支援者として大切なこと~私の働き方~
公開日:2023.03.27 更新日:2025.01.22

文:鎌田康司(作業療法士)
私たちセラピストの業務は、いわゆる対人援助業務になりますが、対象者の方をはじめ、同僚・部下・上司などさまざまな人とのかかわりが求められています。そのような人と人とのかかわりを仕事にするうえで、「うまくいかない」「どうしたらよいのか」と悩まれることも多いのではないでしょうか。
今回は、改めて対人援助者として働くことについて、うれしかったことやつらかったことを思い出しつつ、私自身が、日頃の業務のなかで支援者として、管理者としてそれぞれの立場で意識していることや大切にしていることを、振り返りながらつづっていきたいと思います。少しでも参考になれば幸いです。
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対人援助者として働くこと
筆者が作業療法士の資格を取得してから、対人援助者として仕事を始めて17年近くになります。
「この仕事が自分に合っているのか」と考えても、わからないのが本音ですが、断言できることは、作業療法士として対人援助に携わることができて本当によかったと思っていることです。
そのように思える要因として考えられるのは、やはり対人援助に携わるなかで、人と人とのかかわりを通じて、お互いの生活が「豊か」になれることがあるからだと思います。
生活の豊かさの基準は人それぞれ異なると思いますが、「笑顔が増える」「楽しみなことができる」「役割がある」「やりがいをもっている」「働いている」など、豊かさは人によってさまざまです。
また、対象者とのかかわりのなかで、私自身も人として成長し、生活が豊かになれることを実感できています。ときには、自分の無力さを痛感し落ち込むこともありますし、ほかの援助者と自分を比べて、「自分はまだまだダメだ」と自信をなくすこともありますが、いつからか、それも対人援助者として人として成長するために大切なことだと思えるようになりました。
そんな、魅力ややりがいに溢れている対人援助職について、次からは支援者・管理者として大切にしていることを、基本に立ち戻って考えていきたいと思います。
支援者として働く上で大切にしていること
支援者として仕事を行ううえで、大切なことはたくさんあるので、今回は「バイステックの7原則」をご紹介したいと思います。
対人援助の基本技術として有名なものなので、ご存知の方も多いと思いますが、経験年数にかかわらず、とても重要な原則であると感じていますので、改めて確認していきましょう。
バイステックの7原則とは
バイステックの7原則とは、アメリカの社会福祉学者であるフェリックス・ポール・バイステック氏が、自著『ケースワークの原則(1957年出版)』で提唱した原理です。
作業療法士だけでなく、介護士や社会福祉士、看護師など対人援助にかかわる人の行動規範とされているものになります。バイステックの7原則を簡単にまとめると次のようになります。
① 個別化 問題は1人ひとり違うもので、似たような問題を一緒に考えてはいけない
② 意図的な感情表現 怒りや悲しみ、妬みなど対象者の自由な感情表現を認める
③ 統制された感情表現 援助者は感情的にならず冷静に判断をすることが大切である
④ 受容 対象者の考えを否定しない
⑤ 非審判的態度 対象者の考えを善悪で判断しない
⑥ 自己決定 行動を決定するのはあくまでも対象者自身である
⑦ 秘密保持 対象者の情報を他人に漏らさない
「こんなの当たり前!」と思う方もいるかもしれませんが、わかってはいてもうまくいかないものです。経験を重ねたからこそ、過去に支援したAさんと似た状況のBさんを無意識のうちに重ねてしまうこともあるかもしれません。
対象者の考えに否定的になってしまったり、善いか悪いで判断してしまいそうになることもあるでしょう。それぞれの原則の細かい内容については割愛しますが、この原則原理を守ることは、対象者との関係づくりや権利擁護を行ううえでとても重要なことです。
対象者を思い浮かべながら、自分自身の揺れ動きも含め、改めて振り返ってみるとよいでしょう。
管理者として働くうえで大切にしていること
次に管理者として、職場のスタッフとかかわるうえで大切にしていることをお話ししていきたいと思います。
次の言葉は、連合艦隊司令長官として真珠湾攻撃の作戦を決行した山本五十六の名言で、人材育成論としても有名な言葉です。私はこの言葉を就職してから数年後の研修のなかで初めて耳にしました。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」
「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
コミュニケーションで大切なことが書かれているため、場面場面での任せっ放しのコミュニケーションではいけないことや、かかわり方や関係性の変化が人の変化につながることが、とても理解しやすい名言だと思っています。
なかでもここで大切なのは、「コミュニケーションには段階がある」ことと、「その段階をすべて実行すべき」だということです。
最初の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」では、まず自分でやって見せる、次に言葉で言って聞かせる、次に本人にやってもらう、それができたらほめてやる。その順番、段階が大事になります。
しかしこのとき、もし最後にほめなかったらどうなるでしょうか。「人は動かない」と言っています。つまり、段階すべてを実行することが大切だということです。
段階をしっかりと把握して、そのすべてを実践する。それによって確かなコミュニケーションが成立するわけです。
私も管理者としてさまざまなことを人にお願いすることがありますが、ときに思ったように動いてくれない場合があります。そのときは、「段階が順番どおりか」「段階のすべてを実行しているか」を常に考えるようにしています。
また、「人は動かじ」「人は育たず」「人は実らず」とありますが、これは、教わる側だけでなく教える側にもいえることで、ともに成長することが期待されているように感じています。ともに成長することができる関係性をスタッフと築ける、そんな管理者になりたいなって心から思っています。
ともに成長できる対人援助者でありたい
今回は、対人援助者として働くなかで、私自身が大切にしていきたいと思っている基本的な考え方についてご紹介してきました。
このようなことを書いている私自身、コミュニケーション能力については自信がありませんが、人の尊厳や権利などを守ることや、人とかかわるうえで大切なことなどを今後も忘れず、これから出会うさまざまな人とも、ともに成長できるような対人援助者でありたいと思っています。

鎌田 康司
得意分野は精神科、高齢者、訪問看護、障害福祉サービス、施設マネジメント、地域ケア。
介護老人保健施設で勤務後、精神科単科の病院で院内作業療法を経験。患者さんの実生活を知るため、地域の訪問看護ステーションに転職。今は生活訓練という障害福祉サービスの管理者として、精神障害や発達障害、知的障害の方たちの地域生活のサポートをしている。3人の子どもがおり、子育てと家事にも奮闘中。
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