令和6年度診療報酬改定による栄養関連項目の改定ポイントをわかりやすく解説
文:高木美奈子(管理栄養士)
2024年度は、診療報酬改定と介護報酬、障害福祉サービス等報酬が同時に改定される「トリプル改定」が実施されました。今回の改定では、栄養関連項目における評価と見直しも多く見られますが、特に注目したいのが次の3点です。
●管理栄養士を含む病院勤務の医療従事者の賃金アップ推進
●「リハビリ・栄養管理・口腔管理」の推進を中心とした、多職種及び同職種間での連携の推進
●GLIM基準の重視をはじめとした「標準的」な栄養管理の推進
本記事では、現場の管理栄養士に向けて、栄養関連項目における診療報酬改定のポイントを解説します。
転職のプロがアドバイスします♪(完全無料)
目次
令和6年度診療報酬改定 栄養関連の変更は賃上げに向けた新設がポイント
令和6年(2024年)度の診療報酬改定では、「医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取り組み」として、ベースアップ評価料が新設されました。ベースアップ評価料というのは、医療機関に勤める医療従事者(管理栄養士を含む)を対象に、賃上げを実施していくための評価料です。ただし、40歳未満の勤務医師や勤務歯科医師、薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者は対象外となります。
政府は、医療従事者に対して「令和6年度に+2.5%、令和7年度に+2.0%のベースアップを行う」という方針を打ち出しており、ベースアップ評価料はその実現を目指して創設されたものです。具体的には、「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)」「歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)」「入院ベースアップ評価料」「訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)及び(Ⅱ)」などの評価料が新設されています。
以下では、医療機関(医科)勤務の管理栄養士に関連する、「外来・在宅ベースアップ評価料」と「入院ベースアップ評価料」について詳しく解説します。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001237003.pdf)
外来・在宅ベースアップ評価料
「外来・在宅ベースアップ評価料」とは、外来医療または在宅医療を実施している医療機関において、管理栄養士を含めた医療関係職種の賃金改善を実施している場合に評価されるものです。
外来・在宅ベースアップ評価料には(Ⅰ)、(Ⅱ)の2種類があります。(Ⅰ)は外来医療または在宅医療を実施しているすべての医療機関が対象で、(Ⅱ)は(Ⅰ)に対する追加的な評価として無床診療所を対象とするものです。ここでは、基本となる(Ⅰ)のみを紹介します。
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)で加算される点数は、以下のとおりです。
・再診時等:2点
・訪問診療時:イ/同一建物居住者以外の場合28点、ロ/イ以外の場合7点
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)では、「地方厚生局長への届け出た保健医療機関において、医療に従事する職員(医師や歯科医師を除く)の賃金改善を図る体制の整備を行い、厚生労働大臣が定める施設基準に適合していること」などが算定要件となっています。また、外来患者さんに初診や再診、訪問診療を行った場合に点数が加算され、1日1回算定できます。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001237003.pdf)
入院ベースアップ評価料
入院ベースアップ評価料とは、病院または有床診療所において、管理栄養士を含めた医療関係職種の賃金改善を実施している場合に評価されるものです。
算定対象となる施設基準は、以下のとおりです。
・外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の届け出を行っている保険医療機関であること
・外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)により算定される点数の見込みの10倍の数が、対象職員の給与総額の2.3%未満であること
入院ベースアップ評価料の保険点数は、1〜165に区分され、1日1回算定できます。
・入院ベースアップ評価料1:1点
・入院ベースアップ評価料2:2点
↓
・入院ベースアップ評価料165:165点
上記の点数は、各医療機関が以下の式を用いて算出した、表内【B】に基づき、該当する区分を届け出ることで決定します。
【B】={対象職員の給与総額×2.3%−(外来・在宅ベースアップ評価料(1)で算定される点数の見込み×10円)}÷(延べ入院患者数×10円)
【入院ベースアップ評価料の区分】
【B】 | 入院ベースアップ評価料の区分 | 点数 |
---|---|---|
0以上1.5未満 | 入院ベースアップ評価料1 | 1点 |
1.5以上2.5未満 | 入院ベースアップ評価料2 | 2点 |
↓ | ↓ | ↓ |
164.5以上 | 入院ベースアップ評価料165 | 165点 |
なお、入院ベースアップ評価料の新設に伴って設けられた「施設基準の概要」には、10項目の要件が明示されています。「毎年3月、6月、9月、12月に、【B】の算定式で新たに算出し、区分に変更がある場合は算出した月内に地方厚生(支)局長に届け出たうえで、翌月から変更後の点数で算定すること」「該当する保健医療機関では社会保険診療等に係る収入金額の合計額が総収入の80%を超えること」などの要件を確認し、正しく算定を行う必要があるでしょう。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001237003.pdf)
令和6年度診療報酬改定から新設された栄養関連加算
令和6年度診療報酬改定から新設された栄養関連の加算は、以下の6つです。
2.リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算
3.経腸栄養管理加算
4.栄養情報連携料
5.小児個別栄養食事管理加算
6.慢性腎臓病透析予防指導管理料
ここからは、それぞれについて詳しく解説していきます。
1.地域包括医療病棟入院料+リハビリテーション・栄養・口腔連携加算
地域において救急の患者さんを受け入れる体制を整え、リハビリテーションや栄養管理、入退院支援、在宅復帰などの機能を包括的に評価するため、「地域包括医療病棟入院料」が新設されました。あわせて、リハビリテーション、栄養管理、口腔管理を一体的に実施することを評価する「リハビリテーション・栄養・口腔連携加算」も新設されています。
新設に至った背景として挙げられるのは、高齢者人口増加に伴う救急搬送者数が増加していること、急性期病棟に入院した高齢者の一部で、在宅復帰が遅れるケースがあることなどです。
なお、「地域包括医療病棟入院料」は、1日につき3,050点が加算でき、以下の算定要件を満たす必要があります。
・入院中の患者さんに対して、ADLの維持・向上、栄養管理に必要な体制が整備されていること
また、地域包括医療病棟入院料を算定したうえで、以下で解説する「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」と同等の施設基準を満たした保健医療機関は、「リハビリテーション・栄養・口腔連携加算」を1日につき80点加算できます。ただし、算定はリハビリテーション、栄養管理及び口腔管理に係る計画を作成した日から起算して14日を限度とし、栄養サポートチーム加算と同時に算定することはできません。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅰ(地域包括医療病棟)】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251535.pdf)
(出典:厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示 別途第一」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf)
2.リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算
「リハビリテーション・栄養・口腔連携加算」が、地域包括医療病棟で算定する加算なのに対し、「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」は、急性期病棟で算定できる加算です。
急性期のADL低下防止を効果的に行うことを重視し、より早期からの取り組み評価や切れ目のない多職種の取り組みを推進するために新設されました。「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」の算定要件として、以下のような項目が挙げられています。
・リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理に係る計画の作成や、計画に基づく多職種による取り組み(土曜、日曜及び祝日に行うリハビリテーションを含む)を行うための体制を確保する
リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は1日につき120点加算され、対象者は入院患者さん全員です。算定はリハビリテーション、栄養管理及び口腔管理に係る計画を作成した日から起算して14日を限度とし、栄養サポートチーム加算と同時に算定することはできません。
3.経腸栄養管理加算
「経腸栄養管理加算」は、新たに経腸栄養を開始した場合の管理と支援に関する加算として新設されました。その背景には、中心静脈栄養を行う患者さんが増えていることが挙げられます。
療養病棟入院基本料を算定している患者さんが、新たに経腸栄養を開始した場合、入院中1回、経腸栄養を開始した日から7日を限度として、1日300点を加算できます。ただし、栄養サポートチーム加算や入院栄養食事指導料、集団栄養食事指導料を同時に算定することはできません。
算定要件となる施設基準は、以下のとおりです。
・内視鏡下嚥下機能検査、または嚥下造影を実施する体制を有していること
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅳ(慢性期入院医療)】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001218901.pdf)
4.栄養情報連携料
「栄養情報連携料」は、医療と介護における栄養情報の連携が推進されることを目的に、従来あった「栄養情報提供加算」の名称や要件、評価を見直して新設されたものです。
栄養情報連携料は、入院中1回に限り70点算定されます。対象者は入院栄養食事指導料を算定している患者さんです。また、入院栄養食事指導料を算定した患者さんや、退院先が他の医療機関や介護保険施設等の患者さんも、退院先の施設の管理栄養士と連携し、情報共有した場合に算定できます。
算定要件として示されているのは、「退院後の栄養食事管理について指導を行った内容と、入院中の栄養管理に関する情報を示す文書を、他の保険医療機関や介護老人保健施設、介護医療院、特別養護老人ホームの医師と管理栄養士に情報共有すること」です。ただし、退院時共同指導料2と同時に算定することはできません。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【同時報酬改定における対応】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001252073.pdf)
5.小児個別栄養食事管理加算
「小児緩和ケア診療加算」の新設に伴って、「緩和ケア診療加算」における「個別栄養食事管理加算」と同様、「小児個別栄養食事管理加算」が新設されました。小児緩和ケア診療加算は、緩和ケアを要する小児患者に対して、小児科経験を有する医師、看護師を含む緩和ケアチームによる診療及び家族へのケアを行った場合に評価されます。
小児個別栄養食事管理加算では、緩和ケアを要する15歳未満の小児を対象に、緩和ケアに係る必要な栄養食事管理を行った場合、1日につき70点の加算が可能です。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【賃上げ・基本料等の引き上げ】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001237003.pdf)
6.慢性腎臓病透析予防指導管理料
「慢性腎臓病透析予防指導管理料」は、管理栄養士を含む、透析予防診療チームによる慢性腎臓病の患者さんへの指導を評価する加算として新設されました。
慢性腎臓病透析予防指導管理料では、慢性腎臓病の重症化予防を推進する観点から、多職種連携による透析予防の管理を行うことが評価されます。具体的には、慢性腎臓病の患者さんに対して、透析予防診療チームを設置。日本腎臓学会の「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」などをもとに、病期分類、食塩制限やたんぱく質制限等の食事指導、運動指導、その他生活習慣に関する指導を、必要に応じて個別に実施した場合に加算できます。
なお、慢性腎臓病透析予防指導管理料は、初回の指導管理を行った日から、経過した期間によって点数が異なります。
・初回の指導管理を行った日から起算して1年を超えた期間に行った場合:250点
対象は、入院中以外の慢性腎臓病の患者さんで、透析を予防するために指導管理を要する方です。糖尿病の方や、すでに透析療法を行っている方は対象外となります。
慢性腎臓病透析予防診療チームの管理栄養士は専任であり、慢性腎臓病の栄養指導経験が3年以上必要です。また、チームの所属者は、「慢性腎臓病の予防指導に係る適切な研修を修了した者が望ましい」とされています。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001218897.pdf)
令和6年度診療報酬改定から見直しされた栄養関連加算
ここまで、令和6年度診療報酬改定で新設された栄養関連の加算について解説してきましたが、今回の改定によって見直しとなった栄養関連の項目もあります。見直された加算は、以下の5つです。
2.入退院支援加算
3.回復期リハビリテーション病棟入院料
4.入院時食事療養費
5.生活習慣病に係る医学管理料
では、それぞれについて詳しく解説していきましょう。
1.入院基本料
退院後の生活を見据え、栄養管理体制の基準を明確化するため、入院基本料等が見直されました。算定要件となる施設基準は、以下のとおりです。
・入院患者さんの栄養管理に必要な体制が整備されていること
栄養管理体制を整備するにあたっては、管理栄養士をはじめ、医師や看護師、その他医療従事者が共同して栄養管理を行うことが求められます。加えて、栄養管理手順(標準的な栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価、栄養管理計画、退院時を含む定期的な評価など)を作成することも、栄養管理体制の基準となります。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定【全体概要版】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251533.pdf)
2.入退院支援加算1・2
入退院支援における関係機関との連携強化や、生活に配慮した支援の強化、入院前からの支援強化などの観点から、「入退院支援加算1」と「2」の要件が見直されました。
具体的には、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等を含む入院中の療養支援の内容や、栄養サポートチーム等の多職種チームとの役割分担を、退院支援計画の内容に盛り込む必要があるとされています。
また、入退院支援加算の改定によって、退院困難な要因を持つ患者さんを対象に、以下の算定要件が補足されました。
・療養病棟入院基本料等の場合は、原則として14日以内に患者さん及び家族と病状や退院後の生活も含めた話し合いを行うとともに、関係職種と連携して入院後7日以内に退院支援計画を作成する
・入退院支援加算2を算定する場合は、できるだけ早期に患者さん及び家族と話し合いを行い、入院後7日以内に退院支援計画を作成する
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【同時報酬改定における対応】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001252073.pdf)
(出典:厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知) 別添1」/https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001252052.pdf)
3.回復期リハビリテーション病棟入院料
より質の高いアウトカムに基づいた回復期リハビリテーション医療を推進するため、回復期リハビリテーション病棟入院料の見直しが行われました。
回復期リハビリテーション病棟入院料1は、栄養状態の評価にGLIM基準を用いることが必須となり、回復期リハビリテーション病棟入院料2~5は、GLIM基準を用いることが望ましいとされています。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅲ(回復期)】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001251537.pdf)
(出典:日本栄養治療学会「GLIM基準について」/https://www.jspen.or.jp/glim/glim_overview)
4.入院時食事療養費
食材費等が高騰していることを踏まえ、入院時の食費の基準を引き上げることになりました。具体的には、入院時食事療養(Ⅰ)・(Ⅱ)の費用と、入院時生活療養(Ⅰ)・(Ⅱ)における「食事の提供たる療養」の費用が、1食あたり30円引き上げとなります。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅵ(働き方改革の推進、横断的事項)】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001218903.pdf)
5.生活習慣病に係る医学管理料
生活習慣病に対する質の高い疾病管理を推進するため、200床未満の病院または診療所に限って、生活習慣病に係る医学管理科が見直されました。
あわせて特定疾患療養管理料も見直され、対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧が除外されています。
(出典:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】」/https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001218897.pdf)
診療報酬改定が行われた社会的背景や医療機関の管理栄養士に求められていることを理解しよう
今回の診療報酬改定に伴い、多くの栄養関連項目で評価の新設や見直しが行われました。管理栄養士は、外来・入院・在宅での栄養管理において、全年代の人々の健康維持増進に貢献することが求められており、処遇改善にはそうした活動の質を向上させる目的もあります。
超高齢化社会によって生じる多くの課題に対応するためにも、医療現場を取り巻くさまざまな動向に注目しながら、スキルアップを続けましょう。
職場探しをお手伝いします♪マイナビに相談する
著者プロフィール
高木 美奈子
管理栄養士
管理栄養士国家資格取得後、厨房調理業務を経て、高齢者施設の管理栄養士として勤務。高齢者の身体状態にあわせた食事内容を提案し、最後までその人らしく生活できるよう、食事面からアプローチしている。現在はWebライターとして、食事栄養分野を中心に執筆活動を行う。
監修者プロフィール
マイナビコメディカル編集部
リハ職・医療技術職・栄養士のみなさまの転職に役立つ情報を発信中!
履歴書や職務経歴書の書き方から、マイナビコメディカルサイト内での求人の探し方のコツや、転職時期ごとのアドバイス記事などを掲載。
転職前の情報収集から入職後のアフターフォローまで、転職活動の流れに添ってきめ細やかなフォローができる転職支援サービスを目指しています。