによって、患者さんに合わせた目標設定や訓練プログラムの立案ができ、リハビリも充実していきます。

信頼関係が構築できると、患者さんやご家族から、今の気持ちや今後どうしていきたいかなどの情報収集を得ることもできるようになり、そのなかから、短期目標や長期目標が定まって同じ目標を共有でき、結果としてモチベーションの向上や、検査やリハビリの必要性の理解にもつながります。
こうしたことが可能だからこそ、患者さんとご家族との信頼関係がとても大切になるのです。

信頼関係を構築できた事例を紹介

1つの事例を紹介します。
以前、脳出血により失語症と右片麻痺を呈した患者さんを担当したことがあります。回復期リハビリを終えられ、外来のリハビリに移行するタイミングで担当となりました。
退院と同時に、今まで別に暮らしていたご家族と同居をすることになり、迷惑をかけたくないとの思いから、常に明るく過ごすようにし、自分でできることは少し無理をしてでも自分で行う一生懸命な方でした。

しかし、急な脳出血により、以前のように話せなくなったこと、利き手である右手が動かなくなった事実の受け入れが難しく、動かなくなった右手をさすりながら、「右手がね……」と、言語リハビリの部屋に入ると泣き出してしまう日々が続きました。

声を上げて泣き出してしまう患者さんに筆者は背中をさすり、寄り添うことしかできませんでした。一生懸命に過ごされている方だからこそ、心の中にあったコップの水がいっぱいになり、溢れてしまったのだと思います。

心のコップの容量は人それぞれです。コップの水が溢れそうなときには、セラピストとして支援するのもリハビリの一環であると考え、気持ちに寄り添う時間をつくるように配慮しました。

その後も泣き出してしまうことが多かったのですが、以前に比べて泣いてしまう時間も減り、切り替えができるようになり、「(言語課題を)やる!」と反応が変わってきました。
リハビリはスモールステップを踏んで、「徐々にできるようになってきている」という実感を持てるよう支援しました。
やがて笑顔も増え、ご家族の協力のもと公共交通機関を利用して、通院する練習を開始するまでに至りました。今振り返っても患者さん自身はもちろん、ご家族も病気と向き合い、障害受容の段階が進んでいったように感じます。

言語障害がある方はコミュニケーションに問題を抱えている方が多く、不安や悩みを親しい人にも伝えられずに苦しんでいる方もいらっしゃいます。専門職である言語聴覚士は、患者さんの言語機能を理解しているからこそ、患者さんの気持ちに気づきやすい立場といえます。だからこそ、患者さんに寄り添うことで信頼関係を構築しやすいともいえます。

また必要に応じて、患者さんがご家族にうまく伝えられないことや、ご家族が患者さんに確認したいことなどを言語聴覚士が聴取し、橋渡しをすることも重要であると感じました。患者さんやご家族に今後の生活を行っていく上でも大切なリハビリであると学ばせていただいた事例です。

コミュニケーション技術を高められるように日々学んでいきましょう

セラピストも緊張や不安を抱えながら患者さんのもとへ向かいますが、セラピスト以上に患者さんやご家族は、初めてのリハビリに対して不安や緊張を抱えているものです。

患者さんの心情を捉え、寄り添った上で信頼関係を築き、リハビリに対しての希望や思いを引き出してからリハビリ始めていくことがとても大切だと考えています。

また、信頼関係はリハビリを継続していく上での基盤になるため、言語聴覚士としての知識や技術だけでなく、コミュニケーション技術も高められるよう日々学び、経験していくことも必要だと思います。
筆者も日々の臨床で、たくさんの患者さんやご家族と出会い、学ばせていただいています。

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柴本千織(言語聴覚士)

社会人経験を経て、言語聴覚士免許を取得。病院にて急性期、回復期、地域包括、外来、緩和ケアチームなどを担当し、6年間勤務。その後、介護老人保健施設で勤務。成人の摂食嚥下障害、言語機能障害、高次脳機能障害の分野を中心に臨床業務に従事している。多職種連携による終末期の摂食嚥下障害へのアプローチにも取り組んでいる。

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