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保育・教育現場で活動する作業療法士――子どもの発達を支える仕事の魅力に迫る

公開日:2024.04.11

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作業療法士が活躍する場は、医療・介護の現場だと思われがちです。しかし、近年は、「発達が気になる子どもを支える」という活動に取り組む作業療法士も増えています。ここでは、保育園や幼稚園、学校などに赴き、保育や教育の現場に作業療法を届ける意義について、実例を交えながら解説しましょう。

「医療施設以外」にも広がる活躍のフィールド

作業療法士というと、医療機関や介護施設で働いているイメージが強いのではないでしょうか。実際、一般社団法人日本作業療法士協会が公表している「2019年度 日本作業療法士協会会員統計資料」を見ると、病院やクリニックといった医療法関連施設で働く会員が全体の約73%と最多で、次いで介護保険法関連施設(約12%)となっています。しかし、作業療法士の職場はそれだけにとどまりません。新たな活躍の場として、特に注目されているのが、保育園や幼稚園、学校といった保育・教育の現場です。

近年は、発達段階において課題を抱える子どもの数が増加傾向にあるとされています。例えば、2022年に公表された「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課)によると、「学習面、各行動面で著しい困難を示す」とされた小学校の児童は10.4%に上りました。

そうした状況をうけて、一部の作業療法士は保育・教育の現場に入り、子どもたちの観察や支援、先生方へのアドバイスなどを行っています。現場では、発達障害などを抱える子どもを多く支援しますが、作業療法士が担う役割はそれだけではありません。障害の有無にかかわらず、集団生活のなかで「困り事」を抱える子に寄り添い、サポートする——。それもまた、作業療法士の大きな役目なのです。

学校における作業療法の重要なポイントは?

「学校などで活躍する作業療法士」の存在は、まだ一般的とはいえません。そのため「実際の現場では、どのようなことが求められるの」と疑問に思う方もいるでしょう。

以下に、学校における作業療法のポイントを3つ紹介します。

①作業療法の観点で状況を分析する

例えば小学校の場合、初等教育を受ける子どもの「作業」と、それを提供する先生の「作業」が存在します。作業療法士は、身体発達などに関する専門知識をベースに、それぞれの作業で生じている困り事について、細やかな状況分析を行います。

②人だけでなく環境改善にもかかわる

対象児の特性はもちろんのこと、活動内容や環境因子なども総合的に検討しながら、実現可能なアプローチに落とし込みます。このとき、子どもと直接かかわらず、「持ち物に印をつける」など、環境面から状況の改善を図ることも少なくありません。

③先生をサポートする視点も併せ持つ

現場で困り事を抱えているのは、子どもだけではありません。「思うように保育や教育を届けられない」と悩む先生たちに寄り添いながら、作業療法の知見を生かした助言や提案を行うのも、作業療法士に求められる職務です。

先駆的に活動する「ゆいまわる」の仲間知穂さん

保育・教育の現場で、先駆的に活動している作業療法士の一人が、仲間知穂さんです。仲間さんは、東京と沖縄の回復期リハビリテーション病院で経験を積んだ後、作業療法士養成学校の講師に就任。自身の長男が集団になじめず、発達障害の診断を受けるよう促された体験をきっかけに、「作業科学の知識を持って保育や教育の現場に踏み込んだら、きっと多くのことが改善できる」と考えるようになったといいます。

その後、仲間さんは、小学校で作業療法のボランティアをスタート。地域や行政を巻き込みながら精力的に活動を展開し、現在は学校訪問専門の事業所「こども相談支援センターゆいまわる」、福祉型児童発達支援センター「こどもセンターゆいまわる」を設立・運営しています。

「私たちの役割は、先生方が届けたい保育・教育の実現をサポートすることで、子どもたちの元気を応援すること」とは仲間さんの言葉です。気になる言動だけに着目するのではなく、「自分が届けたい保育・教育をかなえるにはどうすればよいか」という視点を持つことで、当事者を含む周囲との協働がスムーズになり、「次の一手」が見つけやすくなるのだそうです。

仲間さんの幼稚園訪問に編集部が同行!

ここまで、保育・教育現場における作業療法士の役割について紹介してきましたが、実際には訪問先でどのような活動を行い、どうやって貢献しているのでしょう。セラピストプラス編集部は、実際の活動内容を知るために、東京都内にある私立幼稚園を訪れた仲間さんに同行。一日の活動を見学させていただきました。

前日まで 対象児の情報を受け取る

幼稚園側が、事前に2人の対象児をピックアップ。担任の先生がそれぞれの園児についての資料をまとめ、仲間さんに共有することで、気になるポイントを明確にしていきます。

<事前に共有された項目>
・園児の年齢
・身体機能における問題の有無
・日頃の活動で問題に感じられる言動
・園側でどのように対応してきたか など

11:15 幼稚園を訪問

園長先生や担任の先生と顔合わせをした後、該当するクラスの活動内容や対象児について確認。このタイミングで、観察を行う際の注意点(例:記録方法にルールがあるかどうか)もしっかりと確かめておきます。

11:30 観察(1) 運動の時間

対象児が所属する年長クラスは、園庭で運動の時間。仲間さんは、対象児2人の体の動かし方や表情、集団内における動きなどをチェックし、タブレットでメモを取っていきます。

12:05 観察(2) 昼食の時間

昼食の準備から食事を終えるまでの間、対象児がどのように行動しているかを見ていきます。屋外と屋内では環境が大きく異なるため、子どもの特性の表れ方も変わるもの。仲間さんは、他の園児や先生との関わりなどにも注目しつつ、廊下から保育室の様子を観察していました。

13:00 観察(3) 帰りの時間

先生の読み聞かせや連絡事項の伝達、合唱などをしてから、園児たちは帰宅となります。絵本への反応や座っているときの姿勢などにも、それぞれの特徴が表れる対象児。全体の活動が終了し、クラスを出ていく様子も含めて、仲間さんは観察と記録を続けます。

14:00 先生たちとの事例検討会

園児たちが帰宅した後、仲間さんと先生方で事例検討会が行われました。仲間さんは、作業療法のプロとして気になった子どもの動きや様子、その背景として考えられることについての「見立て」を説明。日頃の先生方の関わりで優れている点を評価した上で、今後実施するとよいことについてもアドバイスしました。

例えば、「〇〇くんは、自分の体の位置や動きを認知する力が弱いため、フルパワーでしか動けない状態です。花に水をやるなど、力の微調整が不要な役割を与えることで、クラスに居場所をつくってあげましょう」「聴覚や視覚、触覚への外部刺激に過敏に反応する〇〇ちゃんは、入り口や壁際など、安心感を得やすい席に座ってもらうのがよいと思います」といった具合です。先生方は真剣な表情で聞き入り、対象児についての事例検討が終わってからも、他の気になる子について相談していました。

今回は一日のみの訪問でしたが、活動の方法には「一人の子に数年単位で長期的にかかわる」「幼稚園などに所属しながら専属の作業療法士として活動する」など、さまざまなパターンがあります。子どもの発達や支援に興味がある方は、保育・教育の現場で作業療法の力を生かすことを視野に入れてみてはいかがでしょうか。自分らしい、新たなキャリアが開けていくかもしれませんよ。

仲間 知穂

仲間 知穂

1979年東京生まれ。2002年東京都立保健科学大学1期生として卒業。回復期の河北リハビリテーション病院、沖縄リハビリテーション病院に6年間勤務後、作業療法士の養成学校・琉球リハビリテーション学院で7年間講師を務める。2009年よりボランティアで学校での作業療法を開始し、2016年作業療法士による学校訪問専門の事業所「こども相談支援センターゆいまわる」設立、代表。3児の母。

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