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病院を辞めて地域へ出た作業療法士の話 ~地域ならではの魅力と出会う~

公開日:2023.06.05

病院を辞めて地域へ出た作業療法士の話 ~地域ならではの魅力と出会う~

文:鎌田康司(作業療法士)

私は今から10年前、勤めていた精神科病院を退職し、当時はまだ多くなかった精神科訪問看護ステーションに転職をしました。退職を決断するにあたっては、いろいろな理由はありましたが、今思い返してみれば、自分の成長にとってとても大事な決断だったと思っています。

今回は、精神病院での作業療法の役割や、当時私が抱えていたジレンマ、地域で働いて感じた難しさややりがい、また地域で働きながら、スキルアップしていくために今後も必要であると感じていることなどについて、お話ししていきたいと思います。

精神科病院での作業療法士の役割

はじめに、当時私が勤務していた精神科病院について少し紹介をしたいと思います。
そこは約200床の精神科単科の病院で、病棟は開放病棟と男女それぞれの閉鎖病棟に分かれていました。

精神状態の悪化により、つらさや不安から表情が険しくなってしまったり、大きな声を出してしまう方もいましたが、普段はとても穏やかで心優しい方たちばかりで、就職する前の精神病院や精神障害者の方に対する怖さや不安は、理解が深まるとともに薄れていきました。

この病院で私が携わっていたのが精神科作業療法です。
精神科作業療法は、医師の指示のもと、作業を治療的に活用することが求められます。心身の回復・病によって絶たれたさまざまな関係性の回復を図るために、作業活動を活用します。
主な作業活動としては、手工芸や音楽活動、園芸、スポーツや料理などがあります。

私が抱えていた2つのジレンマ

精神科病院の作業療法に携わって3年が経過する頃、私は2つジレンマを抱えるようになりました。

1つは、提供する作業療法が患者さんにとって与える影響についてです。
精神科作業療法はさまざまな作業活動をとおして精神状態の回復を図ります。入院している患者さんのなかには長期入院され、作業療法に参加することが日課のようになっている方もいました。

楽しみや気分転換を得ることは大切ですが、それと同時に、そのような日々の積み重ねが、少なからず入院の長期化の要因になってしまっているのではと懸念するようになっていました。

2つ目のジレンマは、作業療法士1人あたりの治療人数が多く、個別や少人数で患者さんと関わる機会が少なかったことです。

病院の規模などによって、作業療法士1人当たりの治療人数はさまざまですが、私が勤務していた病院では、1人当たり1日30~40人近くの方に作業療法を実施していました。そのため、当然1人あたりに関わることのできる時間も限られてしまいます。そのような状況に対し、この頃の私は、「もう少し個別でじっくりと関わりたい」と思っていました。

ちょうどその頃、『むかしMattoの町があった』というイタリア映画を観る機会がありました。イタリア人の精神科医フランコ・バザリアという方が、「自由こそ治療だ」という信念のもとさまざまな働きかけを行った結果、1978年、イタリアの精神科病院を廃絶させる法律、バザリア法が公布され、入院していた患者さんが地域に出て、それぞれの生活を始めるストーリーが描かれた映画です。

詳しい内容はここでは割愛しますが、当時私が抱えていたジレンマと重なることもあり、「病院を辞めて地域へ」という思いを強くした映画でした(バザリアに関する映画に『人生、ここにあり!』もあり、こちらもお勧めです)。

病院を退職して地域へ。地域でのやりがいや難しさ

こうしたジレンマを抱えていた私は、地域に出るべく、訪問看護ステーションに非常勤で勤務するようになりました。

しかし、地域は決してやりがいだけに満ちたものではなかったのも事実です。

一方で感じた「地域」ならではの難しさ

その1つは、主治医などの関係機関と方向性を統一することと、必要だと思われる情報を集約し、必要であればタイムリーに共有することでした。

訪問看護は医師からの訪問看護指示書に沿って支援を行いますが、多くは会ったことや話したこともない医師からの指示書になるため、病院で勤務していた頃のような、顔の見える関係づくりやタイムリーな連絡調整は難しいのが現状でした。

日々の訪問の様子については、月に一度の報告書で伝えはしますが、服薬調整や体調の急変などで必要なときには、直接電話で話すこともあります。そのようなときには、報告や相談の内容をまとめ、時系列に沿ってできるだけ簡潔明瞭に話ができるのが望ましいのですが、初めの頃はそれが苦手で、緊張をしてしまい、まとまらない話になってしまったことを覚えています。

病院で勤めていた頃は、相談員などのマネジメントを担当してくれる方がいましたが、地域ではそのような役割も自分で担っていかなくてはならず、はじめの頃はその役割の多さに戸惑うこともありました。

また、さまざまなことに気づく大変さも地域に出るようになって身に染みました。

精神障害以外のさまざまな内科疾患を併発する方がいます。健康診断などの検査がおろそかになっていたり、自覚症状に乏しく自分では気づけない方もいます。そのような方や状況にもアンテナを張り、小さな変化でもキャッチができるよう、精神面だけでなく、身体状況や全身状態まで観察をしなければならず、訪問看護のなかで使用できる評価ツールを活用して把握をしていく必要があります。

これに関しても、転職した当初は、病院の頃と比べ多くの支援者の目が入る環境ではない分、限られた時間のなかで、さまざまなことまで把握していかなくてはいけない大変さと責任感を強く感じていました。

しかし、看護師の方と一緒に訪問を重ねるなかで、自分の観察力の乏しさに気づいたり、観察や聞き取りのコツなどを教えてもらったりしながら、少しずつできるようになっていきました。

新たな価値観を感じた「地域」

このように、最初は地域ならではの問題に戸惑っていましたが、徐々にそのやりがいや魅力に引き込まれていきました。

病院での作業療法との大きな違いは、生活の場へ赴き、その人の暮らす環境で必要な支援を行うことと、訪問の場面で個別に必要な支援が行えることでした。

病院で勤務していた頃も、個別作業療法として、1対1や少人数で治療を行うことはありましたが、訪問の場合はすべてが個別支援になるため、「もう少し個別でじっくりと関わりたい」という私の抱えていたジレンマを解消することができました。

必要な方には一緒に運動をしたり買い物に行ったり料理をしたり、さらには復学や就労のサポートなども行っていました。

そのため、病院で勤務していた頃よりもより広いフィールドのなかで実践を行うことができるようになったと実感し、それがまたやりがいにもなっていきました。

もう1つの、「提供していた作業療法が、入院を長期化させてしまっているのでは」というジレンマも解消することができました。自宅でご本人の望む生活が送ることができるようにサポートをする立場と役割に変わったからです。

時には入院が必要な状況になってしまうこともありますが、入院した後も定期的にその後の経過を病院と共有し、できるだけすぐに退院できるようにし、退院後は再び自宅でのサポートが継続できるような関わりを行っていました。

このような関わりが行えるようになったことは、入院の長期化を違った立場で予防することの役割として、微力ではありますが貢献できていたのではないかと思っています。

そして、地域に出て強く思ったことは、「病気や障害を抱えながら生活をすること」、そして「その人の病気や障害とのつきあい方」は、1人として同じではないということでした。これはとても新鮮でした。

これまでの、「こうでなければ」という自分の凝り固まった考えや価値観を改めることが何度も何度もありました。

地域で働きながらスキルアップするために必要なこと

地域で働き続けるためには、スキルアップが必須になります。

病院などの大きな組織では、既存の研修体系がありますが、地域では研修体系がないことも多々あります。そのため、自分で必要な研修の情報をキャッチし、参加する手筈を踏んでいくことが求められます。

私が転職した訪問看護ステーションも作業療法士は私1人だったため、作業療法の研修は、自分が学びたいことと上司や職場が学ぶ必要があると思っていることをすり合わせ、参加するようにしていました。また、医療の進歩により変化していく治療方針や手技、新薬などについての医療情報を更新するようにしていました。

地域で勤務するためには、こうした小まめな努力が大切になります。

10年経った今でも色あせない地域の魅力

今回は、精神科病院に勤めていた私が、なぜ病院を辞めて地域に出たのかについて、精神科病院のことや精神科作業療法の役割について振り返りながら、お話をさせていただきました。

当初は非常勤で勤務していましたが、地域の魅力を知った私は、その後正職員となりました。

病院も地域もそれぞれ役割があり、やりがいや難しさもありますが、当時の私は、フランコ・バザリアの信念でもある、「自由こそ治療だ!」という言葉に感銘を受け、地域でその人が主役である生活をサポートしていくことに、やりがいを感じていたのだと改めて思い返すことができました。

今は、この当時からさらに10年ほど経ちましたが、まだまだ地域の魅力が色あせることはないと感じています。

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鎌田 康司

鎌田 康司

得意分野は精神科、高齢者、訪問看護、障害福祉サービス、施設マネジメント、地域ケア。
介護老人保健施設で勤務後、精神科単科の病院で院内作業療法を経験。患者さんの実生活を知るため、地域の訪問看護ステーションに転職。今は生活訓練という障害福祉サービスの管理者として、精神障害や発達障害、知的障害の方たちの地域生活のサポートをしている。3人の子どもがおり、子育てと家事にも奮闘中。

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