言語聴覚士(ST)が行う言語訓練のやり方|自宅でできるリハビリ内容も解説
公開日:2024.01.04
文:tokoshi(言語聴覚士)
脳血管障害といった疾患により「聞く・話す・読む・書く」いずれかに問題が生じた場合、言語を介するコミュニケーションに支障が出ることから言語訓練が必要となります。
「言語」の専門家である言語聴覚士は言語訓練を日常的に行う医療職種ですが、具体的にどのような訓練を行っているのでしょうか。
本記事では、現役言語聴覚士が、言語訓練のやり方や自宅でできる言語のリハビリについて解説します。
言語訓練が必要な疾患
言語訓練が必要となる疾患は「小児」と「成人」で異なり、それぞれ下記のような疾患がある場合は、言語訓練の対象となるケースがあります。
・成人の場合:脳血管障害(脳梗塞や脳出血)による後遺症となる失語症
上記疾患などにより言語に関する障害が生じた場合に、患者さんの疾患や課題に合わせた言語訓練が行われます。
なお、成人領域では「認知症」も、言語障害が生じるため言語訓練の対象になりますが、実際の現場では言語機能よりも認知機能を中心にリハビリを行うケースが多いでしょう。
言語訓練を実施するまでの流れ
言語訓練はすぐに実施されるわけではなく、訓練を実施する前に「評価」を行うのが一般的です。言語訓練を実施するまでの流れは下記のとおりです。
1. 初回評価(スクリーニングテスト)
2. 各疾患に適した言語評価
3. 評価結果から目標と訓練内容の設定
4. 言語訓練を実施
まずは、フリートークを交えながら初回評価を行います。初回評価では、脳機能全般の評価をするケースが多く、簡単な言語機能評価に加え、認知機能評価も行います。フリートークでは、ただ雑談をするのではなく、患者さんの会話に「歪み」や「言葉につまる様子」がないかなどを随時チェックしています。
続いて、疾患や初回評価から、患者さんに適した言語評価をしていきます。たとえば、脳の言語分野で損傷が見られ、フリートーク時に言葉が出てこなかったりジェスチャー表現が多かったりする場合は、失語症検査を実施することになります。
検査結果から、患者さんの短期・長期目標を設定し、目標を達成するために必要な言語訓練を考え、言語訓練を実施します。
具体的な言語訓練のやり方例
言語訓練は、患者さんの重症度によって、言語訓練の内容や難易度を調整する必要があります。本章では、中等度の失語症患者に対する具体的な言語訓練のやり方として2例を紹介します。
1.絵や文字カードを用いた訓練のやり方
「絵や文字カードを用いた訓練」では、言語の「理解・表出」を中心にアプローチをしていきます。絵や文字カードを用いて「理解・表出」の言語訓練を行いたい場合は、下記のやり方を参考にアプローチをしていきましょう。
【理解面】
1. 絵または文字カードを複数枚机におく
2. 言語聴覚士が読み上げたカードと合うものを選んでもらう
3. 患者さんが迷っている場合は、再度言語聴覚士が読み上げる
【表出面】
1. 言語聴覚士がカードに描かれた絵や文字を指す
2. 患者さんに指したカードに何が描かれているか口頭で答えてもらう
3. 患者さんが迷っている場合は、語頭音ヒント(りんごの場合は「り」)を提示する
「理解面」と「表出面」それぞれ1セットに対して、絵カードまたは文字カードを10枚程度用いて行えるとよいでしょう。
また、絵や文字カードの内容も、患者さんの改善度合いによって徐々に難易度を変えていきます。たとえば、訓練初期では高頻出度語(よく使う言葉)のカードを使用し、正答率が高くなってきたら低頻出度語(あまり使われない言葉)へ移行していくのが一般的です。
2.PACE訓練のやり方
PACE訓練(実用的コミュニケーション)は、日常的なコミュニケーションを円滑に行えることを目的としています。PACE訓練では言語以外にもジェスチャーや絵カードなどを活用しながら、「日常場面でよくあるケース」を想定してコミュニケーションを行います。
言語訓練として「PACE訓練」を行いたい場合は、下記のやり方を参考にアプローチをしていきましょう。
1. 患者さんは言語聴覚士に自分の訴えや気持ちを伝達する
2. 伝達する際は、言葉以外にジェスチャー、絵カードなどを用いても良い<
上記が難しい場合は、まず「コミュニケーションノート」を作成し、指差しで伝達してもらう形をとるやり方もおすすめです。以下のようなイラストを用いるとよいでしょう。
初めのうちは言語聴覚士とPACE訓練を行い、慣れてきたら看護師や他のリハビリ職種との会話場面でも活用するとよいでしょう。
患者さんは、なかなか言葉が出ずに落ち込んでしまうこともあるため「言語は情報伝達の1つ」であることを伝え、他の代替手段も用いながらコミュニケーションが行えるようにサポートしていくことが大切です。
自宅でできる3つの言語訓練
患者さんの退院を想定した際に、自宅でできる言語訓練として下記のような3つの方法があります。
1. コミュニケーションの機会を増やす
2. プリントを活用する
3. アプリを活用する
1.自宅内で家族や知人とコミュニケーションをとる
家族や知人とのコミュニケーションは立派な言語訓練となるため、積極的にコミュニケーションをとるように促しましょう。
前述した「PACE訓練」のような言語以外の方法も用いながらやりとりをすることで、実際の生活で活かしやすくなります。
2.プリントを活用する
失語症のリハビリ教材は市販で販売されています。そうしたツールがあることを患者さんやご家族へ共有できるとよいでしょう。
失語症用のリハビリ教材以外にも、小中学生用の漢字ドリルや習字用プリントなどを利用するのも言語訓練として効果的です。
3.言語訓練のアプリを活用する
言語訓練専用のアプリも登場しています。手軽に使えるツールとして自宅でのリハビリ時に活用する方法としておすすめしてみましょう。
操作方法に不安がある患者さんの場合には、リハビリ時にアプリを使用し、事前に慣れていただくと安心です。
患者さんに合った言語訓練でアプローチをしよう
言語訓練が必要となる人は疾患や年齢によってさまざまです。また、訓練内容も障害の度合いや患者さんそれぞれの目指す目標によって異なります。
「言語訓練」と聞くと、「言語に着目してアプローチしなければいけない」と考えがちですが、時には言語以外の手段も併用しながらコミュニケーションをとったり、提案したりすることも大切です。患者さん一人ひとりに寄り添いながら、その人に合う言語訓練を提供できるように考えてみてはいかがでしょうか。
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tokoshi
言語聴覚士
回復期で失語症と高次脳機能障害を中心としたリハビリ業務に携わる。その後転職し、看取り施設で「最期の食事」を言語聴覚士として支援。現在は訪問リハビリやデイサービスでリハビリをしながらライターとしても活動しています。
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