療法士が患者さんの力と意欲を引き出す介助とは
~福辺流介助術
公開日:2019.09.06 更新日:2021.04.07
文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員
今回から数回にわけて、「福辺流介助術」の特徴をお伝えします。第1弾として、「力と意欲を引き出す介助」についてご説明します。
リハビリ・介護における「介助」の定義
ここまで詳しい説明をせずに「介助」という言葉を使ってきましたが、そもそも「介助」とは何でしょう。どのように定義されているのかご存じでしょうか。
実は、つい最近まで「介助」という言葉の定義付けは全くされていませんでした。しかし、概念のない言葉を使用する訳にはいかないため、12年前に出版した著書『福辺流 力のいらない介助術』では、「介助とは、寝返り、起き上がり、立ち上がり、移乗、歩行などの基本動作が難しくなっている人に対してサポートして、その行為や動作を遂行できるようにすること、とします」とことわって使用していました。
仕事をする上で困るのは、「介助」と「介護」がよく混同されることです。
私は理学療法士として、理学療法の仕事を効率化するために(もちろん、そのためだけではありませんが)介助法を普及させようとしています。
私自身は「介護」の仕事はしたことがないので「介護」の指導はできませんが、介護の仕事の中に「介助」は含まれています。セラピストの仕事の中にも「介助」は含まれますし、看護の仕事の中にも「介助」は含まれます。他の医療や福祉関係の仕事の中にも「介助」は含まれています。
これだけ高齢社会になると、交通機関や行政、スーパーなどのサービス業でも「介助」は必須になり、一般の人もいつ何時「介助」をする必要が生じるかわかりません。すべての人が「介助」をする可能性があるのです。
問題なのは、そのときにどんな介助をするか、です。
療法士が行える「力と意欲を引き出す介助」の特徴
以下の7つが「福辺流介助術」の特徴です。
1. 被介助者の力を引き出す介助である。
2. すべての対象者に使える。
3. すべての介助者が使える。
4. 介助によって機能を維持することが可能である。
5. 被介助者の意欲や認知能力を維持することができる。
6. 介助者の仕事に対する意欲とプライドを引き出す。
7. リハビリテーションの考え方、技術を基本としている。
これらは福辺流介助術をさまざまな側面から見たときの見え方なので、一つひとつが独立したものではなく、互いに関連しあっています。
対象者の能力すべてを引き出す介助
一つ目の特徴は、この介助術の基本テーマです。
当然のことですが、対象者の持つ力とは筋力や運動能力だけを指すものではなく、対象者の持つ能力すべてを意味します。感覚・知覚・精神・意識・記憶・認知・思考・感情・コミュニケーション能力などの体性神経系の能力だけでなく、自律神経系の能力も含むのです。また、自覚できる能力だけでなく、自覚できない能力も対象となります。
このことは、「2.すべての対象者に使える」の裏づけにもなっています。
例えば、言語の通じない認知症の対象者でも、能力がほぼないように見える寝たきりや植物状態の対象者でも、その人が生きている限り必ず現存の能力はあるはずなので、その能力に働きかけて介助ができるということです。
また、介助によって引き出されるのは運動能力だけではなく、上にあげたさまざまな能力も同じように引き出されていきます。
例えば、寝返りや起き上がりの介助の成果は、これらの動作が上手になるだけではありません。ほとんどの被介助者の場合、寝返りや起き上がりをできるだけご自分でしていただけるように介助するだけで、筋の緊張が整い、関節可動域も広がり、抗重力伸展の働きもアップします。
また、介助した後の臥位姿勢は四肢の緊張が緩み、ゆったりと寝られるようになります。坐位バランスが向上し、それによって上肢機能も向上しますので、更衣動作・摂食動作・整容動作の向上は当然といえます。
寝返りからの車椅子移乗だけで食事介助がいらなくなった患者さん
寝返りから車椅子への移乗の介助を行っただけで、食事介助が必要だったアルツハイマーの被介助者が、何の指導もなしに、いきなりお箸で夕食を完食されて驚いた経験があります。
また、表情が豊かになって笑顔が多くなったり、声や言葉が出るようになることも少なくありません。ご自身が動きを出せるということは、心臓や肺、末梢血管にも影響を与えるということなのです。体軸内回旋を利用した寝返りを丁寧に行い、少し細かい肋間や脊柱のモビライゼーションを施行するだけで肺や呼吸器の働きは変わります。
以前、いつもは2~3時間で吸引が必要になり睡眠が中断されるというALSの患者さんに、寝返りを丁寧にする介助を行ったところ、私の訪問リハの日は朝までグッスリ眠ることができるとのことでした。
浮腫が強く、疼痛があり、内出血や滲出液が見られるような被介助者にも、まずは寝返りなどで動いていただくことから始めます。直接には触れることのできない場合にも有効です。癌性の強い疼痛は、病気自体が引き起こす痛みもありますが、動かないことによる痛みの場合もあります。
どのケースでも的確なアセスメントが必要とされますが、ポジショニングやシーティング、丁寧な介助による動きの拡大など、ターミナル期の対象者にもセラピストができることの可能性はもっと大きいと思います。
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