「神経症性食欲不振症」の作業療法のポイント
公開日:2023.07.26
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
「神経症性食欲不振症」の作業療法
過度なやせ願望や肥満体型に対する恐怖心を発端とした食行動の異常により、生命を脅かすほど著しく痩せてしまう神経性食欲不振症。10代〜20代の女性に多くみられる摂食障害のひとつですが、ごく稀に30代〜40代にも発症します。
神経症性食欲不振症を患う方に対する作業療法では、対象者自身が治療とリハビリテーションが必要であるとの認識をもち、対象者とセラピストとの治療的関係を明確に保つことが重視されます。共感的・受容的態度で接するだけではなく、良い行動を認め、問題となる行動や考え方を対象者自身が少しずつ修正できるようアプローチすることが求めらます。
回復に時間がかかりやすいうえに、他の精神疾患を合併したり、社会生活における二次的な問題を抱えたりするケースが少なくないため、再発の可能性を加味しながら対象者の健康状態全般の回復やそれぞれのライフステージにおける課題を年単位の時間をかけて見守る姿勢が大切です。
作業療法士国家試験では、神経症性食欲不振症のケースに対する作業療法について、以下のような問題が出題されています。
参考:若年層に多くみられる摂食障害に関する作業療法士の国家試験出題
《問題》16歳の女子。神経症性食欲不振症に対する導入期の作業療法で最も適切なプログラムはどれか。
【作業療法士】第57回 午前 18
16歳の女子。高校進学後から体型を笑われたように思い、極端な減量をして痩せが目立つようになった。2か月前から登校できなくなって入院治療を受けることになった。入院後、気分転換と早期の復学を目的とした作業療法が処方された。この患者に対する導入期の作業療法で最も適切なプログラムはどれか。
- 1. 簡単なアクセサリーを作る創作活動プログラム
- 2. 柔軟な思考を得るための小集団でのプログラム
- 3. 体力増強のための機器を用いた運動プログラム
- 4. 調理メニューのカロリー計算を行う教育的プログラム
- 5. 退院後の生活のためのADLを中心とした退院準備プログラム
解答と解説
正解:1
神経症性食欲不振症の導入期における作業療法は、対象者の自尊心を高め感情をコントロールする力を育む土台づくりを意識しておこなわれます。問題文中のケースでは、選択肢1のような複雑な工程を伴わない難易度の低い作業を、個別の安心できる環境でスタートするのが適切でしょう。
他患者との関わりのなかで自分の体型を意識してしまうかもしれない小集団で行う活動(選択肢2)、体重減少への思いを助長させる恐れのある機器を用いた運動(選択肢3)、食べ物に関する活動(選択肢4)は、導入期に行う活動として不適切です。また、退院後の生活に必要なADLの訓練(選択肢5)は、主治医が提示する退院の目安(体重や食生活の様子など)に近づき、対象者自身が主体的かつ前向きに退院後の生活をイメージできるようになってから行います。
実務での活かし方~神経症製食欲不振症への介入ポイント~
作業療法では、作業活動をとおし「食」や「体型」といった問題と程よく距離を置きながら、対象者の食行動の問題に関わることがでることができます。作業療法の導入期では、再びストレスとなってしまうような体験を避け、対象者の不安や無力感を塗り替えるような楽しい時間を提供することが重視されます。
また、近年は神経症性食欲不振症が発症する背景が多様化していると言われています。家族や学校、仕事、対人関係にまつわるトラブルやストレスだけではなく、広汎性発達障害の特性にみられる対人関係の持ちづらさ、食事や体型への強いこだわりなどが精神的な混乱を引き起こし発症に至るケースも少なくないかもしれないとの報告もあります。
再発率の高い疾患であるだけに、発症の経緯だけではなく、対象者の健康状態全体をより丁寧に把握しようとする取り組みが肝要です。
■出典・参照
摂食障害と自閉性スペクトラムの関連に関する検討
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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