認知症ケア専門士を取得するメリットとは?有資格者の現役作業療法士が詳しく解説
公開日:2022.04.15
文:大西 織帆
(作業療法士、認知症ケア専門士、認定作業療法士)
私は作業療法士の資格を取得してから13年が経とうとしています。おそらく多くの方がどこかのタイミングで、作業療法士としての「専門性」について悩むのではないでしょうか?
私は急性期のリハビリに興味をもったことから急性期病院に就職し、入職当時は「とにかく多くの疾患を経験しよう」と夢中でした。そしていろいろな分野の勉強会にも参加していましたが、広くて浅い知識を得ただけだったため得意分野はなく、就職して2~3年目で「専門領域」の必要性を考え始めました。
そして「認知症ケア専門士」の資格を取得したことで、認知症の方への対応が大きく変わり、自信ももてるようになりました。
認知症ケア専門士の資格取得はややハードルが高いのですが、取得すれば間違いなくそのメリットを感じることができるはずです。この記事では、認知症ケア専門士という資格の魅力と資格取得のメリットについて紹介したいと思います。
目次
認知症ケア専門士とはどんな資格か?
認知症ケア専門士は民間資格であり、2005年に設立された「一般社団法人日本認知症ケア学会」が認定を行う資格です。
認知症ケア専門士認定試験の公式サイトでは、この資格制度について次のように記載されています。
引用:認知症ケア専門士認定試験公式サイトより
文字通り、「認知症ケアについて高度な知識と技術をもった人材を育成すること」を目的にした資格なのです。
認知症ケア専門士になろうと思ったきっかけ
私が認知症ケア専門士の資格を取得しようと思ったきっかけは、認知症の患者さんへの対応に戸惑うことが多かったためです。当時、とくに悩んでいたのは認知症の患者さんへのリハビリの内容や対応についてでした。
ある患者さんと一緒に歩行訓練を実施しているとき、途中から患者さんの帰宅願望が強くなり、リハビリ中に認知症の周辺症状を誘発させてしまったことがありました。
その際は患者さんを無理やりベッドへ連れて行ってリハビリを終了し、結果的に介入前よりも興奮させた状態にさせてしまったため、病棟でのケアの負担を増やしてしまいました。リハビリを行ったことがプラスとならず、逆に認知症の周辺症状を誘発させてしまったのです。
世間で認知症が注目されているにもかかわらず、医療職でありながら、どんな対応をしていいのかわからない。これではよくないと考え、認知症の患者さんの対応の仕方を調べていたところ、「認知症ケア専門士」という資格を見つけました。
認知症ケア専門士の資格取得のメリット
私は資格を取得したことで「リハビリ時の対応やプログラム内容」に自信がもてるようになりました。過去のエピソードをひとつ紹介します。
認知症ケアの知識がなかったら、そのリハビリ内容が果たして本当に意味あるものなのか自信がなかったと思います。認知症ケアの勉強をしたことで「患者さんの心情を否定せずに寄り添って対応することが重要」だと知ることができました。
こうしたことが今も作業療法士の仕事に役立っており、認知症ケア専門士として資格を取得したことの大きなメリットだと思います。
残念ながら私の場合、資格取得と給料アップは直接的にはつながっていませんが、今後注目される領域であり、認知症の患者さんに対して適切に対応するためにも、資格を取得して損をすることはないと思います。
なお、認知症ケア専門士は加算の算定要件には含まれておりませんが、認知症専門ケア加算の配置要件にある「認知症介護指導者」のなかには、認知症ケア専門士を取得している方もいます。
認知症ケア専門士の資格を取得するには?
受験資格は試験実施年の3月31日より過去10年間で、認知症ケアに関する施設、団体機関などで3年以上の認知症ケアの実務経験を有する者です。
試験は年1回あり、第一次認定試験はWEB上で、4分野・各50問の問題をマーク式で行い、各分野70%以上の正答率を有することが合格条件となります。第二次認定試験は事例問題(3題)の論述試験になります。
第二次認定試験の合格後、登録申請(倫理研修)を受けた後に資格取得となります。ちなみに倫理研修では、認知症ケアにおける行動規範などを学びます。
私は訪問リハビリに所属していた時期に、空き時間などを利用して勉強をしていました。暗記は得意ではなかったので、繰り返しテキストを読み、内容の理解を深めるようにしました。ほかには、日本認知症ケア学会主催の受験対策講座を受講し、後は過去問題の問題集を繰り返し解くといった勉強法も行っていました。
もともと学校で学んだ内容も多かったため、「作業療法士の国家試験ほどは大変じゃなかったな」というのが正直な感想です。
認知症ケア専門士の難易度は?合格率は50%前後とそれなりに難しい
2020年の認知症ケア専門士の合格率は56.5%でした。過去の試験においても合格率は50%前後が多くそれなりに難易度は高いといえますが、テキスト通りの勉強を行えば正答できる内容だと思います。
ただ4分野あるため、覚える項目はそれなりに多いです。とくに私が難しいと感じたのは、作業療法士の学校では習わなかった、倫理や社会資源についてでした。初めて知る内容が多く大変でしたが、臨床の場でも知っておくと役に立つ内容が多かったです。
認知症ケア専門士が活躍できる場は?高齢者のいる施設ならどこでも
高齢化が進んでいる日本では、認知症と診断を受けていなくても認知症ではないかと悩んでいる家族は多くいます。
認知症ケア専門士資格保有者の職業で多いのは、介護福祉士、介護支援専門員で、居宅介護支援事業所や介護保険領域の施設に所属している方が多いようです。
しかし私が経験しているように、医療機関や病院で加療中であっても、認知症のケアは必要とされます。また、医療・福祉施設だけにとどまらず、高齢者とかかわりのある現場であればどこでも活躍でき、必要とされる資格だと思います。
認知症ケア専門士を取得して感じたこと
ケアする側が、困ったり悩んだりした表情ではなく笑顔でいられることは、対象者にも安心感を与えます。また、資格取得後も日本認知症ケア学会主催の地域大会や研修に参加することで、認知症に携わっている他施設での取り組みを学ぶことができ、認知症ケアの最前線の情報を得ることができます。
一方で資格取得の注意点としては、やはりそれなりの勉強時間が必要なことです。そのため、自身のライフ・ワーク・バランスを考えながら、受験のタイミングを考えることをおすすめします。ただし認知症に興味がある方であれば、認知症ケア専門士を取得するための勉強はさほど大変ではないようにも思えます。
ちなみに私は、資格取得後、結婚・出産が続き、今思えばそのときでないと資格は取得できなかったと思います。興味があればぜひ資格取得にチャレンジしてみてください。
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参考

大西 織帆
作業療法士、認知症ケア専門士、認定作業療法士
育成校卒業後、急性期病院に入職。認知症ケア専門士取得後も二度の育休を得て、現在も認知症ケアを必要とする急性期作業療法に従事している。休日は子どもと工作や運動をしたり、子育てをしたりしながら、学会発表や研修参加にも取り組んでいる。
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