言語聴覚療法における予後予測について
公開日:2023.08.29
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
本記事の概要
今回取り上げる過去問のテーマは、言語聴覚療法における予後予測についてです。日常の言語聴覚士の臨床では、予後について他職種から意見を求められることや、リハビリテーションの終了時期をどのようにとらえるかなど悩みが多いのではないでしょうか。
そこで今回は、言語聴覚療法における予後予測ついてどのように考えていけばよいか解説します。
《問題》機能障害の予後予測において直接的に関与しないのはどれか
【言語聴覚士】第21回 第53問
機能障害の予後予測において直接的に関与しないのはどれか
<選択肢>
- 1. 障害のタイプ
- 2. 障害の重症度
- 3. 病前の趣味/li>
- 4. 本人の意欲
- 5. 年齢
解答と解説
正解:3
機能障害の予後予測に影響する因子として、障害脳病変の部位や大きさ、原因疾患、発症からの経過、機能障害の重症度、合併する症状の有無や重症度、年齢などが挙げられています。
したがって、今回の設問である「予後予測に直接関与しない」のは、「3.病前の趣味」となります。
ここで、注意が必要なのは「3.病前の趣味」は機能障害の予後予測には直接的に影響はないと考えられていますが、ICF(国際生活機能分類)による生活機能の観点からは重要であり、臨床においては聴取しておく必要がある情報です。(詳細はこちらの記事→https://co-medical.mynavi.jp/contents/therapistplus/kokushi/drill/8911/)
実務での活かし方 ~言語聴覚療法の予後予測のポイント~
それでは、言語聴覚療法における予後予測ついて解説します。
今回は、(1)言語聴覚療法における機能障害の予後予測に関連する要因、(2)失語症の予後予測、(3)摂食嚥下障害の予後予測、この3つの観点から解説します。
(1)言語聴覚療法における機能障害の予後予測に関連する因子
言語聴覚療法における機能障害の予後予測に関連する因子として、障害脳病変の部位や大きさ、原因疾患、発症からの経過、機能障害の重症度、合併する症状の有無や重症度、年齢などが挙げられます。具体的には、損傷部位が狭く機能障害が軽度である症例は、損傷部位が広く機能障害が重度である症例よりも予後が良好であると判断できます。
(2)失語症の予後予測
失語症の予後予測は、「疾患要因」「生物学的要因」「社会的要因」の3つに分類されています。
●疾患要因:病巣が狭い範囲に限局していると回復が期待できるといわれています。
●生物学的要因:発症時の年齢が40歳未満であれば、広範囲にわたる病巣例でも長期間で、中等度ないし軽度まで回復する可能性があることが知られています。
●社会的要因:訓練を長期間実施することにより、機能回復が認められる症例が存在することや、その反対に訓練を実施しないことにより、回復した機能が低下する症例が存在することが報告されています。
(3)摂食嚥下障害の予後予測
摂食嚥下障害の予後予測に関連する因子として、年齢、意識障害の有無、損傷部位の大きさ、両側脳障害の要素、合併する症状の有無などが挙げられます。
摂食嚥下機能検査との関連性では、初回評価時において「RSST(反復唾液嚥下テスト) 3 回以上かつ MWST(改訂水飲みテスト)3点以上」であった症例の経口摂取確立率は87.9%となったという報告があります。
まとめ
言語聴覚療法における予後予測ついて解説しました。予後予測に関連する因子には、障害脳病変の部位や大きさ、原因疾患、発症からの経過、機能障害の重症度、合併する症状の有無や重症度、年齢などが挙げられます。実際の臨床では、これらの情報や症状、各種検査の結果から予後について評価することが重要です。
[出典・参照]
藤田郁代ら.標準言語聴覚障害学 失語症学 第3版.医学書院,2021
中川良尚.言語機能障害(失語症)の予後予測.総合リハビリテーション 2018;46(7)
前田葉子. 急性期病院における嚥下障害患者の予後予測―初回スクリーニング検査からみた帰結と不顕性誤嚥の検討―.日摂食嚥下リハ会誌 2010;14(3)

近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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