個別機能訓練計画書の目標設定はどうする?具体例を交えながら解説!
公開日:2023.02.13 更新日:2024.01.11
文:酒井 康輔(作業療法士)
リハビリテーション(以下、リハビリ)の最終的な目標は、対象者の生活や社会参加を変化させることにあります。
そのため、リハビリ目標の設定は治療と同じくらい大切なことであると考えます。今回は、個別機能訓練計画書の目標設定の方法について具体例を交えながら解説します。
個別機能訓練計画書とは
個別機能訓練計画書とは、介護施設等の利用者を対象として機能訓練の計画等を記した書類です。通所介護(デイサービス)や短期入所生活介護(ショートステイ)、介護老人保健施設(老健)などの事業者は、日常生活の介護に加えて、機能訓練を提供することが義務付けられています。
各事業所で実施される機能訓練を個別機能訓練加算として算定するにあたり、個別機能訓練計画を立てることが算定要件の1つとなっています。
個別機能訓練は、ケアマネージャーが作成する居宅サービス計画と、通所介護計画や短期入所生活介護計画などと連動する必要があり、それぞれの計画と整合性が保たれていなければなりません。
リハビリでの目標設定の必要性
リハビリの最終的な目標は、国際生活機能分類(ICF)で表される「活動」や「参加」を変化させることにあります。近年、対象者がリハビリ目標への意思決定に参加する重要性が提唱されており、対象者とセラピストが目標を共有しながらリハビリ治療を進めることが大切です。
目標に向かって個別機能訓練を実施することになりますが、設定した目標を対象者とセラピストで共有できていないと、治療効果が現れにくく対象者の満足度も上がりにくいことがあります。
リハビリは、身体機能の回復のみを最終的な目標にしているわけではなく、日常に即した「活動」や「参加」という生活の変化をゴールとしているため、対象者と話し合って、ライフスタイルや生活環境に適した実現可能な目標を設定することが大切です。
国際生活機能分類(ICF)による「活動と参加」とは
「国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disabil ity and Health)」とは、WHOが採択した概念です。「健康の構成要素に関する分類」として、「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つで構成される「生活機能」があり、その全体像を見ることで、個々の生活機能向上につなげるという概念を中心としています。
3つの項目は、それぞれが相互に影響を与えるとされ、目標設定などに使われます。具体的には以下のような意味があります。
心身機能・身体構造
心身機能とは、たとえば手足の動き、精神の働き、視覚・聴覚、内臓の働きなど。身体構造とは、手足の一部、心臓の一部(弁など)などの、体の部分のこと。
活動
生活行為、すなわち生活上の目的をもち、一連の動作からなる、具体的な行為のこと。
あらゆる生活行為を含むものであり、実用歩行やその他のADL(日常生活行為)だけでなく、調理・掃除などの家事行為・職業上の行為・余暇活動(趣味やスポーツなど)に必要な行為・趣味・社会生活上必要な行為がすべてはいる。
参加
家庭や社会に関与し、そこで役割を果たすことである。社会参加だけではなく、主婦(主夫)として、あるいは親としての家庭内役割であるとか、働くこと、職場での役割、あるいは趣味にしても趣味の会に参加する、スポーツに参加する、地域組織のなかで役割を果たす、文化的・政治的・宗教的などの集まりに参加する、などの広い範囲のものが含まれる。
参照:ICF(国際生活機能分類)-「生きることの全体像」についての「共通言語」-|厚生労働省
上記3つの項目のなかで、目標設定には、「活動」「参加」が重視されます。
個別機能訓練加算の目標設定の具体例
目標設定をする際には、国際生活機能分類(ICF)のモデルを参考に、「参加→活動→心身機能・身体構造」の順に考えると良いでしょう。
以下では、実際に聞き取りを行ったケースを参考に、目標設定例を紹介します。
スーパーで買い物(食材・日用品)ができるようになる
目標設定の際に「買い物ができるようになりたい」を主訴として訴える対象者の場合、「買い物ができるようになる」はICFで表される「参加」の目標となります。ICFの参加は「社会レベル(人生レベル)」と表現され、役割を果たすことがあげられます。買い物ができるようになることで自身の役割を再獲得することにつながるため「参加」の目標になります。
ここでさらに「どこで、どんなものを買うのか」を聞くことができればより具体的な目標設定が可能です。聞き取りの結果「スーパーで買い物(食材・日用品)ができるようになる」ことを参加の目標として共有しました。
セラピストが参加の目標である「スーパーで買い物(食材・日用品)ができるようになる」を実現できるように、必要な行為を細分化し、活動・心身機能の目標として整理・提案します。最後に対象者に説明し同意を得ることが重要です。目標を共有できたら、計画書に記載しましょう。
個別機能訓練計画書(目標)の書き方
個別機能訓練計画書にある「Ⅱ個別機能訓練の目標・個別機能訓練項目の設定」の項目より、左側にある「個別機能訓練の目標」の欄に「参加」、「活動」、「心身機能・身体構造」の3つの項目を記載します。
ただし、記載する内容は、すべての目標が関連している必要があります。たとえば、活動に「レジ袋に食材を入れることができる」をあげたのであれば、機能でも物の運搬能力である「立位バランスを向上する・上肢機能の向上」を目標の欄に記載します。
具体的な書き方の例としては、以下のとおりです。
参加
スーパーで買い物(食材・日用品)ができるようになる
活動
屋外を、歩行器を用いて30分歩き続けることができる(移動能力)
レジ袋に食材を入れることができる(物の運搬・移動・操作能力)
公共交通機関(タクシー)の利用ができる(交通手段の利用)
心身機能・身体構造
持久力を改善する・歩行安定性を改善する(移動能力)
立位バランスを向上する・上肢機能の向上(物の運搬能力)
金銭のやり取り、身振りや手振り筆談ができる(交通手段の利用)
適切な目標設定をできるよう、対象者と話し合って決めよう
個別機能訓練計画書は、個別機能訓練加算を算定するうえで必要になります。
目標設定の際は、リハビリ治療者が一人で考えて決めるわけではなく、本当の希望は対象者にしかわからないものです。そのため、初回評価で十分に話し合って決めることが大切です。
また参加の目標を達成できるように、活動と心身機能・身体構造はつながりがなければなりません。1人1人の生活課題を話し合って明確にして、計画と目標を立てられるようになりましょう。
参考
酒井 康輔
作業療法士
作業療法士として2016年より勤務開始。訪問看護ステーション・急性期病院を経験。現在も病院で勤務しており、高齢者から小児まで幅広い年齢層のクライエントに対して作業療法を実践している。臨床業務の傍ら、自身の得た知識を一般の方に届けたいという想いから2021年よりWebライターとして活動を開始。ブログも運営している。作業療法士KousukeのWriter Office
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