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こんな道もある! セラピストの仕事「エンパワーメントで高齢者の食・望む暮らしをサポート」

公開日:2024.02.26

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文:北原 南海

セラピストの仕事の一般的なイメージは、医療機関に勤め、ステップアップしていく形が多い。その一方で生活期のリハビリや、作業療法士は発達障害ほか精神障害の領域など、活躍の場が広がりつつある。そこで、「こんな道もある」をテーマに特徴的な業務についている人、仕事をしている人にインタビューを行った。

今回は言語聴覚士で医療法人社団永生会 在宅総合ケアセンター 副センター長である山本 徹さんに話を伺った。

今回インタビューした人

山本 徹(やまもと てつ)さん

山本 徹(やまもと てつ)さん

言語聴覚士、社会福祉士、精神保健福祉士。医療法人社団永生会在宅総合ケアセンター副センター長。法人本部広報連携・地域支援事業部の連携・委託事業推進室。八王子市リハビリテーション専門職協会理事、八王子言語聴覚士ネットワーク副代表。

上智大学文学部社会福祉学科2001年卒。知的障害者施設での勤務を経て、専門学校に入学し言語聴覚士を取得。2004年卒業後、永生会へ入職。2010年より法人内で在宅部門へ。以後、東京都八王子市福祉部高齢者いきいき課との連携の要役として、共同で、介護予防・日常生活支援総合事業の食・栄養やリハビリなどに関わる制度づくりや運営に携わっている。

編著書に、山本徹他編『言語聴覚士リスク管理ハンドブック―養成校では学べない臨床の知恵(ヒューマン・プレス)、共著に、『実践力を高める成人言語聴覚療法ハンドブック』
(建帛社)、『ST評価ポケット手帳』(ヒューマンプレス)、『地域言語聴覚療法学(標準言語聴覚障害学)』(医学書院)などがある。

趣味はランニング。職場の同僚と地元の駅伝大会にも出る。出張先で走るのも好き。例えば近年だと山形県鶴岡市、愛媛県松山市など。1人になる時間、考えごとをする。「病院はレスキュー支援、介護予防はエンパワーメントの支援」の話(後述)も走っている最中に考えついた。「やっぱりこれた!」と

社会福祉士から言語聴覚士取得へ

言語聴覚士、山本徹さんの所属は医療法人社団永生会。人口約58万人の東京都八王子市を拠点に、病院3、診療所4、老健3、介護医療院ほかの医療・介護施設で急性期から生活期まで医療・介護サービスを展開。PT、OT、ST合わせて300余名のリハビリ職を擁する法人だ。山本さんはそこで、永生会在宅総合ケアセンター副センター長として在宅部門をまとめるかたわら、臨床の現場でも従事する。

それに加え、対外的に従事していることがある。八王子市福祉部高齢者いきいき課との連携の要役として、共同で、介護予防・日常生活支援総合事業である地域リハビリテーション活動支援事業「食ナビ訪問」、訪問型サービスC「食楽訪問」、通所型サービスC「ハッピーチャレンジプログラム(通称ハチプロ)」などの制度づくりや運営を担っている。そこでの役割は市の介護予防サービスの制度設計への協力だけに留まらない。その運営やPDCA、市の担当部とのやりとり、多様な法人の多職種のとりまとめや養成、さらにはサービスと利用者とのマッチング、利用者個々へのサービス提供などにまで目を行き届かせる必要がある。

そうした役割を担ううえで、山本さんが最初は社会福祉士からスタートしていて、かつ精神保健福祉士の資格も持つことが役立ってる。山本さんはもともと、政治や経済への関心が強かったが、その中で特に社会福祉に関心を持ち、かつ現場からの発信に携わたいと思ったという。そんな経緯から、大学では社会福祉学科で学び社会福祉士を取得。卒業後もまずは知的障害者施設で働いた。そこでは言語障害の人も多く、コミュニケーションに難があった。でも、本人の意思表示が大切だと思った。そこで、言語聴覚士の資格取得は、コミュニケーション支援の専門性を身に付けたいと思った。

「5W1H」を継続可能なサービス提供に活かす

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<ブローイング訓練を援用した方法>
例えば、認知症の利用者では、ストローを口にくわえると水を飲んでしまうケースもある。そこで写真のように、60㎝程度の距離にある紙片をストローからの呼気で机から落とす、といったブローイング訓練を援用しての工夫した方法も考える。

永生会への入職後、最初は療養病床で認知症を持つ患者のコミュニケーション支援や嚥下訓練を担当した。

ある80代の女性。入院して急性期病院から療養病床に移ってきた。脳梗塞後遺症で身体マヒがあり、中等度の認知症もある。食事は、箸を付けてもしばらくすると「まずい」、と箸を止めてしまう。小食気味だった。ところがしばらくして、ごはんと梅干しは食べることに山本さんは気づいた。

話を聞くと、「家で漬けっぱなしの梅干しが気になる」。そこで「持ってきてもらったら食べますか?」と聞くと「食べる」。その患者の息子に梅干しを 持ってきてもらった。しばらくすると彼女は、「梅干しがなくなった後も、食事を食べる習慣を取り戻しました」(山本さん)。

認知症で、「いらない」という意思表示や、食べないという問題は多かった。その中で、ただ飲み込みだけではなく、「いらない」、食べない(食べられない)の原因を探ったり、生活歴も見る必要性もあると感じたと山本さんは話す。 入院入所している高齢者にとって、本来楽しみである食事が苦しい時間になってしまうのは、本人だけの問題ではなく食べたいものや食べたい環境が整っていないからであり、「嚥下障害への対応以前に食べたいと感じられる状況を作ることが療養病床では必要だと思っていました」と山本さん。

2010年からは在宅の仕事も開始。訪問すると、高次脳機能障害や精神疾患を持つ人も少なくなかった。在宅だと訪問の瞬間は、責任を持って対応するのは自分一人。山本さんは、体系立てて勉強することで幅広く対応可能になる必要を感じ、精神保健福祉士も取得した。ま た、摂食嚥下障害や食事に関する支援するうえで、「5W1H」の視点での問題整理も身に付けた(図1)。

「WHAT(何を)」「WHY(どんな目的で)」などの視点から利用者を取り巻く食事や生活状況、利用可能な社会資源などを整理する。在宅では様々な制約がある。その中で、本人や家族の負担を減らし、生活に沿った継続可能なリハビリ方法を実行すること、嚥下訓練を身体機能の改善だけでなく「あれができる」「あれに参加できる」といった生活上の課題の改善も目的として位置付けられるようにすることが目的だった。

例えば、脳梗塞後遺症で麻痺と嚥下障害が残り、ベッドで寝た状態で過ごすことの多かった男性のケース。娘夫婦と暮らしていたが、昼間は一人になることが多かった。その男性は、認知機能と身体状況からシャキア訓練※1が難しかったので、ヘルパーにも協力してもらい、訪問時に玄関から「こんにちは!」と声をかけ、利用者にも座った状態になってもらい「こんにちは」と返してもらうことを取り入れた。発生を伴う呼吸訓練で誤嚥性肺炎予防にもなり、身体の機能訓練にもなり、その後のサービス提供時の会話も合わせてヘルパーとの関係づくりにもなる。「『だんだんと声が大きくなってきていますよ』とほめるお声がけもヘルパーさんにお願いしていました」と山本さん。

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図1 在宅における食べることの状況評価 5W1H

「食ナビ訪問」「食楽訪問」で取り戻す能動的な気持ち

その頃、法人が受託する東京都の委託事業(南多摩地域リハビリテーション支援センター運営など)で、会合などに法人を代表する一人として参加することが増えた。事業では八王子市とも連携することがあり、それが介護予防・日常生活支援総合事業のサービス作りでの八王子市との連携の契機になった。山本さんは、食事・栄養やリハビリの事業構築に関する市からの協力要請で、高齢者いきいき課、事業者の管理栄養士やリハビリ職などで構成する制度設計のための定例会に関わり、利用者のモニタリングや成果を評価する指標の設定といった制度面の整備に中心的に携わった。八王子市福祉部高齢者いきいき課の主任、村田海さんは、「大切な役割を担っていただいています」と言う。

食・栄養に関して、山本さんはそれまでは、医療保険、介護保険を使ったより専門的な支援が必要な障害が重度化した人への対応が多かったが、総合事業では問題の早期発見・対応が大切になる。そのことも踏まえて市職員や他法人の専門職らと協力して作ったのが、訪問型サービスCの「食楽訪問」(2018年開始、19年度本格稼働)。途中でしくみの変更があり、現在では、まず食事・栄養面で課題のある高齢者に対し、ケアマネジャーとケースに応じてST、管理栄養士、歯科衛生士が訪問してアセスメント(地域リハビリテーション活動支援事業「食ナビ訪問」)。そのうえで、管理栄養士による訪問型サービスC「食楽訪問」(3カ月、5回程度)や、通所型など他のサービスにつないだりする。また、地域ケア会議などへの参加や、高齢者サロンへ出向いての講座や参加者の状態評価なども行う。これらの業務の一部を永生会でも受託運営している。

例えば、脳梗塞の経験があり、左半身に軽度の麻痺がある要支援の70代男性。妻を亡く し、食への関心を失って体重も運動量も減り、食ナビから食楽訪問利用に至ったケース。菓子パンですましてしまっていた食生活が、管理栄養士と一緒にスーパーへ行って買い物をするようになることで変わった。好きなものを聞かれて惣菜の選び方も教えてもらい、食への関心を取り戻し、良い状態を保とうと能動的に組合せも工夫するようになったという。

一方、地域包括支援センターからの依頼で食ナビ訪問をしたうえで、活動量を増やした り、間食も使って食事量を増やすなどの方法を伝え、特定のサービス利用ではなく生活上の工夫で様子を見ることを勧めるケースもある。1ヵ月約10件の対応があります」と山本さんは話す。

【「食ナビ」「食楽訪問」のイメージ】

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出典:八王子市福祉部高齢者いきいき課「八王子市 食ナビ訪問運用マニュアル」より。

ハッピーチャレンジプログラムとは、

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出典:八王子市のパンフレット「介護予防・日常生活支援 総合事業」(令和4年(2022年)7月発行)より。

みなが同じ方向を向けるためには旗印と評価指標の設定が大切

もう一つの通所型サービスC「ハッピーチャレンジプログラム」(通称ハチプロ)は、引きこもりがち、活動量が減りがちといった人に対し、リハビリ職が相談に乗り、生活上での目標や計画づくり、実行を支援する。評価ツールとして「食楽訪問」と同じ、ADLや生活、健康状態、自己効力感、うつ状態などの評価を一体化した市独自の「からだとくらしの確認シート」を作成。動機付け面接法、コーチングなどを活用し、本人が望むことや、どうすればそれができるか、「指導ではなく話し合うことで、ご自分で考えていただきます」。

リハビリ職が行う理由については、「生活の予後予測がしやすいです。またご提案 も、例えば『バスを使えば買い物へ行けますね。杖をもう少し軽いものに変えればバスに乗りやすくなりますよ』といった具合に、ADL、IADL拡大の方向でしやすくなります」。これを市内23カ所(2024年1月時点)で行っており、山本さん自身も八王子市石川事務所内などで実施している。「一時期は第二の職場が市役所になっていたぐらいの感じで、どちらも運用が整うまでの1年間は週に2、3回、通いました」と山本さんは話す。

制度設計の議論でも、実際のサービス提供でも「多職種多機関連携」になる。その制度の目的、目指す目標など、「みんなが同じ方向を向けるよう、旗印をしっかり立て、評価の指標もしっかりと決める必要があります」と山本さん。「医療の現場の人だと検査結果数値や身体機能が評価指標になりがちですが、介護予防であり、八王子市の総合事業の旗印が『リエイブルメント、セルフマネジメント、プロダクティブ・エイジング※2』なので、対象者の参加制約が緩和されり、コミュニケーションの状況が改善されたり、活動の幅が広がったりといったことを指標にすべきです。ただ、その点に納得してもらうのが大変で、研修やワークショップも数多く行いました。同じ言葉を使えるように」。そして、運営開始後は「食ナビ訪問・食楽訪問」も「ハチプロ」も、月に1回、事例検討会を続けている。

「制度設計の研修では、リエイブルメント、セルフマネジメント、プロダクティブ・エイジングを具体的な目の前にいる高齢者に当てはめると何か、といった話し合いもしました。それで、活動や参加が広がったといったことが大切、と再確認になるんです」。

活動が広がったかどうかは、本人の主観に加え、ケアマネジャーほか担当者たちの話し合いの中で合意が得られたら、それも評価になる。2018年開始の「食楽訪問」はそこからスタートし、その後の「ハチプロ」開始時に、短期集中予防サービスの評価を統一するため、先述の評価ツール「からだとくらしの確認シート」に改定した。

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著書。山本徹・清水宗平編『言語聴覚士リスク管理ハンドブック』(ヒューマンプレス)

介護予防で大切だと考えるエンパワーメントの支援

「利用者本人から話を聞くことが大切。どんな生活を望み、そのために何が必要か、ご自分で考えていただき、お話ししていただく。それが生活の変化につながります。その意味 で、病院がレスキューの支援なら、介護予防はエンパワーメントの支援だと思うんです。研修などでの説明でもそう言えるようになってきました」と山本さんは話す。「食ナビ、食楽訪問」の研修でも、自身の担当ケースについてある管理栄養士が「指導になってしまいました。考えていただくことが大切ですね」と言ってきてくれて、嬉しかったという。

2023年の第24回言語聴覚学会で、「言語聴覚士が居るまちづくり」をテーマに教育講演した。「講演にあたって法人の在宅支援を行うST5人に、地域の仕事をする中でやりがいなどについてインタビューしたのですが、みんな、周囲に利用者の困り事を説明でき、また利用者本人にも力をつけていただき、自分がいなくても動く状況を整えられときにやりがいを感じるという趣旨の話をしていました。私がこれまで話してきたことで、喜ばせようという気持ちもあったかもしれませんが、みんな納得しているんだと嬉しかったですね」。そして、このようなスタッフの変化や、サービスを通じての患者・利用者など、人が変わっていく場面に立ち会えることに、やりがいを感じると山本さんは話す。

在宅総合ケアセンターでこの1年、力を入れてきたのが意思決定支援。弁護士を呼んで研修したり、法人内での学術集会での同演題発表を支援したりもした。「医療、介護があくまでも暮らしをサポートするものだと位置づけたときに、その暮らしは本人の望む暮らし。それは本人にしかわからないから、意思決定を徹底的にサポートできるようになるのも高い専門性ではないかと思うんです」。生きていくこと、QOL向上のためには自分のことを自分で考え、決められることが大切。必要に応じてどんな生活を望んでいるかを引き出してサービスを提供したい。八王子市の施策づくりにも、そうした視点から関わっていきたいという。

住んでいるのは隣の日野市だが、八王子で働いて20年。医療業界だけでなく市や町内会などともつながりができ、仲間意識が増したと話す。「何かする際にも、顔見知りだったり気心が知れていたりして、良い意味で緊張しなくなりました」と山本さんは笑う。「八王子は地元愛が強い人が多いと感じますし、盛り上げたいと思います。責任をもってできる仕事を持てていると思いますし、専門職の方々が力を活かすチャンスでもあると思います」。

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南多摩地域リハビリテーション支援センター主催の地域フォーラムで、永生病院認定栄養ケア・ステーションのメンバーとともに参加し、食事・栄養面での支援について説明した際の一コマ。

[欄外注]
※1:床に仰向けに寝て足の指先が見える程度に頭を上げることで、舌骨上筋群などを強化して食道入口部の開きを大きくするなどの目的で行う。
※2:「リエイブルメント」はもともとはデンマーク発祥の福祉に関わる概念、プログラムで、「再びできるようにすること」。八王子市では介護予防のキーワードをリエイブルメント(自らの力で「望む生活」を再獲得するための専門職による伴走支援)、セルフマネジメント(暮らしと健康の自己管理を支える仕組みの構築・定着)、プロダクト・エイジング(活動的な日常生活を目指した多様な社会参加促進と地域資源の充実)と位置付けている(八王子市高齢者計画・第8期介護保険事業計画より)。

北原 南海(きたはら みなみ)
大学卒業後、出版社勤務を経てフリーの編集者兼ライターに。編集者としては教材や単行本など各種出版物の制作、ライターとしては介護施設・サービス、認知症や食事・栄養、リハビリに関する取り組み、外国人スタッフの採用・定着・定住に関することなどについて、新聞や雑誌などで取材・執筆に従事している。
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