作業療法士が訪問リハビリテーションの魅力を紹介します!
公開日:2022.11.09 更新日:2022.12.08
文:牛玖恵梨子(作業療法士)
訪問リハビリを経験したことがないセラピストは、「訪問リハビリ」と聞いただけで、「1人での訪問だと何かあったら対応できるか不安」「困ったことがあっても相談できないのでは?」など、漠然とした不安や恐怖を抱く人がいると思います。
実際には怖い思いをすることはほとんどなく、むしろ毎日新しいことの連続で、活き活きしているセラピストのほうが圧倒的に多いです。
今回は、訪問看護ステーションから訪問するリハビリを経験してきた作業療法士の私が、その魅力をお伝えしていきます。
目次
暮らしに密着したリハビリができる
訪問リハビリを行うのは利用者さんが暮らしている家です。
あたり前だと思うかもしれませんが、病院や施設では、自宅を想定したリハビリはできても、実際の家でのリハビリはできません。
通院時はスーツやおしゃれ着で出かける利用者さんであっても、訪問リハビリではステテコにシャツ、部屋着など、普段暮らしている格好で迎え入れてくれます。
服装に限らず、利用者さんが暮らしのなかでのそのままの姿でいてくれるので、生活環境などを聴取する必要はないのです。
だからこそ、時にはリハビリ前にトイレへ行ったものの下衣を汚してしまったため、そのまま浴室でシャワー浴のお手伝いをすることもありますし、動線上に荷物が散乱していて移動時に危険だと感じれば、利用者さんと一緒に片付けや掃除を行うこともあります。
また家屋内だけでなく、家の周辺環境・事情もセラピストが自身の目や体感で知れるので、間違いのない評価を行うことができます。
これは、暮らしに密着している訪問リハビリだからこそできることだと思います。
目標ややるべきことがはっきりしている
残念ながら、回復期リハビリテーション病棟から退院してきた利用者さんのなかには、「早く退院したいからがんばってリハビリを終わらせてきた」と言って、退院後ベッドに直行し、その後24時間ベッド上で暮らす人もいます。
ちなみに、退院時にもらってきた自主トレーニング表を使って、リハビリを継続している利用者さんをほとんど見たことがありません。
訪問リハビリの場合、こうした利用者さんに自主トレーニングを指導することは、本人がよっぽど希望しないかぎりないと思います。
どちらかといえば、暮らしに合わせた具体的な目標を立て、日常生活動作や外出に向けた動作の反復練習が多くなります。
たとえば、先ほどのベッド上で暮らしている利用者さんには、理由をみつけて少しずつ起きて過ごす時間を増やしてもらいます。
- ・食事とテレビを見るときはイスに座る
- ・入浴前の服は自分で用意する
- ・家族と一緒に週に1回はお出かけする
- ・毎日体温を自分で測る など
「そんなこと!?」と思われる人もいるかもしれませんが、暮らしのなかで行うリハビリは、セラピスト主導でプログラムを考えることはありません。
利用者さんのほか、必要であればご家族とも相談しながら決めていくので、利用者さん自身が「やりたい」「できそう」「必要だ」と思うリハビリになることがほとんどです。
そして、「そんなことでいいの!?」から始まるリハビリでも、信頼関係がつくられていくと、「前に病院でこんなリハビリをやっていたんだけど、あれ、またやってみたいなぁ」など、急にモチベーションを上げてくれることもよくあります。
このように、利用者さんの暮らしを見ていれば、自然とやるべきリハビリが見えてくるのも訪問リハビリの魅力の1つだと思います。
多業種・他事業所と知り合える
同じ法人内で居宅介護支援事業所や訪問介護事業所、福祉用具貸与事業所を行っている場合であっても、他の各事業所の担当者とかかわりをもつことは必ずあります。
担当地域が被っていることも多く、訪問先への移動中にたまたま出くわして立ち話をすることもあれば、次の訪問までのすき間時間に主治医や訪問看護師、ケアマネジャーなどへ電話で「報連相」を行うなど、他業種・他事業所とかかわる機会は日々あります。
そのなかでも、フットワークが軽い福祉用具貸与事業所の担当者とは、とくに連絡を密に取る印象があります。
ベッドや車イス、歩行器などのレンタルできる福祉用具は、利用者さんの状態や活動範囲に合わせて変えていくことが多く、その都度ケアマネジャーや福祉用具担当者と相談して、訪問時に利用者さんにいろいろ試してもらいます。
担当者によっては、新しくリリースされた福祉用具を紹介してくれたり、ベッドマットの選び方や使用方法をレクチャーしてもらえたりと、福祉用具に関する最新の情報は、自分で調べるよりも先に福祉用具担当者から得る機会が多くあります。
セラピスト個人の考えや事業所にもよると思いますが、訪問リハビリに合わせて各事業所の担当者が同行訪問する、逆にセラピスト側が同行訪問することもあり、私の場合、多職種協働を感じる機会は医療機関で働いているときよりも一層強く感じます。
訪問看護ステーションからの訪問なら、看護師にサポートしてもらえる
訪問看護ステーションに所属するセラピストによる訪問は、厳密には訪問リハビリとはいえません。
あくまでも、訪問看護のなかで行われるリハビリという位置づけなので、訪問看護師による定期的な訪問が必ずあります。
訪問リハビリ中、利用者さんの意識がないなどの緊急事態が起こった場合、すぐに命にかかわる状況であれば救急要請をしますが、「いつもより血圧が高め」「体熱感と微熱がありいつもより元気がない」「皮膚はく離を見つけた」「薬を飲み忘れている」など、緊急性はないけれどセラピストでは判断できないことはよくあります。
この際、訪問看護ステーションであれば、まずは担当の看護師か看護管理者に電話やテレビ電話で相談し、対応方法について指示を仰ぎます。
このとき、訪問看護師の指示通り対応を行ったうえで経過を観察しながらリハビリを行うこともあれば、訪問看護師へバトンタッチすることや、すぐに主治医へ連絡するよう指示をもらう、もしくは看護師が電話をするため待機の指示をもらうこともあります。
このように、訪問中のセラピストに専門性を超えた判断が求められることはまずないため(そもそもやってはいけません)、訪問看護師は安心して訪問するための大切な存在になります。
自転車移動なら気分転換や自分も健康になれる
訪問リハビリの移動手段には、徒歩、自転車、車、公共交通機関があります。
私が初めて訪問の仕事に就いた2013年当時の都内は、今ほど訪問看護ステーションや訪問リハビリ事業所がなかったため、ほぼ毎日1日6件の訪問、多い日には1日30km以上を電動アシスト付き自転車で移動していました。
最初のうちは慣れない土地で右も左もわからず、会社から貸与されたタブレット端末の地図アプリを頼りに利用者さんの家の周りを右往左往して大変でしたが、土地勘がつくと景色を楽しんだり、休憩場所を探索したり、次の休日に行く予定のビール屋さんの場所を確認したりと、自分でも驚くほど毎日楽しく移動をしていました。
慣れないうちは「結構きついなぁ」「続けられるかなぁ」などと感じていましたが、自然と体力もついてきて、最初はきつかった1日も、3カ月くらい経つと急にラクになり、疲れにくくなりました。
訪問リハビリは新しいことの連続
訪問リハビリは、介護保険サービスで利用する方が多いため、嫌われてしまえば二度とリハビリは担当させてもらえません。
だからこそ、「リハビリは楽しい」「またこのセラピストに来てほしい」と思ってもらえる技術やコミュニケーション能力が求められます。
私の場合「毎回同じリハビリにならないように変化をもたせること」「利用者さんが飽きないようにすること」「1回の介入で効果を実感しやすいプログラムを1つは提供すること」と考え、毎回新しいアクティビティの持参や、環境を変えて実施するようにしていました。
毎回新しいことをするためには、利用者さんを理解しなくてはいけませんし、利用者さんが暮らす環境も熟知する必要があります。
何よりも、こうした視点は仕事へのモチベーションや作業療法士としての能力向上にもつながるため、「訪問リハビリは楽しい!」と思えるのです。
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牛玖 恵梨子
作業療法士、児童指導員ほか。
養成校卒業後、病院勤務を経て福祉心理学系の大学へ編入。卒業後は伊豆七島にある三宅島や都内、千葉県内で働く。
趣味は旅と読書、そしてビールを飲むこと。趣味と作業療法の経験を活かし、医療や福祉をテーマにした執筆や書籍などの編集も行っている。
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