勉強についていけずに、くじけそうになるときに大切なこと ~養成校の現役教員が真心アドバイス~
公開日:2023.03.29
文:大橋航祐(作業療法士)
世の中は何をするにも何になるにも「勉強」が必要です。作業療法士もまた、作業療法士になるための養成校で勉強をし、作業療法士となったあとも、患者さんの生活をよりよくするため勉強が求められます。
「しなくて済むのであればしたくない」という方も多い勉強ですが、避けてとおれないのもまた勉強です。
私自身も「勉強は好きか嫌いか」と問われたら好きではありません。勉強についていけずに自分にいら立ったことや、やる気が出ずに投げ出そうと思ったこともたくさんあります。
今回は作業療法士として、また教員としての私の経験から、「勉強についていけずに、くじけそうになるときに大切なこと」のテーマでお伝えしていきます。現在、勉強に悩みを抱えている方に少しでもお役に立てれば幸いです。
目次
勉強にくじけてしまうワケ
勉強とは、「わからないことをわかるようになるために努力する」ことが前提の行為です。自分の興味のある分野であれば、その努力は苦にならないものです。
例えば、好きなアニメ、アイドル、ファッションのことであれば、それを「努力」とは感じずに知らず知らずのうちに知識を得ているでしょう。
しかし、興味のあることばかり勉強していればいいというわけにもいきません。学校でも職場でも自分の興味のない勉強を強いられることだってたくさんあります。興味のない分野の勉強ほどつまらないものはありません。
また、何のために勉強しているのかわからない内容もやる気が湧かないものです。必要性を感じないと、「もう無理!」「やりたくない!」となってしまうのは当たり前のことです。
自分のため「患者さんのため」の思いが乗り越える秘訣
では、「興味がない」「何のために勉強しているのかわからない」という人は、どう考えればその壁を突破できるのでしょうか。
学生に授業や補習を行うとき、私ははじめに次のように伝えています。
勉強は『暗記する工程』と『理解する工程』があります。ですので、まずは知らない言葉を暗記するところから始めましょう。知らない言葉を覚えてはじめて理解するための勉強を行います。一度にすべてを理解して覚えることは絶対にできません。それをやろうとするからできないで心が折れてしまうのです。一つひとつステップを踏むことが一番の近道となります
残念ながら何もしないで勉強がわかるようにはなりません。でもやればできるようになります。作業療法士になるためには、例えば解剖学という、多くの学生が苦労する人の体の構造を学ぶ科目があります。
学生は「意味わかんない」とよく言います。基本的に意味なんてわかろうとしなくていいんです。人が進化の過程でそうした体のつくりになっているだけですから。意味について興味があれば勉強してもいいですが、きっとその意味を知りたい人は勉強にくじけたりしないでしょう。
作業療法士の資格をとるために、また、作業療法士として病気やケガをした患者さんをよくするためにも、病気やケガの土台となる体の構造を知らなければなりません。そのため、ただただ暗記する勉強も必要となります。
「自分の将来のため」「患者さんのため」というしっかりとした目標があれば、壁はきっと乗り越えられるはずです。
勉強のやる気が出ないでくじけそうになるときに大切なこと
くじけそうになるもう1つの理由は、勉強を始める前に立ちはだかる壁です。
私自身もよく経験しますが、勉強をやろうやろうと頭の片隅でわかってはいても、なかなか始めることができないことがあります。映画や動画チャンネル、SNSから目が離せずに勉強にとりかかることができないといったケースです。一度机に行き、始めてしまえばなんてことないことなのに、「あと5分したら」「何時になったら」「この動画を見終わったら」と考えて、勉強になかなかとりかかれない経験をしたことがある人も多いと思います。
しかし、「学校に行きたくない」「仕事に行きたくない」と思ってはいても、いざ行ってしまえばなんてことのない、むしろ楽しいと感じることは多いのではないでしょうか。
これからわかるのは、とにかく始めてしまうことが大切だということです。はかどらなくてもいい、とにかくベッドから出て、ソファから立ち上がって机に座ることです。そして教科書を開いて眺めるだけでも十分です。こうした一歩から、勉強に取り組む姿勢を習慣化することが大切になってきます。
理解できなくてくじけそうになるときに、大切な発想とは
勉強にとりかかることが習慣化されているにもかかわらず、くじけそうになることがあります。それは「理解できない」状態の場合です。勉強している内容がわからなければ、嫌になってくじけてしまうのは当然のことです。
勉強に取り組む際にぜひ覚えておいていただきたいのは、勉強して覚えたことは必ず忘れてしまうことです。勉強を嫌う学生からよく、「今勉強してもどうせテスト前になったら忘れてしまうからやらない」という声を耳にします。
確かにそのとおりで、ただ一度丸暗記しただけではすぐに忘れてしまいます。「忘れてしまうから勉強しても無駄」ではなく、勉強しても忘れるのは当然と知っておくことが大切です。覚えたものを忘れないようにするためには、同じものを繰り返して覚え、記憶を定着させることです。そして、「記憶の定着」から「理解する」という次のステップに進む必要があります。このステップを意識することが大切になってきます。
理解学習は勉強が楽しくなってくる
では、「理解する」とはどういうことなのでしょうか。
理解とは、簡単にいえば「納得してわかっている状態」です。勉強が理解できると、丸暗記ではないため、いくら忘れても「確か、こういうことだからこうなるはずだ」と思い出すことができる確率が格段に上がります。
しかし、このレベルになるには、ある程度の記憶量が必要になります。というのも、理解とは、複数の記憶によって頭の中で関連づけられることで成り立っているからです。
1つの例を挙げます。心臓は右心室に比べて左心室のほうが心壁が厚いことだけを記憶している場合と、右心室は肺へ、左心室は肺以外の全身へ血液を送ることを加えて記憶していた場合を比べてみるとします。
「心臓の壁って右と左、どっちが厚いんだっけ?」と忘れてしまっても、もう片方の右心室は肺へ、左心室は肺以外の全身へということを覚えていた場合、「肺よりも全身に送るほうがより強い力が必要だから、右に比べて左の心壁は発達して厚くなっている」ことを思い出すことができます。ここまできてしまえば、もう忘れたくても忘れられなくなります。
そして、理解できるようになって一番いいことは、「楽しい」と感じることができることです。楽しいと感じられると、「もっと知りたい」「もっと勉強したい」という強いエネルギーに変わっていきます。
誰かに頼って甘えたら勝ち
最後に、もしも勉強にくじけそうなったら1人で頑張ろうとしないでください。1人で努力しなければいけないなんてことは絶対にありません。頼れるものに頼ることは最も賢い選択だと私は思います。
まずは身近にいる先生や先輩に対して、「わかりません」「教えてください」と声をかけましょう。きっとやさしく教えてくれるはずです。
もう1つのおすすめは、勉強に自信のないクラスメイトや同僚がいたら仲良くなることです。目の前で勉強されると嫌でも「自分も何かしないと」という気持ちにさせられます。周りの環境を使うこともいい刺激になります。
勉強方法には向き不向きもあるかもしれませんが、私の考え方に興味を持ち、「勉強を諦めないでやってみようかな」と思っていただけたら、うれしく思います。
大橋航祐(作業療法士)
作業療法士資格取得後、主に脳卒中患者の急性期から回復期リハビリテーションを経験。病棟責任者、外来部門および認知症治験の管理責任者兼任。また芸術療法の学びも並行し、公認心理師資格取得、カナダアートセラピー協会認定臨床芸術療法士のディプロマを取得。非常勤にて精神、発達分野での経験ももつ。現在は作業療法士養成校にて教育分野に携わりながら、訪問リハビリにて臨床経験を積んでいる。
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