30代から理学療法士になる! 34歳でセラピストデビューした私のリアルな話
公開日:2023.11.13
文:ひがし(理学療法士)
「30代だけれど、理学療法士になりたい!」と思っている方や興味を持っている方、私のリアルな話をしてもいいでしょうか。
私は30代で理学療法士の専門学校へ入学しました。学校では一番年上の生徒。30代から未知の世界へ飛び込み、理学療法士となりました。結果的に「本当に大変だったけど、理学療法士になってよかった、医療職になってよかった」と心から思っています。
30代はある程度の社会人経験を積んだ頃です。毎日同じ日の繰り返しのなか、「私はこのままでいいのだろうか?」と考える年代といえるかもしれません。私もまさにこのパターンでした。
「30代で理学療法士になる!」と決意した、私のリアルな話を読んでくれたらうれしいです。
30代で理学療法士を目指すなんてまさか
自分のやりたいことが見つからなかった事務職をしていた20代。目標もやりがいもなく、平凡な人でした。
しかし30歳になったときに起こったのが、アメリカ同時多発テロ。衝撃的な事件に、「ちゃんと生きなきゃいけない」という思いが心に降ってきたのが始まりでした。
「これからは人のためになるようなことをしたい」「女性が1人でも生きていける仕事をしたい」と考え続け、資格の本を調べ尽くして見つけたのが理学療法士でした。
「リハビリなら私にもできそう」「これからの高齢化社会で仕事もたくさんあるだろう」「人のためにもなる」、と思い決めたのでした。
久々の受験勉強
私が目指した専門学校は、社会人入試はなく一般入試のみで、その倍率は5倍もありました。
入る学校を決めたのは入学試験の半年前。まずは書店でコメディカル受験用の参考書と問題集をたくさん買ってきて、仕事から帰ってくると猛勉強に明け暮れました。
30代の受験勉強は不安しかありませんでしたが、何者でもない私が何かになるのだと燃えていました。学校での日々をイメージするために、インターネットで学校の先輩を探し出し、連絡をとって学校の様子を詳しく聞きました。
また、学校は私立だったので学費は1年間だけで100〜200万近くかかります。学生生活は非常に忙しいので、バイトをすることは難しいです。かといって、そこまでの貯金はありませんでした。私は今までの貯金のほか、親と祖父母から学費を借りてなんとかしのぎました。
30代の学生時代
私は仕事を辞めると、1人暮らししていたアパートから実家へと戻り自宅近くの学校に通いました。実家のほうが出費も最低限で済み、食事なども面でも親に助けてもらえる部分が多かったからです。親には「出世払いするから!」と頼み込みました。
無事に入学したものの、学生生活は想像以上に大変でした。しかし得たものも大きく、素晴らしい学生生活を過ごすことができました。
ひとまわり違う年齢の同級生と年下の先生
同級生は高校を卒業したての10代が多く、先生もほとんどが年下でした。しかし、思っていたほど年齢を気にすることはなく、学生生活を楽しく過ごせました。私が一番仲良くしていた同級生は18歳でした。みんな同じ医療職を目指す学生同士なので、そもそも年齢をそこまで気にする必要はなかったのかもしれません。
もちろん社会人の学生もいて、小さいお子さんがいる方や、会社をやめてきた方もいて心強い仲間となりました。
医療系の勉強は、記憶力と体力と人生経験で乗り切る
勉強は思った以上に大変でした。医療の仕事は命に関わる仕事です。学ぶことは膨大にあります。骨や筋肉の名前をすべて覚えるところから始まり、リハビリの評価や解釈の方法、技術など学習は多岐にわたります。
そして容赦ない試験の嵐。徹夜でレポートを仕上げる日も何日もありました。耐えきれず、学校をやめていく仲間も続きました。私はつらいときは、理学療法士になることを応援してくれた人たちのことを思い出して気持ちを保ちました。
理学療法士になるには、記憶力と体力が必須です。しかし30代ともなると、10代の頃より衰えはあります。その分、若い人の10倍以上は繰り返して覚えたり、普段から筋トレをして体力を保ちました。
一方で、患者さんの傾聴、声のかけ方、医療人としてのあり方は、今までの人生経験が役に立つので、自信を持って取り組むことができました。ここは社会人ならではの強味だと思います。
最終学年の実習はきつい
最終学年は実習が待ち受けています。学校により実習期間は違いますが、私の学校は、2か月ずつ、3か所の病院へ実習に行きました。
学校から遠く離れたところへも行き、病院の寮に入りました。ひたすら、「担当患者さんのQOL(生活の質)の向上のためにリハビリは何ができるのか」を思って取り組んでいました。
大変な日々でしたが、とても貴重な時間でもありました。「そうした日々を乗り越えたのだからなんでもできる」と今では思います。
しかし、あれだけ勉強に集中できたのは、周囲の人の応援があったからこそです。勉強や試験で疲れ果てた私のために食事をつくってくれたりと、親にはさまざまな面で支えてもらいました。
ちなみに、家庭を持っていた社会人の学生のなかには、事前に、生活が勉強一色になる時期があることを周囲の人に伝えて協力を求めていました。
国家試験と就職活動
実習を乗り越え、卒業試験をパスすれば、いよいよ国家試験勉強と就職活動が忙しくなります。
卒業試験、国家試験
学校によっては卒業試験のほうが難しいでしょう。これに落ちると留年となり、国家試験を受けさせてくれないので注意が必要です。
国家試験はひたすら過去問を解くことでクリアできます。合格率は80%前後ですが、当然勉強しなければ落ちます。範囲も広いので30代はコツコツと勉強するのがいいでしょう。
難しさも感じた就職活動
30代からの就職は表向きには制限は感じませんでしたが、21歳で就職する場合と30代で就職するのはやはり違います。
例えば、30代の職員が多い病院や施設だと、30代が飽和状態なので20代前半の若い人を採用しようとする傾向がありました。
また、急性期や総合病院はかなり多忙なところが多く、採用人数も少なく狭き門だったため、若い人を採用する傾向にあったように思います。
私は自宅から離れた地方の総合病院へ応募したところ、合格しました。自分のやりたいことをしっかり伝えたのが功を奏したようでした。
自分の希望する病院や施設に就職したい場合は、前もって積極的に見学に行って雰囲気つかみ、「自分がここの病院で何をしたいのか」「どう貢献できるのか」をしっかり考えてアピールできるようにしておくといいと思います。
リハビリの養成校も急増しているため、「毎年多くの理学療法士が誕生して飽和状態なのでは?」と思われるかもしれませんが、介護福祉施設や在宅の現場には活躍できる場所はまだまだあるので、前向きに就職活動に取り組んでみてください。
セラピストデビュー・遅咲きの新人
国家試験にも無事合格して、いよいよ34歳にして理学療法士デビューしました。年齢こそ30代ですが新人です。1から始める気持ちで臨みました。
給料は会社員の頃と変わらない
私が就職した総合病院の給料は、事務職をしていた会社員の頃と変わりませんでした。
厚生労働省の調査によると、理学療法士の平均年収は430万ほどです。勤務年数によって昇給があり、就職先によってはインセンティブが出たり、取得した資格に対して昇給する場合もあります。
セラピストとしての30代
実際に仕事をしてみると、ますます年齢は関係なくなります。若いセラピストか30代の遅咲きのセラピストかはまったく関係ありません。なぜなら、患者さんにとってはあくまでの1人のリハビリ担当者でしかないからです。
そのため、自分の年齢を忘れて真摯に患者さんに向き合う日々が続きました。
転職も年齢はさほど不利にならない
最初に就職した病院で経験を重ねるうちに、自分のやりたい方向性が変わり、転職したいと思うこともあるでしょう。
転職の際は、年齢はあまり気にしなくても大丈夫だと思います。ただ、維持期から急性期へ、福祉施設から急性期への転職は狭き門なので難しいかもしれません。
私は、患者さんが退院した後の生活を支えたいと思ったことと、給料をもう少し上げたいと考え、2年で総合病院を退職し、通所リハビリの施設で働き、その次に40代で訪問リハビリへ転職しました。そのときに年齢について問われたことはなく、スムーズに転職できました。
在宅や介護福祉の現場は人手が足りないこともあり、年齢をあまり重視しないのかもしれません。
ちなみに、医療職になる前に一般企業での社会人経験があると興味を持たれたことがよくありました。
在宅分野の仕事は、なによりも利用者や家族との信頼構築が大切になります。そのため、医療職以外の人生経験があると信頼関係構築に長けていると思われる傾向があり、有利にはたらきました。
まとめ ~人に使われた経験が生きてくる~
30代で新しいキャリアに挑戦するのはとても勇気がいることです。私も最初は「本当に大丈夫なのか」「この道に進むのは遅いのではないのか」と迷いました。
専門学校の先生に、「30代だけど大丈夫だろうか」と相談したときに、「高卒で学校に入って21歳で就職するといきなり『先生』と呼ばれて勘違いしてしまうこともある。でも一度社会人になった人にはその心配がない。社会で人に使われた経験は本当に大切だから、頑張れ」と励まされました。
なお、親などから借りた学費は毎月2万円とボーナスで返済し、親を食事や旅行に連れていって出世払いをしました。健康面のアドバイスは今でもとても喜ばれています。
セラピストを選び、学び直し、30代半ばで理学療法士になった私ですが、今、理学療法士になって本当によかったと思っています。
ひがし(理学療法士)
理学療法士/フットケア指導士・呼吸療法認定士・介護支援専門員
34歳で一念発起し、社会人から理学療法士免許を取得。総合病院から通所リハビリ、訪問看護に勤務。呼吸療法やフットケアに力を入れ、在宅利用者に15年寄り添う。2022年より、ライター業へ従事、医療コラムなどを執筆している。趣味はフットケア、一人旅。
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