脳動脈の支配領域の覚え方は?脳血管との関連性や閉塞時の症状についても解説
公開日:2024.03.06 更新日:2024.03.07
文:伊東浩樹(理学療法士)
理学療法士の国家試験に向けて、脳動脈や血管の名称、支配領域などについて勉強をしているのに、なかなか覚えきれない学生も多いのではないでしょうか。
特に、支配領域は複雑なため、覚えることに苦労するかもしれません。
今回は、理学療法士を目指す学生に向けて、脳動脈の支配領域の覚え方について解説します。
覚えておくべき脳動脈
脳動脈の種類は多く、全てを一度に覚えようとすると大変です。
国家試験対策として、確実に覚えておきたい動脈や、臨床でよく見聞きする代表的な領域などを整理して覚えていくことが大切です。まずは脳底部の動脈と大脳の支配領域に分けて、それぞれ確認しておきましょう。
脳底部の主な動脈
脳底部には、前方循環を担当する「内頸動脈」と、そこから枝分かれして左右に伸びる「前大脳動脈」があり、さらに「前交通動脈」が1本あります。左右の「後大脳動脈」と左右の「後交通動脈」で作る輪のような動脈のつながりを『ウィリス(Willis)動脈輪』といいます。
ウィリス動脈輪は、脳動脈瘤が発生しやすい部位としても知られているため、確実に覚えておきましょう。
大脳の動脈と支配領域
大脳の動脈は支配領域で分かれており、前、中、後の大動脈と椎骨動脈の支配領域に分かれます。それぞれの特徴の詳細は以下のとおりです。
前大脳動脈
主に前頭葉、頭頂葉の『内側面』に血液を供給しています。
中大脳動脈
主に前頭葉、頭頂葉、側頭葉の『外側面』に血液を供給しています。
後大脳動脈
脳底動脈から分かれて中脳を囲んで、後方へ走り、側頭葉の『内面,下面』と後頭葉へ血液を共有しています。
椎骨動脈
脳幹や小脳へ血液を供給しています。
脳動脈を覚える際のポイント
動脈の名前や特徴を文字だけで覚えようとしても、なかなか頭に入ってこないかもしれません。全体の流れをつかむためにも、教科書にあるイラストなど、図を踏まえて覚えるようにしましょう。
自分なりにメモを加えたり、色分けしたりするなどの工夫したイラストを作れば、より覚えやすくなります。実際に臨床現場に出ると、MRIなどの画像から脳梗塞などを確認することになります。現場で活用できるよう、詳細な画像のイメージと結び付けておくとよいでしょう。
また、支配領域を把握し、脳動脈がどこを走行するのか、自分なりに「方向」を整理することも大切です。例えば、苦手意識を持ちやすい「ウィリス動脈輪」は、まず輪をイメージして、それぞれの動脈の位置を覚えていきましょう。
一番前の真ん中にある前交通動脈が1本、その後左右に前大脳動脈、中大脳動脈、内頸動脈、後交通動脈、後大脳動脈と続きます。前から後ろにつながっていくイメージを持ち、前中後で輪を作るイメージを持つと、覚えやすくなるでしょう。
「ウィリス動脈輪」の覚え方
輪をイメージできたら、次のような手順で、覚えてみてはいかがでしょうか。
2. 次に真ん中の横線をそれぞれ内側に伸ばしてください。それが内頸動脈です。
3. 最後に2番目の横線と3番目の横線の間が後交通動脈と覚えましょう。
簡単なイメージとして、『てんとう虫』などの丸い虫を思い浮かべて、左右に3本ずつ足があるようなイメージを持つのもよいかもしれません。
主要な脳動脈が閉塞したら?
たくさんの種類がある脳動脈のうち、いずれかが閉塞してしまうと、さまざまな症状を呈します。閉塞時の症状も一緒に覚えておくことで国家試験や、臨床に出た際に対応ができるようになります。関連付けて覚えておきましょう。
内頸動脈
内頸動脈の閉塞は、無症候なこともありますが、有症候の場合は中大脳動脈閉塞の症状、同則の視力障害が起きる可能性があるとされています。
中大脳動脈
中大脳動脈が閉塞すると、対側の運動、感覚障害、同名半盲野病側への共同偏視、意識障害、失語や半側空間無視が起きる可能性があるとされています。
前大脳動脈
前大脳動脈の閉塞により、対側の運動障害が特に下肢で起こりやすく、感覚障害、分離脳、精神機能低下、自律神経障害などが起きる可能性があるとされています。
椎骨脳底動脈系
椎骨脳底動脈に関しては、それぞれの動脈が閉塞した場合に分けて考える必要があります。それぞれのポイントは以下のとおりです。
椎骨動脈が閉塞した場合
無症候の時もあれば延髄外側症候群、病側顔面と対側上下肢、体感の温痛覚低下が起きる可能性があります。
脳底動脈が閉塞した場合
主幹部閉塞にて意識障害、瞳孔不同、共同偏視、水平性,垂直性眼振、顔面麻痺、難聴、四肢麻痺などが起きる可能性があります。
上小脳動脈が閉塞した場合
病側の小脳失調、不随意運動。それと対側の顔面を含む半身の感覚障害、聴力障害が起きる可能性があります。
前下小脳動脈が閉塞した場合
病側の小脳失調と顔面の温痛覚障害、難聴、末梢性顔面神経麻痺、対側の顔面を除く温痛覚障害が起きる可能性があるとされています。
全ての症状が当てはまるのではなく、どれか1つ、もしくはこれらの症状が複合して起きる場合もあります。理学療法士としてリハビリテーション介入する場合には、症状の変化を注意して診ていく必要があります。
臨床現場で活躍するためにも、脳動脈関連はしっかり覚えていこう
脳動脈を覚えることができたら、理学療法士としてこれほど心強いことはありません。国家試験対策としてはもちろん、臨床に出た際にも、「〇〇動脈に梗塞が起きている」という説明から、患者さんがどのような状態にあるのか、すぐにイメージできるようになるでしょう。
脳血管障害は、理学療法士がリハビリテーションを実施する対象疾患であり、臨床現場で大きく役立ちます。脳動脈の覚え方をマスターし、国家試験や臨床に備えましょう。
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伊東 浩樹(理学療法士)
理学療法士として総合病院で経験を積んだ後、予防医療の知識等を広めていくためにNPO法人を設立。その後、社会福祉法人にて障がい部門の責任者や特別養護ホームの施設長として勤務。医療機関の設立や行政から依頼を受けての講演、大学、専門学校等での講師なども勤める。
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