男性セラピスト視点のワークライフバランス
公開日:2022.06.06
文:鎌田康司(作業療法士)
皆さんは、リハビリテーションの対象となる人や職場の人、友人、家族などに対して、「何回言っても変わってくれない」「自分は一生懸命やってるのに」と嘆いたことはないでしょうか。その人に変わって欲しいという思いが強いほど、思い通りにいかないときには、その反動としてネガティブな感情を抱いてしまうこともあるでしょう。
今回はそんなときに実践して欲しい、「あの人は変わってくれないと嘆く前に、自分が変わることで相手も変わる方法」について、筆者が実践して実際に効果のあったものを4つご紹介したいと思います。
目次
その①リフレーミング 短所と長所は表裏一体
リフレーミングとは、「物ごとを捉える際の枠組み(フレーム:frame)を変えることで、別の視点を持つ(リフレーム:re-frame)」という心理学の用語の1つです。
短所や欠点、マイナスだと捉えていたことも、別の見方をすると長所や利点、プラスの見方ができるという考え方です。
例えば、コップにビールが半分入っているときに、
もう半分しかない
まだ半分ある
のどちらで捉えるかで、残っているビールの量は同じでも、感じ方は変わってきます。
同じように、次のことも別の見方ができます。
頑固 ↔ 意志が強い、芯が強い
優柔不断 ↔ 慎重、思慮深い
心配性 ↔ 細かいことに気付ける
このように、捉え方を変えると、マイナスだったものがプラス、もしくはプラスマイナスゼロに変えることができます。
人はうまくいかないときほど、マイナスなことに目がいきがちなものです。事実は変わらなくても自分の意味づけを変えることで、見方を変え、相手に対する見方が変わることで今までと違った関わりや接し方ができます。
このように、リフレーミングを行うことで、自分の思考や感情に変化をもたらすことが可能です。
ただし、リフレーミングには経験やコツが必要となるため、初めは1人で行わずに、数人で行うのもよいと思います。複数の目が入ることで、短所だと思っていたことが長所になり、その人の違う一面を感じて、行き詰まりや壁を乗り越えることができるかもしれません。
リフレーミングの入門には、「短所を長所に変えタイヤキ」というボードゲームがおすすめです。これは、タイヤキの形をしたカードの表に短所が書かれており、それをひっくり返すと裏にリフレーミングされた長所が書いてあるものです。
ゲームルールの解説はここでは割愛しますが、リフレーミングの導入としてはとてもわかりやすく、おもしろい内容となっているので、同僚や家族、友人と行ってみるのもよいと思います。
その②ストレングスモデル 得意なことに着目して活かす!
ストレングスとは、日本語で「強さ・強み」を意味し、ストレングスモデルとは、その人の強みや長所(=ストレングス)を活かして関わることです。
人間誰しも得意・不得意、好き・嫌い、やりたい・やりたくない、などがあり、100人いたら100通りあるかもしれません。
しかしそのなかでも、「得意、好き、やりたいこと」などのストレングスを活かすことで、もともと前に向いていた矢印が大きく伸びることで、より前に進むことができます。
しかし、できることが何でもストレングスになるかというと、そうではありません。
例えば、とても上手にピアノを弾くことができる人がいても、幼少期に親から無理やり稽古に行かされた経緯から、ピアノ自体が本人にとってつらい過去を想起させてしまうものであれば、むしろ配慮が必要になるかもしれません。
ストレングスには個人のストレングス以外にも、環境のストレングスもあります。本人の周りの人や状況など、環境にも目を向け、本人のこれからの生活にとってストレングスと成り得るものを知ることがとても大切です。
その③アイメッセージとユーメッセージ 伝え方が変わると、受け取り方も変わる
I(アイ)メッセージとは、主語が必ず「私は」から始まる形で相手に伝えるメッセージのことです。
これに対して、YOU(ユー)メッセージとは、主語が必ず「あなたは」から始まるメッセージです。
例えば「(あなたは)なんでやらないの? 何回も言わせないで」というYOUメッセージを、Iメッセージで伝えると、「(私は)あなたにやってほしい。何度も言うことがつらいよ」となります。
YOUメッセージでは、「あなたは」が主語となるため、非難や否定、指示の意味合いが強くなってしまいがちですが、Iメッセージに変換すると、「私は」が主語となることでネガティブな意味合いが弱まり、自分の気持ちが素直に伝わりやすくなります。
皆さんだったらどちらの伝え方のほうが、言われたときに受け止めやすいでしょうか。感情的になってしまっているときほど、YOUメッセージで伝えてしまいがちですが、Iメッセージで自分の気持ちを伝えることで、お互いの考えや思いを伝え合い、一緒に解決策を見つける会話が可能となるでしょう。
その④ABA(応用行動分析) 望ましい行動を増やし、不適切な行動を減らす
最後は、ABA(応用行動分析)の考え方や方法についてご紹介します。
ABAとは、主に発達障害の療育などの分野で取り入れられている、アメリカの心理学者スキナーの行動分析の理論に基づいたものです。その考え方や関わり方は、療育の現場だけでなく、教育やスポーツ、リハビリテーションなどでも活用されています。
ABAは行動に着目し分析を行いますが、特に行動が起こる前の「きっかけ」と、行動したことで得られる「結果」に着目し、それらにアプローチをすることで、望ましい行動を増やし、不適切な行動を減らすことを図っていきます。
望ましい行動を増やすための方法は、
①行動を起こすための「きっかけ」を提示すること
②行動の「結果」にいいことを提示すること
です。
例えば、母親に「食べ終わったお皿を下げて」と声をかけられ、子どもが「お皿を下げる」と、母親に「ありがとう。えらいね」と褒められたとき、母親の声かけが「きっかけ」となり、子どもがお皿を下げる「行動」を引き起こし、褒められるという「結果」を得ることにつながります。
このような3つの要素に沿った行動の分析を、「ABC分析」といいます。
子どもにとって褒められたこと(=行動の“結果”)がうれしいと感じれば、この子どもは翌日もお皿を下げることができるかもしれません。行動の結果として得られるいいこと(この場合は母親に褒められたこと)を「強化子」といい、ほかにもご褒美がもらえる、楽しい経験ができるなどが挙げられます。
また強化子によって、行動の回数が増える現象を「強化」といいます。
望ましい行動を強化するためには、その相手にとって適切な「きっかけ」を探すことと、相手が行動してよかったと思える「結果=いいこと」をチョイスすることがポイントです。
また、いいことは時間が経てば経つほど新鮮味がなくなり、強化につながりづらくなりますので、できるだけその場で提示することを心がけましょう。ご褒美として何かを買ってもらえるなどの「いいこと」は、その場の本人の満足度は高いのですが、次第に満足度が下がったり、継続できなくなりがちです。
そのため褒め方も、「偉かったね!」だけでなく「〇〇ができて偉かったね!」と具体的に褒める方法や、言葉だけでなく表情、頭をなでる、抱きしめるなどの方法もあります。ぜひ、さまざまなバリエーションの褒め方を使って望ましい行動を増やしてあげましょう。
不適切な行動を減らすための基本とは
不適切な行動を減らすための基本として大切なのは、
①行動の「きっかけ」をなくすことと
②行動の「結果」にいいことをなくす(=消去という)こと
です。
例えば、お母さんと子どもがスーパーに買い物に行き、「子どもがおもちゃ売り場に行く」と、欲しいおもちゃを買って欲しいと母親に「泣いてねだり」、それを見かねた母親がその「おもちゃを購入してあげた」場合、子どもがおもちゃ売り場に行ったことがきっかけで、泣いてねだる行動を取り、おもちゃを購入してあげるという結果になります。
これでは、子どもの「泣いてねだる」という行動を強化してしまうことになり、泣けば買ってもらえると学習することになります。それを防ぐための1つ目のポイントは、「子どもがおもちゃ売り場に行く」というきっかけをなくすことです。
おもちゃ売り場のないスーパーに行く、おもちゃ売り場に1人で行ってしまわないようにするなどが挙げられます。
また、お店に入る前に事前に、「泣いてねだっても買わないよ」「泣いてしまったらお店から出ようね」などを子どもに伝えておくことも有効です。
2つ目のポイントは、子どもが泣いてねだってきても購入しないことです。これを「消去」といいます。望ましくない行動を取ったときには、その結果として「消去」を繰り返していくことで、子どもはその行動を取っても思い通りにならないことを学習し、行動の頻度が減少します。
心情に流されず、一貫した対応を継続することが重要となります。
ワークライフバランスに欠かせない心の余裕
今回は、「あの人は変わってくれないと嘆く前に、自分が変わることで相手も変わる方法」として、4つの考え方や技法についてご紹介しました。人と関わる仕事に携わっている以上、人間関係でのストレスはついて回りますが、考え方や捉え方を変えてみることで気持ちが整理され、心に余裕を持てることは、ワークライフバランスを保つうえで大切なことです。
また、自分の変化がきっかけで、相手に対する接し方や態度に少し変化が生まれ、結果的に相手の変化につながることも期待できます。ただし、そのような原因を1人で抱えてしまう必要はありません。
人には相性もあり、いくら努力しても難しいこともあります。できそうなことから1つずつでも始めてみてもよいかもしれません。
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鎌田 康司
得意分野は精神科、高齢者、訪問看護、障害福祉サービス、施設マネジメント、地域ケア。
介護老人保健施設で勤務後、精神科単科の病院で院内作業療法を経験。患者さんの実生活を知るため、地域の訪問看護ステーションに転職。今は生活訓練という障害福祉サービスの管理者として、精神障害や発達障害、知的障害の方たちの地域生活のサポートをしている。3人の子どもがおり、子育てと家事にも奮闘中。
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