【特養のリハビリ】介護施設で療法士に求められる生活支援とは?
公開日:2021.01.26 更新日:2021.07.19
文:田口 昇平
作業療法士/福祉住環境コーディネーター2級
これから特養(特別養護老人ホーム)で働きたいと考える理学療法士・作業療法士のなかには、「現場でどのような役割を求められているのかわからない」という方も多いのではないでしょうか。
特養では医療機関や老人保健施設とは、リハビリの方法や目的が異なります。特養ならではの役割やリハビリの方向性を理解しておかないと、入所者さんの生活をしっかり支援するのは難しいでしょう。
筆者はこれまで作業療法士として特養でリハビリをおこないながら、入所者さんの生活をサポートしてきました。この経験を活かし、特養における理学療法士・作業療法士に求められる役割を紹介するとともに、入所者さんの生活を支援する視点や方法についてお伝えします。
特養で働く療法士が求められる4つの役割
特養の理学療法士・作業療法士に求められる役割は、おもに次の4つです。
2.集団リハビリ
3.介護士への介助方法の指導
4.入所者さんの環境調整
さっそく一つひとつを詳しく解説していきましょう。
1.個別リハビリを通して入所さんの生活をサポートする
特養では理学療法士・作業療法士が直接訓練できる時間が限られます。なぜならひとりの療法士が数十名のリハビリを担当する特養では、一人ひとりに対して個別リハビリを提供できる時間が少ないからです。
しかし、個別リハビリは入所者さんの心身機能や生活動作を評価する貴重な機会。とくに特養の入所者さんは、病気・ケガの後遺症や加齢による拘縮・体力低下を起こしており、日常生活動作(以下、ADL)において介助を要する方がほとんどです。
そのため個別リハビリでは、入所者さんの機能訓練やADL訓練を通して、入所者さんの生活をサポートするのが療法士の役割となります。
《訓練の例》
・関節可動域訓練や筋力訓練で身体機能の維持・向上をはかる
・歩行や排泄などのADL訓練をおこなう
個別リハビリを行う際は入所者さんの身体の状態やニーズを把握し、優先度を考えながらサービスを提供することが大切です。
2.集団リハビリにおけるプログラムの考案・提供
集団リハビリにて「入所者さんそれぞれが積極的に取り組めるプログラム」を考案・提供するのも、療法士の役割の一つです。参加者それぞれの心身機能や活動能力を確認しながら進めましょう。
集団リハビリでは複数名の入所者さんでグループをつくり、さまざまなレクリエーションをおこないます。レクリエーションの内容は規模や目的によって変わりますが、棒体操やラジオ体操・嚥下体操といった気軽に参加でき、運動機会もつくりやすいものを実施することが多いです。
また、特養では季節のイベントをおこなうことが多いため、そこで使用する飾りを作るといった内容がレクリエーションになることもよくあります。
例えば、うちわを作って夏祭り会場に飾ったり、クリスマスにはツリーの飾りを作ったりなど。自身の作品を見た入所者さんが達成感を得られるほか、イベントに参加したご家族から喜ばれることもあります。
こうしたレクリエーションは、入所者さんの運動機能の維持や活動性の向上に非常に役立つリハビリです。
3.介護士への介助方法の指導
特養では「介護士に向けて適切な介助方法を指導すること」も大切な役割です。その理由は、特養では療法士以外に入所者さんの心身機能やADL能力の状態を評価・支援できる職種が少なく、介護士にとっては専門的なことを相談する相手がいない状況にあるからです。
例えば、介護士が介助方法に悩む代表的なもののひとつに「歩行介助」があります。歩行の介助方法がわからない場合、介護士は入所者さんを転倒させまいと本人の能力に関わらず、車いすでの移動を選択する傾向があります。
しかし入所者さんが自力で歩く機会が減ると、本人の心身機能やADL能力の低下を招く可能性もあるでしょう。その点、理学療法士・作業療法士が安全な介助方法をアドバイスできれば、介護士も安心して介助でき、入所者さんの活動機会も増やすことができるのです。
4.入所者さんの環境調整
入所者さんが生活しやすいように、福祉用具や住環境を調整するのも大きな役割です。特養では多くの方が施設の備品を使用しますが、提供している福祉用具や住環境が入所者さんの体に合わないケースも多くあります。
例えば、車いすやベッドは入所者さんの身体状況に合わせて、適切な大きさや高さ・形・硬度・厚みなどを選ぶ作業が必要です。入所者さんの体に合わないものを使い続ければ、褥瘡のリスクが高まったり、使いづらさからご本人の活動意欲を下げてしまったりする可能性があります。
入居者さんにとって安全で動きやすい環境を整えるためにも、理学療法士・作業療法士のスキルを生かし、個々にあった環境調整を行うことも大切な仕事です。
リハビリを通じて入所者さんの社会参加を促す
病院や老人保健施設と違い、特養の入所者さんの多くは生涯にわたって施設で生活されることになります。そのため特養のリハビリでは、「入所者さんが社会参加できるような場を作りだす」という視点が欠かせません。
特養の入所者さんは、意図的に他者と関わる機会を作らない限り孤独な生活に陥りがちです。孤独感から日常生活に楽しみがなくなったり、生きがいが失われたりするように感じる方もいます。
リハビリを通じて他者との交流機会を増やし入所者さんの社会参加を促すのも、理学療法士・作業療法士にとっては生活支援の一部です。
例えば、一日中自室にこもって生活する方がいれば、同じフロアの入所者さんとグループをつくり少人数で作品づくりをおこなうように促すことができます。また集団リハビリでは、司会者を担当してもらうなどの役割を与えることで、社会参加を促す機会を提供できます。
他者との交流機会や役割を提供することが、入所者さんがいきいきとした日常生活を過ごすための支援につながるのです。
特養の療法士として、入所者さんが暮らしやすい環境をつくろう
特養の理学療法士・作業療法士は、リハビリを通じて入所者さんの社会参加を促すという大切な役割があります。入所者さんの心身機能やADL能力の維持・向上はもちろん必要ですが、そうした活動を社会参加に結びつけることができなければ、入所者さんが生活を楽しんだり生きがいを感じたりすることは難しいでしょう。
また入所者さんの社会参加を促すには、介護士との連携や環境調整も大切です。
理学療法士・作業療法士としてリハビリをおこないながら、特養の入所者さんが暮らしやすい環境づくりを進めていきましょう。
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