足から生活を見る〜理学療法士のフットケア視点と今すぐ役立つフットケア・ワンポイント解説
公開日:2024.01.03
文:ひがし(理学療法士)
日本は靴を脱いで生活する文化で裸足で過ごす機会も多いため、足は常日頃から刺激を受けています。また、日本の家屋は段差も多く、足を酷使する環境でもあります。
それなのに足のケアの優先度は低く、肥厚した爪、汚れた足、傷ができても放置されている足などを筆者は数多く見てきました。
セラピストならではの目線でフットケアができると、アプローチの仕方が増えてより多くの方のQOL向上に貢献できるはずです。
そこでこの記事では、足を見るのが大好きでフットケア指導士の資格を取得した筆者が、セラピストのフットケア視点と、すぐに役立つフットケア・ワンポイントを解説してみます。ぜひ参考にしてみてください。
目次
フットケアとは?
フットケアとは文字通り足のケアのことです。具体的には、足の観察と評価、爪切り、タコや魚の目の処置、足のマッサージ、足に合った靴の選定、運動指導などが含まれます。複数の分野の専門家がチームを組んで協力することが大切です。
日本ではまだまだ進んでいない分野
足のケアは日本ではまだまだ進んでいない分野で、足のケアに関する理解や専門家が少なく、特にセラピストでフットケアの知識を有する人は少数派です。
一方で米国では、Podiatrist(ポダイアトリスト)という足病医が存在し、足の健康管理に特化した専門家が多く活躍しています。日本でもフットケアに関する診療報酬も認められてきているので、今後日本でも、フットケアはますます注目される分野になっていくと思われます。
フットケアが大切な理由
なぜフットケアが大切なのでしょうか。筆者が考える理由は次の4つです。
1.靴を脱いで生活する文化
日本では屋内で靴を脱ぐ習慣があります。時には裸足になるため、足に傷をつくるリスクは高いです。フットケアは傷の早期発見や予防に役立ちます。
2.足を見せたがらない
特に高齢者は足を見せるのが恥ずかしいと隠す傾向があり、結果的に見逃され悪化する要因となることも筆者は経験してきました。そんな心理的な抵抗を解消する役割ができるのもフットケアです。
3.段差の多い家屋環境
高齢者が住んでいる家屋は段差が多く、足を酷使する生活です。フットケアで足から健康を守り、住み慣れた家で長く生活できるようにサポートすることができます。
4.糖尿病患者さんへの対応
糖尿病患者さんが足に傷をつくると、足潰瘍や壊死など深刻な事態になってしまうこともあります。そのため、近年増加傾向にある糖尿病患者さんのフットケアは欠かせません。
セラピストがフットケアをする意味
フットケアというと、看護師さんの爪切り、タコや魚の目の処置と思われている方が多いのではないでしょうか。しかし、フットケアは看護師さんの処置だけではありません。
フットケアの大きな目標は予防と早期治療です。セラピストが足の機能や構造を理解していることで、高齢者のQOLを高める貴重なアドバイスをすることが可能になります。
セラピスト視点のフットケアも大切
筆者は、実際に自宅で療養する利用者さんが足のトラブルを抱えているのを目の当たりにしてきました。特に高齢者は足の筋力や感覚も低下しているため動作が不安定となり、足に浮腫があっても傷ができていても放置したり、合わない靴を履いて痛みを抱えていても我慢したりする人が多くいます。
その結果、「ADL(日常生活動作)の低下→立てなくなる・歩けなくなる・気力が下がる→QOLが低下する」の流れができてしまいます。
こうした事態に陥らないようにするためにも、「フットケアで足を守り、いつまでも自分の足で歩けるようにすること」が、フットケアの目的といえるわけです。
筆者が利用者さんからよく聞いた切実な言葉に、「トイレぐらい自分で自由に行きたい」があります。この願いをかなえるためにもフットケアはとても大切になります。
セラピストは、動作の向上や維持のためにリハビリをすることが多いのですが、セラピストの視点から足を評価してケアできることは、生活の向上や人生を守ることにつながると思うのです。
セラピストによるフットケアのワンポイント
これからお伝えするフットケアの基本とワンポイントを実践すれば、立つ・歩く動作を維持・向上させることができ、QOLの向上を図ることができます。また、セラピストとして足に注目してリハビリをしてみると、今までとは違う視点で人を見ることができ、自分の得意分野として強みをもつことも可能です。
それでここからは、フットケアのワンポイントと注意点をいくつかご紹介します。
フットケアの基本は「観察・保湿」と「フットケア」
観察
フットケアの基本は、まずは足の観察になります。
まずは足を見せてもらいますが、筆者の経験として、靴下を脱いで足を見せてもらったら、相手との信頼関係の構築が割と早いように思いました。足を触ってもらうことは安心感につながるようです。
足を見せてもらったら、変形やタコや魚の目ができている位置、皮膚の色、爪の形・色、血流が足まで行き届いているかの確認、足の柔軟性や痛みがある場所など見ます。
よく遭遇したのは、爪切りに失敗して出血している場合です。傷から炎症が起こる場合もあり、糖尿病の方などは感染から壊死や切断に至ることもあるため注意が必要です。
観察が終わったら評価シートをつくり、可動域や足の特徴、痛み、感覚などを評価します。
清潔・保湿
観察のあとは、清潔・保湿です。清潔はフットケアの基本となるため、足浴をしたりシャボンラッピング(泡で洗う)を実施したりすると足の動きもよくなり気持ちも落ち着くため、その後のリハビリが進めやすくなります。
これらは看護師さんや医師、介護士とともに取り組むことが多いです。
フットケア(運動指導とフットウェア)
これらを基本にした上で、プラスとして、セラピスト視点でフットケアを行います。なかでも、運動の指導とフットウェア(靴下や靴、足底板など)が大切になってきます。
運動指導は、相手が毎日続けられるような簡単な運動を、その人の疾患や状態に合わせて指導していました。
靴下、足底版などは、足の形をよく見て、大きさ、材質、履きやすさなどを考えてアドバイスしていました。足底板は状態により痛みがあるところを保護したり、姿勢を矯正できるものを勧めたりしていました。
今すぐ実践できる、フットケア・ワンポイント
セラピストとして、私の実践してきたフットケアのワンポイントをお伝えします。
正しい爪の手入れと清潔な足の維持
爪切りは切りすぎないようにしましょう。多くの方が深爪にしているため、指と同じ高さにして端を切り落とさないように四角く切ります。
切りすぎて出血すると、血がサラサラになる薬を飲んでいる方の場合、びっくりするぐらい出血が止まらないため、その場合は、爪切りは医師か看護師に任せていました。
ヤスリがけをする
分厚い爪や変形した爪のほか、隣の指に当たって痛くて歩けないという方もいます。そんなときはヤスリがけがおすすめで、簡単かつ安全に爪を整えることができます。
筆者がおすすめのヤスリはガラス製です。長持ちしてへたらず、金属と違い錆びずに仕上がりも滑らかだからです。ただし、硬いところに落とすと割れてしまうため、クッション性の高い袋に入れるなど丁寧に扱う必要があります。
タコや魚の目の処置
タコや魚の目は、コーンカッター(カミソリのようなもの)やグラインダーという機械を使って処置します。ただ、出血を伴う医療的な処置なため、看護師や医師に任せていました。
この場合、セラピストでできることは指導です。職業柄や歩き方にクセによって、同じ箇所に刺激がかかることでタコや魚の目ができるため、その方のクセを見て、歩き方や靴を変えるように指導します。
セラピストが行うフットケアの注意点
フットケアを実施する際は、次の注意点を踏まえください。
1. マッサージや足浴が禁忌の場合もあるので注意する
心疾患など血管系の病気の場合は状態によってはマッサージを控えたほうがよく、悪性腫瘍の場合も状態によって禁忌となる場合があります。
2.フットケアで足に触れるときは、念のため手袋をして感染予防をする
3.爪切りをしていいか確認する
爪切りは、「爪そのものに異常がない」「爪の周囲の皮膚に化膿や炎症がない」「糖尿病など疾患に伴う専門的な管理が必要でない」場合は、医師・看護師以外でも爪切りはできます。
判断に迷うときは医師・看護師に相談してください。筆者は医師に確認をとり、病的でない爪の爪切りはしていました。
4. 無理せずにできるところから行い、難しいケアは他職種を頼る
5. 患者さんや利用者さんの話は否定せずよく聞く
例えば、爪を深爪にして傷をつくる方もいますが、「爪切りをよく頑張りましたね。次からは気をつけましょうか」といった声かけをするとよいと思います。
まとめ フットケアは「日常を守ること・命を守ること」
足の変形、タコや魚の目の位置、爪の形、皮膚の色──。足を観察するとその方の歴史や暮らしの重みを感じます。足はさまざまなことを教えてくれる大切な体の部位です。フットケアは歩行や立位の日常動作を守ることができるだけでなく、傷や異変の早期発見により命を守ることにもつながると実感しています。
またフットケアにより、リハビリがスムーズに進むことも多々ありました。筆者はフットケアを学んだことで、セラピストとしてリハビリの視点が増えて新たなアプローチが可能となり、人とは違った強みをもててやりがいともなりました。
これからますます需要の高まるフットケア。ぜひ足元を見てフットケアを実践してみてください。
ひがし(理学療法士)
理学療法士/フットケア指導士・呼吸療法認定士・介護支援専門員
34歳で一念発起し、社会人から理学療法士免許を取得。総合病院から通所リハビリ、訪問看護に勤務。呼吸療法やフットケアに力を入れ、在宅利用者に15年寄り添う。2022年より、ライター業へ従事、医療コラムなどを執筆している。趣味はフットケア、一人旅。
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