リハビリで即実践! 骨盤底筋運動療法による尿失禁へのアプローチ
公開日:2015.10.15 更新日:2015.10.22
加齢や肥満、出産などの影響で起こりやすくなる尿失禁。くしゃみや咳をしたり、物を持ち上げたりして力んだときなどにもみられます。こうした症状を仕方のないこととあきらめている患者さんに対して、尿失禁の種類から症状を改善、予防するアプローチを紹介します。
尿失禁の種類と骨盤底筋群
尿失禁は、主に腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁の2種類に分けられます。また、2つの混在する混合性尿失禁や、前立腺切除手術後の男性にみられる尿失禁などもあります。なかでも、もっとも一般的なものが「腹圧性尿失禁」です。緩んだ骨盤底筋群が腹圧に負け、尿道が開くことによって尿失禁が生じる状態で、女性に多い症状です。
骨盤底筋群は、恥骨と尾骨の間にある骨格筋で、随意的に調節することができます。この筋群は膀胱、膣、子宮、直腸などの臓器を支持し、開閉するという重要な役割を担っています。先ほどの腹圧性尿失禁に対して、この骨盤底筋群の随意収縮を促す運動を2~3ヶ月継続することにより、尿失禁の改善や予防が期待できます。
骨盤底筋運動療法の指導
運動を指導するに先立って、まずは腹圧性尿失禁の生じる機構、運動の必要性を患者さんに説明しましょう。そうすることで、患者さんのモチベーション向上や運動の継続性が期待できます。次に運動時の姿勢です。仰臥位(ぎょうがい)で膝を立て、両上肢を腹部に置きます。座位、立位でもかまいません。この時、下肢を肩幅程度に開くと、骨盤底筋群に負荷がかかるため、運動の効果が上がります。骨盤底筋群が正確に収縮できるよう、開始前に深呼吸を行い、肩や腹部の力を抜くように指導するのも良いでしょう。
骨盤底筋運動の基本動作です。
- 男性は肛門を締める(排便や放尿を我慢するように)
女性は膣、尿道を締めるように意識する(トイレで尿を途中で止めるように) - 息を吸いながら肛門、膣を胃のほうへ吸い上げるような感じで持ち上げる
- そのまま3つ数えたら、息を吐きながら全身の力を抜いて元へ戻す
骨盤底筋群の収縮感覚を正しく認知しながら、正確に収縮と弛緩を繰り返します。この反復を1日80~100回(10回を1セットとして10回)行います。この収縮と弛緩ですが、下肢の屈曲・伸展動作などと違い、動作を理解しづらく、患者さんのなかにはうまくできない方がいらっしゃるかもしれません。その場合、説明のパンフレットや図を用意し、骨盤底筋群の場所を確認してみましょう。また、基本動作で述べたように「尿道を締めてください」ではなく、「トイレで尿を途中で止めるようにしてください」というように、動作をイメージしやすい言い方の工夫が必要となります。
骨盤底筋運動は継続的に実施することが必要なため、いかに日常生活のなかで習慣化させるかが重要です。たとえばテレビを見ながら、入浴中、就寝前など、日常生活に運動を取り入れるよう指導していきましょう。また、尿失禁を生じるような腹圧時(例えば咳、くしゃみ、運動時など)に骨盤底筋群を意識的に収縮させることも効果的です。
訓練の評価方法
継続的な運動の実施には、運動が正しく施行されているかを評価して、患者さん自身にその結果を伝えることが必要です。運動の評価項目として
- 運動の実施回数、または時間
- 尿失禁回数、量
- 生活支障度(尿失禁によってどのくらい、またはどのように日常生活に支障を及ぼすか)
- 患者満足度(運動や尿失禁の改善度にどのくらい満足しているか)
などが挙げられます。また、測定器を使用し、収縮圧を測定する方法もあります。
生活の質を向上させるために
くしゃみや咳などで生じる不快な尿失禁。患者さんの生活の質を向上させるためにも、理学療法士としてできることがあります。骨盤底筋運動をいかにわかりやすく伝え、患者さんが継続して行えるよう導いていけるかが課題です。患者さん一人ひとりに合わせた関わりができるよう、さっそく明日から取り組んでいきましょう。
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