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【インタビュー】こんな道もある!セラピストの仕事:「食事摂取の支援で後進を育てていきたい」

公開日:2023.08.25

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文:北原 南海

セラピストの仕事の一般的なイメージは、医療機関に勤め、ステップアップしていく形が多い。その一方で生活期のリハビリや、作業療法士は発達障害ほか精神障害の領域など、活躍の場が広がりつつある。そこで、「こんな道もある」をテーマに特徴的な業務についている人、仕事をしている人にインタビューを行った。

今回はリハビリテーション科学・福祉工学を専門に研究に携わるとともに、運動学、解剖学実習を中心に学生に指導している佐藤さんにお話を伺った。

今回インタビューした人

佐藤 彰紘

佐藤 彰紘(さとう あきひろ)さん

作業療法士。北海道富良野市出身。目白大学保健医療学部作業療法学科准教授。リハビリテーション科学・福祉工学を専門に研究に携わるとともに、運動学、解剖学実習を中心に学生に指導。
1999年に短大を卒業後、医療機関勤務を経て、2005年より専門学校教員、2007年より健康科学大学教員。その間に山梨大学大学院医学工学総合教育部修士課程修了。2011年より目白大学教員。
著書に『がんばらなくても誤嚥は減らせる! シンプル食サポート』(医歯薬出版)など。オンライン教材でもお茶の水ケアサービス学院、「リハノメチャンネル」(株式会社gene)などで講師を務める。

契機は偶然だった食事面の支援

佐藤彰紘さんは、所属の大学で研究に携わるとともに、運動学・解剖学実習を中心に学生を指導している。

そのなかで継続的に取り組んできたテーマがある。摂食嚥下障害への作業療法からのアプローチ。多職種連携による取り組みで臨床経験を積んだのを機に知識やノウハウを身に着け、2019年には『がんばらなくても誤嚥は減らせる! シンプル食サポート』(医歯薬出版)を上梓。

そして作業療法専門誌での短期連載などの執筆活動、介護・医療の専門職を対象とした研修や学習動画での講師などの活動も多い。

「きっかけはたまたまだったんです」。意外にも佐藤さんはこう話す。専門学校を卒業後、医療機関勤務、専門学校教員を経て、2007年から山梨県の健康科学大学に助教、専任講師として勤務。

そこで、高齢者や障害者の摂食嚥下サポートのための団体「摂食嚥下サポート やまなし」のメンバーだった先輩の作業療法士(以下、OT)が別の地への赴任になり、後任にならないかと声をかけられた。

「食事に特に強い関心はなかったのですが、仕事は断らないようにしていて。でもそれが大きな転機になりました」。相談のあった施設に歯科医師、管理栄養士、リハビリ職など多職種で出向いてはアセスメントや指導などを行った。

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《大学のゼミでの演習の様子。リクライニング位での食事介助を指導》

誤嚥性肺炎での入院が3分の1に

しばらくして、今度は大学の先輩のつてで、知的障害者入所施設でOTとして勤務することになった。非常勤で月2回。ただ、当時はOTへの認知度はそれほど高くなく、現場に出ると、「何をする人なの?」と敷居の高さも感じたと話す。そのなかで取り組むべきことを探った。そしてわかったのは、誤嚥性肺炎で入院するケースが多いことだった。

疾病、歯や口腔・嚥下の状態、食形態、姿勢、道具、薬など多様な要素が関わる摂食嚥下サポートで、OTは主に姿勢や動作、椅子やテーブル、食具などの面から関わることになる。

佐藤さんは、アセスメントを通じて問題のあった利用者6人のサポートから始めた。そして、必要に応じて「摂食嚥下サポート やまなし」の他職種とも連携。1年後、誤嚥性肺炎での入院は3分の1に減った。同じ頃に入った管理栄養士もいて「食事姿勢と介助方法、食形態への対応が特に大きかったです」と佐藤さん。

同時期に行ったそこでの刻み食廃止、そして誤嚥のリスクが下げられる、舌やあごでつぶせる食形態の導入も、管理栄養士の意見も踏まえつつ佐藤さんが施設長に進言し、コーディネート。変更後の喫食量増、むせ減少の成果もデータ管理で見える化し、施設スタッフ間での信頼も向上した。その施設へは埼玉県の今の職場へ移った後も、コロナ禍の前まで10年ほど支援に携わった。

全体を見やすい立場

例えば、知的障害の50代女性。食べるのが好きだが、食事の際に顔が下向きになってしまって食べこぼしが多く、口腔内残渣(食べ物の残りカス)も多くなって誤嚥性肺炎のリスクを高めていた。医師には経口摂取をやめたほうがよい状態とも言われたが、家族は口からの食事を楽しめないかと希望した。

そこで、佐藤さんは彼女のリハビリ担当スタッフと風呂用マットを使ってクッションを作成。あごと鎖骨の間にはさみ、指4本分の角度を確保した。すると食べこぼしが減り、喫食量も増えた。

食事に関して生じる困難には複数の要因が絡むことが多いが、この話は道具やその使い方という環境面からのアプローチがわかりやすい形で成果を上げた例といえる。

「姿勢や道具は成果がすぐに出やすい。動作的な食べにくさに気付いてあげられます」。そこにOTならではの役割、やりがいも感じると話す。また、佐藤さんは次のようにも考える。

OTは、食に関してはできることが他職種と被る部分が多い。例えば、姿勢・動作でPTやST、食具では福祉用具専門相談員、適切な食事介助と姿勢との兼ね合いで看護師など。「ですので全体を見やすい立場にあると思います。被る部分を必要な職種に“翻訳”したり、職種間をつないだりもしやすい。調整役をこなしやすい立場だと思います」。

その人にとっての大切な食事

食事面の支援で大切にしていることとして佐藤さんはこう話す。「その人にとっての大 事な食事があります。それを誤嚥のリスクを最小限にして可能にすることも大切」

例えば、誤嚥性肺炎で何度か入院経験はあるものの、母親の訪問と持参するおにぎりを楽しみにしていた知的障害者の男性の「お母さん手作りのおにぎりが食べたい」に応えたり、高齢者の入所施設で、お楽しみのためにとろみ材を使って酒を提供したり。

佐藤さんは、食事支援は大きく治療や訓練などの医学的なアプローチと、食事姿勢や動作の取りやすい椅子・テーブル・食具の選択、食形態の工夫といった環境面からのアプローチに分けることもできるとしたうえで、 「その人の状態によって、例えば機能訓練的な対応が重要になる人、あるいは環境面からのアプローチが主になる人もいて、それを見極めることが大切だと思います」。

佐藤さん自身は、障害が重い人、要介護度の高い高齢者、意思疎通も困難なケースなどへの対応が多かった。超高齢社会の中でさらにそうした人が増える状況下で、機能訓練の実施が難しい人、機能向上や維持が難しいケースも多い中、「環境的アプローチ」の重要性は一層高まると見る。

一方で、「食べてはいるけれど食べづらそうな人。こうした人への対応が大切になってくると思います」とも話す。

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《パーキンソン病など、握りこむことでスプーン把持が安定する人用に佐藤さんが作った自助具のスプーン。握りの部分には熱可塑性樹脂を使用。》

地域での実践とWBL

コロナ禍に、新たな取り組みも始めた。学校作業療法士。ひょんなことから近隣の小学校で集団宿泊学習に参加できなかった子がいたことを知り、学校にお手伝いできないかと申し出ずにはられなかった。発達障害児などが適応しやすくするための学校での環境調整のニーズも増しつつある。

佐藤さんは、大学所属のPTとともに連携プロジェクトを結成し、教員の悩みにリハビリの視点から分析・アドバイスする。

例えば、運動が極端に苦手で縄跳びがうまく跳べない子の場合。「原因を説明のうえ、みんなと同様に、ではなく、その子にとっての『これくらいでいい』という目標とステップがイメージできるようアドバイスします」と佐藤さん。その際は、「子どもや先生方が大切で、OTはサポートするというスタンスで」とも話す。現在は取り組みを市全体へ広げることを視野に働きかけを行っている。

佐藤さんが学生への指導で近年、重視するのは実体験、実践を基盤としたWBL (Work-Baced Learning)。実際の場面を想定して学習する。

例えば車いすなら、自分でも乗って操作してみたり、利用者と接したりすることを大切にする。「ゼミでは実際の現場に連れていったりもします」。

先の学校との連携プロジェクトもいずれそんな場の一つにできればと思っており、「なぜそうなっているのか科学的な原因分析が大切。その一方で、学生には地域に出て、もし失敗しても次につなげられるようになる教育にしたいです」。

そうした考えは食支援での経験ももとになっているのかと聞くと、「あると思います」と佐藤さん。自身も「今地域社会が抱えている課題に対し、何も対応がないフラットな状況からその課題へ一歩踏み出せたときに、『OTしてるな』と実感します」と話す。

食事面の支援については、オンラインでの講師活動で受講者からの問い合わせも少なくないという。食事に関わるOTは増えたと感じるものの、対応力をより高めていく必要も感じており、「後進の育成が大切だと思っています」と佐藤さんは語った。

著書:『がんばらなくても誤嚥は減らせる! シンプル食サポート』(医歯薬出版)

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北原 南海(きたはら みなみ)
大学卒業後、出版社勤務を経てフリーの編集者兼ライターに。編集者としては教材や単行本など各種出版物の制作、ライターとしては介護施設・サービス、認知症や食事・栄養、リハビリに関する取り組み、外国人スタッフの採用・定着・定住に関することなどについて、新聞や雑誌などで取材・執筆に従事している。
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